
人生100年時代という言葉が定着して久しいが、その長い時間を「自分の足で歩き続けられるか」という問いは、個人のQOL(生活の質)のみならず、超高齢社会・日本の持続可能性を左右する重大なテーマだ。膝の痛みに悩み、既存の保険診療では解決策を見出せずにいる多くの患者たち。その医療の空白地帯に対し、科学的根拠と圧倒的な臨床データで挑む医師がいる。ひざ関節症クリニックグループ理事長、尾辻正樹氏だ。かつては魔法や不透明なものとして見られることもあった再生医療を、誰もが標準的な治療として選択できる社会インフラへと昇華させる。その挑戦の軌跡と、彼が見据える医療の未来図に迫った。
「3分診療」の限界と、取り残された患者たち
日本の整形外科医療は、国民皆保険制度という世界に誇るシステムによって支えられている。しかし、その制度の狭間で、十分な解決策を得られないまま痛みを抱え続ける人々がいることをご存知だろうか。
尾辻
「一般的な整形外科では、膝が痛いと訴えても、レントゲンを撮って『骨には異常ありませんね』『年齢による変形ですね』で終わってしまうことが少なくありません。湿布と痛み止めで様子を見て、それでも痛みが引かなければ、最終的には人工関節の手術を勧められる。保存療法(薬やリハビリ)と手術療法。この二つの間に、有効な選択肢がほとんどないのが現状です」
尾辻理事長は、日本の膝関節治療が抱える構造的な課題をそう指摘する。多くの外来患者を捌かなければならない保険診療の現場では、いわゆる「3分診療」が常態化しがちだ。患者は医師と十分に対話することもできず、ただ痛みに耐える日々を送る。そして、「もう手術しかない」と言われるまで悪化してしまう。この手遅れを防ぎ、手術という身体的・心理的負担の大きな選択を回避するための“第三の道”として、尾辻氏が普及に尽力しているのが再生医療である。

「怪しい」から「科学」へ。4万3400例が示す信頼の証
再生医療とは、患者自身の血液や脂肪から抽出した細胞を利用し、組織の修復や抗炎症作用を促す治療法だ。ひざ関節症クリニックグループでは、血液中の血小板に含まれる成長因子を濃縮・加工したPRP-FD注射や、脂肪由来幹細胞を用いた治療を提供している。
しかし、自由診療であるがゆえに、過去には科学的根拠の薄い治療が高額で提供されるなど、玉石混交の市場であったことも否めない。読者の中にも、「再生医療=最先端だが、少し不安」というイメージを持つ方がいるかもしれない。だからこそ、尾辻氏が何よりも重視してきたのが透明性とエビデンス(科学的根拠)の確立だ。
「新しい治療だからこそ、客観的なデータが必要です。10例や20例の成功体験ではなく、数千、数万という規模のビッグデータを分析し、世界に向けて発信すること。それが、再生医療を『怪しい治療』から『科学的な選択肢』へと変える唯一の方法だと考えています」
同グループが2015年3月の開院以来積み上げてきた症例数は、4万3400例(2025年12月時点)。この数字は単なる実績ではなく、既存の医療に満足できなかった患者たちの切実な声の集積でもある。この膨大な臨床データを解析した研究論文は、世界的な権威である欧州膝関節学会の公式ジャーナル『KSSTA』においても高く評価され、同誌に掲載された論文の中で、特に高い関心を集めた上位10%に選出された。日本のクリニック発のデータが、世界の医学界から注目を集めた瞬間だった。

法整備という追い風をインフラ構築へ
なぜ、日本でこれほどのデータ蓄積が可能だったのか。そこには、世界に先駆けて整備された日本の法規制の存在がある。2014年に施行された「再生医療等安全性確保法」。この法律により、医療機関は専門委員会による厳格な審査と国への計画提出を経て、一定の基準を満たした細胞加工施設と連携することで、適切な管理体制で再生医療を提供できるようになった。
「この法律は、日本のアドバンテージです。海外ではまだ治験段階に留まるような治療が、日本では国の厳格な管理下で、一般のクリニックで提供できる環境が整いました。私たちはこの制度を最大限に活用し、全国13拠点に展開することで、『どこに住んでいても、質の高い再生医療が受けられる』というインフラを築きつつあります」
特筆すべきは、その展開手法だ。単なるフランチャイズ的な拡大ではなく、全院で統一されたプロトコルと品質管理を徹底している。その象徴が、MRI(ペースメーカーなど、磁気の撮影が難しい場合はCTやレントゲン)診断だ。
さらに、触診や徒手検査で実際にひざを動かしながら、あらゆる検査も行っている。一般的な整形外科ではレントゲン(骨の影)のみで診断されることが多いが、同院ではMRI検査を行い、軟骨、半月板、靭帯といった骨以外の組織の状態を詳細に可視化する。
「再生医療は魔法ではありません。関節内の環境が悪化しすぎていれば、効果は期待できない。だからこそ、MRIで受け皿の状態を正確に把握し、効果が見込めない方には正直に『難しい』とお伝えする。それが医療者としての誠実さであり、信頼の基盤です」
利益を優先するなら、希望する患者すべてに治療を行えばいい。しかし、尾辻氏はそれを良しとしない。データの裏付けに基づき、適応を見極める。この、止める勇気こそがサステナブルな医療経営には不可欠なのだ。

