
役所広司氏が主演を務め、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞、米国アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた映画『PERFECT DAYS』。
東京の公衆トイレ清掃員の静かな日々を描いたこの名作の背景に、ある企業のブランディングが深く関わっていたことをご存じだろうか 。
モデルとなった清掃会社のリブランディングを手掛け、業界のイメージを一新するきっかけを作ったのが、株式会社HERENGA(ヘレンガ)だ。
新進気鋭のデザインファーム、HRENGAとは
「清掃業=きつい・汚い」というイメージを払拭したいという依頼に対し、彼らは「見せ方」と働く人々の「誇り」を変えるアプローチをとった。
「清掃の現場は実はものすごくカッコよくて、シックなんです。その世界観をWebと映像で徹底的に表現しました」と代表の内山貴之氏は語る。
そこで働く社員の姿をドキュメンタリーのように切り取ったそのクリエイティブは、日本財団関係者の目にとまり、後の映画制作へとつながっていく。
一企業の採用課題解決が、世界的な映画作品のインスピレーションとなり、業界全体のイメージすら変えてしまったのだ。
このプロジェクトを手掛けたHERENGAは、ソニー出身という共通点を持ちながら、全く異なるバックグラウンドを持つ二人の男たちが立ち上げた。彼らは今、「差別化」という古い競争原理を捨て、「個別化」という新たな価値観で企業の課題を解決している。
なぜ彼らは安定した大企業を飛び出し、二人三脚で歩み始めたのか。その原点にある強烈な「個」の物語と、彼らが目指すクリエイティブの未来に迫る。
「差別化」はもう古い。時代が求めるのは「個別化」
「多くの企業が競合との『差別化』を図ろうとします。でも、誰かと比べている時点で、それはもう差別化できていないんです」
開口一番、そう切り出したのは代表の内山氏だ。世の中には似たような訴求、似たようなデザインが溢れ、差別化戦略そのものが飽和状態にある。そこでHERENGAが提唱するのが「個別化(カスタマイズ)」という概念だ。
「僕たちの仕事は、企業や個人が本来持っている固有の価値の解像度を一気に上げ、戦略的に再構築し、最適な世界観で可視化することです」と内山氏は説明する。
HERENGAの事業領域を一言で表すのは難しい。Web制作、動画、SNS広告、インナーブランディング、イベント企画、時には株主総会の演出まで。手段は多岐にわたるが、それは「何でも屋」だからではない。
共同創業者の清水良広氏は、自身の役割を「ブランドパートナー」と定義する。
「パッケージ化された商品を量産してばら撒くのではなく、一社一社に全力で寄り添い、その会社にとって『今、何が最適か』を個別に切り出してチューニングする。それが個別化です。Webが必要と導き出したらWebを作るし、社内の意識改革が必要ならインナーコミュニケーションを設計する。全ては、その企業の本質的な価値を輝かせるための手段なんです」
ソニー出身の異色コンビが生み出す「掛け算」の価値
HERENGAの競争優位性は、組織や人の「本質的価値を発掘する力」と、それを「クリエイティブで具現化する力」の両輪にある。これを支えているのが、内山氏と清水氏という、全く異なる強みを持った二人の存在だ。
内山氏は、ソニーの営業部隊でトップセールスを記録し続け、働きながらMBAを取得。
さらにサラリーマンでありながら、名門ゴルフ場(一般社団法人鷹之台カンツリー俱楽部)のクラブチャンピオン(最年少記録)に輝くという、圧倒的な行動力とビジネスセンスの持ち主だ。
一方の清水氏は、武蔵野美術大学映像学科を首席クラスで卒業し、学生時代から映像作家として活躍し映像関連事業を事業譲渡。ソニーにはデザイナー枠で入社し、投資やコーディング、経営の知識も併せ持つ異才のクリエイターである。
「僕らは二人とも、自分自身を『再構築』し続けてきました。ソニー社員は11万人、MBAホルダーも5万人いる。肩書きだけで戦えば埋没してしまう。だからこそ、複数の強みを掛け合わせて『ライバルがいない状態』を作ってきたんです」と内山氏は語る。
ビジネス視点で戦略を描く内山氏と、圧倒的な技術と感性でアウトプットを生み出す清水氏。二人が出会ったのは、ソニーで半日一緒だっただけだという偶然も興味深い。
「1+1が2になる足し算ではなく、ちょっと視点を変えるだけで3×3で9になるような掛け算が生まれる。それがHERENGAの強みです」
本質を突き、最適解を導き出す「個別化」の実践
彼らの「個別化」の手腕は、様々なプロジェクトで発揮されている。 例えば、大手たばこメーカーとのプロジェクト。
「社内の部署を宣伝したい」という漠然としたオーダーに対し、彼らはヒアリングを重ね、「自分たちの活動が会社に利益をもたらしていることを伝え、他部署との接点を創出し仲間を増やしたい」という本質的な課題を抽出した。
その解決策として、単なるポスターや映像制作ではなく、社内SNSを活用したメディア展開を提案。社員やプロジェクトを魅力的に取材・撮影し、世界中の支社内のサイネージで上映。
