
国内に眠る膨大な遊休資産をいかに社会へ還元するか。着物の「保管」と「開放」を両立させた独自のビジネスモデルが、地方創生ファンドの呼び水となった。文化の継承と経済合理性をいかに両立させるのか。
国内3,000万点の「眠れる資産」に着目。地方創生ファンドが動いた理由
現在、国内には約3,000万点もの着物が未活用のまま「眠っている」とされる。かつては家財の象徴であった着物も、ライフスタイルの変化により、現代では管理の重圧がのしかかる「負担」へと変質してしまった。
こうした構造的課題に対し、大分県別府市に本社を置く株式会社クラフトマンシップは、着物預かり・シェアリングサービス「KIMONO CLOSET(キモノクローゼット)」の展開を加速させるべく、豊和銀行らが設立した「ほうわ創業・事業承継支援ファンド」より資金調達を実施した。オンラインによる利便性を軸に、地域に根ざした対面型の「お世話拠点」を構築するという。デジタルとアナログの融合は、地方における新たな文化インフラの形を提示している。
「所有」したまま「社会に開く」。既存の買取・レンタルと一線を画す独自性
同社のモデルが他社の古着転売やレンタル業と一線を画すのは、所有者の「所有権」と「愛着」を維持したまま、資産を社会へと開放する点にある。
特に親や祖母から着物を受け継いだ50代前後の女性にとって、処分の決断は容易ではない。同社はプロによる適切な保管という「安心」を提供しつつ、その着物を第三者のハレの日にシェアする仕組みを構築した。所有者は管理の負担から解放されるだけでなく、自身の愛着ある一枚が他者の喜びを創出するという、金銭に代えがたい「情緒的報酬」を享受する。この心理的ハードルを越える設計こそが、同社の最大の特徴である。
「守る」と「変える」の両輪。清水代表が掲げるサステナブルな文化承継
この事業の根底には、代表取締役のリヴィア清水夏子氏が抱く「着物文化を途絶えさせない」という強い信念がある。
「着物は単なる衣類ではなく、職人の技術と家族の想いが込められた資産。守るだけでも、変えるだけでも足りません」と清水氏は語る。
同社は、保管とシェアによって文化の「型」を守る一方で、活用が困難な素材についてはラグジュアリーブランド「DAIDAI(ダイダイ)」を通じて、バッグやジャケットへと昇華させている。別府の伝統工芸である竹細工と帯を組み合わせたアートピースへの転換は、伝統を現代の文脈に翻訳する作業に他ならない。投資を決断したミライドアの本田勇人氏は、清水氏との1年以上にわたる対話を経て、「一貫した熱い想い」が事業の着実な成長を支えていると確信したという。
潜在資産を「文化資源」へ再定義する。ビジネスパーソンへの示唆
クラフトマンシップ社の挑戦は、一産業の枠を超え、現代のビジネスパーソンに重要な示唆を与える。それは、遊休資産を「負債」ではなく「資源」として再定義する視点だ。
多くの企業が、活用されていない既存資産をコストとして切り捨てがちである。しかし、そこに「物語」や「職人技術」という文脈を編み込み、新たな経済循環の中に配置し直すことができれば、それは世界に通じる高付加価値ブランドへと変貌を遂げる。
地方からグローバル市場を見据える同社の歩みは、人口減少や伝統産業の衰退に悩む日本において、持続可能なビジネスモデルを構築するための有力な指針となるだろう。