地方への展開と医療格差の解消
現在、同グループは大都市圏を中心に展開しているが、尾辻氏の視線は常に地方にも向けられている。
「都市部には多くの選択肢がありますが、地方では依然として『昔ながらの整形外科』しか選択肢がない地域も多い。再生医療という選択肢を、地理的な制約なく届けたいという思いは常にあります」
少子高齢化が進む日本において、膝の痛みを抱える患者は都市部だけに限らない。むしろ高齢化率の高い地方こそ、この治療を必要としていると言えるかもしれない。
「歩ける」ことのサステナビリティ
インタビューの終盤、尾辻氏は改めて対話の重要性を語った。同院では初診の患者に対し、1時間という異例の枠を設けている。医師がパソコンの画面ではなく、患者の目を見て、膝に触れ、生活背景まで聞き取る。
「膝の痛みは、単なる身体の故障ではありません。『このまま歩けなくなるのではないか』という恐怖や、『家族に迷惑をかけたくない』という葛藤がセットになっています。それを受け止め、納得して治療を選んでいただくこと。それがウェルビーイング(心身の健康)の第一歩です」
その真摯な眼差しは、トップアスリートに対しても変わらない。同院は青山学院大学陸上競技部と提携し、箱根駅伝を走るランナーたちのコンディショニングもサポートしている。限界に挑む若者の膝も、人生を重ねた高齢者の膝も、等しく歩く喜びを支える重要なパーツだ。アスリート治療の現場で培われた知見は、日々の診療にも確実に還元されている。
サステナブルな社会とは、誰もが尊厳を持って生き続けられる社会のことだ。自らの足で歩き、好きな場所へ行き、社会と関わり続ける。膝の痛みを和らげることは、そのための移動の自由を守ることに他ならない。
「再生医療を、当たり前の選択肢に」。尾辻氏が目指すのは、単なるクリニックの成功ではない。日本が世界に先行して直面する超高齢社会という課題に対し、医療システムそのものをアップデートし、次世代へと持続可能な形で継承することだ。4万3400例のデータの向こう側に、尾辻氏は生涯現役で輝く人々の未来を見ている。
再生医療の現場から、超高齢社会を支える「歩く自由」の核心まで、ひざ関節症クリニックグループが描く持続可能な医療の未来図を徹底解剖。4万3400人が選んだ“第三の選択肢”を築き上げ、世界標準のエビデンス構築へ挑む尾辻理事長の軌跡は、医療系メディア『ウィズマインド』の特集記事をご覧ください。
特集記事『箱根駅伝の強豪・青山学院大学も認めるリカバリー力。4万3400症例の「ひざ関節症クリニック」が拓く、ひざ治療の新たな地平』
※ウィズマインドは、あなたの悩みに寄り添った美容クリニック・医療機関を発見するために、医師・スタッフの「想い」をお届けするメディアです。
【クリニック情報】
医療法人社団 活寿会 ひざ関節症クリニック
理事長:尾辻 正樹(おつじ まさき)
所在地(横浜院):〒220-0004 神奈川県横浜市西区北幸1-1-8 エキニア横浜 8F 802A
URL:https://www.knee-joint.net/
診療内容: 変形性膝関節症に対する再生医療(培養幹細胞治療やPRP-FD注射など)、MRI診断。
「切らないひざ治療」を専門とし、全国に13拠点を展開するクリニックグループ。MRIによる精密診断と初診1時間の丁寧なカウンセリングを特徴としており、患者様の人生やQOL(生活の質)に寄り添う診療を実践している。PRP-FD注射や培養幹細胞治療などの再生医療において累計4万3400症例以上の実績を持つ。箱根駅伝の強豪・青山学院大学陸上競技部をメディカルサポートするなど、トップアスリートから高齢者まで幅広く「歩く喜び」を支えている。