自分たちの色を乗せたコンテンツは、社内ポータルで他部署を圧倒する閲覧数やエンゲージメントを記録し、組織の士気向上にも貢献している。
また、大手旅行会社とのお取引では、顧客側の事情に合わせてデザインソフトではなくPowerPointでのデザイン納品に対応する、社内のセキュリティ基準を深く理解したWeb制作や保守体制の構築など、柔軟な姿勢が評価された。
その結果、口コミで評判が広がり、現在では9つもの事業部と取引をし、Webサイトを2023年から現在に至るまで制作数日本一にするまでの信頼関係にまで深まっている。
「『どうにかいい感じにしてくれそう感』があるんだと思います。相談を投げ込めば、何かしら面白いご利益が返ってくる。そんな賽銭箱のような存在になれつつあるのかもしれません」と清水氏は笑う。
挫折と再構築。二人の原点にある物語
なぜ彼らは、そこまでして「個」の価値にこだわるのか。その背景には、それぞれの痛烈な原体験がある。
内山氏の原点は、実家の呉服問屋の倒産と、自身のラグビー経験にある。
「不自由のない家庭から一転、生活の形が変わり、何回も引っ越しを経験しました。会社の上に住んだこともありました。亡き父を超えたい、恩返しがしたいという思いが、ビジネスやゴルフでの『一番』への執着につながっています」
また、大学時代にニュージーランドへ単身ラグビー留学をした経験が、彼の人格形成に大きな影響を与えている。
「英語も喋れず、体も小さい。最初は相手にされませんでしたが、誰よりも早く練習に行き、誰よりも遅く残ることで、言葉を超えた信頼を勝ち取り、U21ウェリントン州代表候補にまで選出されました。ラグビーは15人、体の大きな人もいれば小柄な人もいる。全く違う個性が集まって一つのチームになる。一人じゃできないことを、自分にない能力を持つ仲間と成し遂げる。それがHERENGAの根幹にある精神です」
一方、清水氏の原点は中学時代の卓球での敗北だ。
「市民大会では優勝常連でしたが、最後の大会で転校生の選手にボコボコにされたんです。それが人生最大の挫折でした。僕も努力していたつもりだが、彼はもっと努力していた。上には上がいる。だからこそ、母数が少ないフィールド、自分が勝てる場所を能動的に探しに行こうと決めたんです」
美大時代、周囲が一眼レフカメラを買う中で、清水氏はあえてスタビライザーやドローンといった周辺機材に投資した。「カメラを持っている人」は多いが、「特殊機材を扱える人」は少ない。
その戦略が功を奏し、「機材の人」として認知され、CGやアニメーションのスキルも掛け合わせることで学生時代から多くの仕事が舞い込むようになった。
在学中にクリエイター支援奨学金制度(クマ財団)に選出いただいたり、国立局地研究所や観光庁、セブンイレブンやMicrosoftのCMやプロジェクトを手がけることができた。
「自分が最も強みを生かすことのできると感じる個性を掛け合わせて、唯一無二の存在になる。そうすると個々では1番といえなくてもトータルで有利になる。そのマインドセットは今も変わりません」
「絆」が生み出す、自立したプロフェッショナル集団へ
社名の「HERENGA(ヘレンガ)」は、マオリ語で「絆」を意味する。内山氏が留学していたニュージーランドの言葉だ。
「ソニーという11万人の会社で、たまたま出会った二人。その奇跡的な縁を大切にしたい。そして、お客様とも、一緒に働く仲間とも、そういう絆で結ばれたいという思いを込めました」
HERENGAの組織のあり方もユニークだ。目指すのは、会社に依存する従業員ではなく、自立したプロフェッショナルの集合体。
「お互いに依存しすぎず、個としての能力を高めた上で、一緒にやったほうが確度が高いし面白いから組む。そういうクリエイティブ集団でありたい」と清水氏は語る。
内山氏は「10年後、笑ってさよならと言えるくらい、それぞれが成長していたい」と語る。それは冷徹さではなく、互いの可能性を信じているからこその言葉だ。
清水氏には、将来、自己資金で若手クリエイターやベンチャー企業を支援するファンドを作りたいという夢がある。
「障壁があって前に進めない人の、視界がパッと開ける瞬間を見るのが好きなんです。資金やブランディング、デザインの力で、その突破口を開くお手伝いがしたい」
感謝と恩返しを胸に走り続ける熱きラガーマンと、冷静な戦略眼を武器にするクリエイター。
全く違う二人が織りなす「HERENGA」という絆は、これからも多くの企業の「らしさ」を掘り起こし、世の中に新しい景色を見せてくれるに違いない。
彼らが扱うのはデザインや映像といった「ツール」だが、実際に見つめているのは、その先にあるクライアントの「誇り」であり、「未来」なのだ。

【企業情報】
株式会社HERENGA
「個別化」をテーマに、ブランディング、Web・動画制作、イベントプロデュース、システム制作、M&A仲介など、企業の課題解決に向けたトータルソリューションを提供。本質的な価値の発掘と、戦略的なクリエイティブで、数々の企業の変革をサポートしている。



