
大阪市浪速区の人気ラーメン店「王道家直系 我道家 OSAKA本店」に、店主名義で約3万1000円分のピザが一方的に届けられる事件が起きた。嫌がらせ行為の背景には、訪日外国人観光客のマナー崩壊と、それを巡る歪んだ批判構造がある。
ピザ大量注文という「嫌がらせ」 明確に業務妨害の領域へ
16日午前11時頃、大阪市浪速区の王道家直系 我道家 OSAKA本店に、店主名義で約3万1000円分のピザが一方的に届けられた。注文の事実はなく、第三者によるなりすまし注文とみられている。
この行為が悪質なのは、標的となった店舗だけでなく、配達を担ったピザーラ側もまた、意図せず業務妨害に巻き込まれている点だ。虚偽の注文に基づき、調理、人員配置、配達車両が割かれれば、他の正規客への対応に遅れが生じる。結果として、無関係な企業と利用者にまで被害が及ぶ構図となる。
店側は、ピザーラの領収書画像を公式Xで公開し、警察に事情を説明していることを報告した。SNSでは「完全な嫌がらせ」「立派な業務妨害」「ピザ店も被害者だ」との声が相次ぎ、行為の悪質性を問題視する反応が広がった。
批判や抗議の意思表示が許されるとしても、それは言論や正当な手段に限られる。なりすましによる大量注文は、飲食店の業務を直接妨げ、取引先にまで迷惑を及ぼす行為であり、議論や批評の範疇を完全に逸脱している。
今回の事案は、怒りや不満が歪んだ形で暴発した典型例だ。意見表明と嫌がらせの境界線を踏み外した瞬間、行為は社会的な批判対象から刑事責任が問われる領域へと転じる。その現実を、改めて突きつける出来事となった。
訪日外国人のマナー崩壊 飲食現場が直面する現実
今回の事件の根底には、訪日外国人観光客のマナー崩壊という深刻な問題がある。
無断撮影、撮影禁止の無視、行列への割り込み、大声での会話、説明を聞かずに不満をぶつける行為。こうした振る舞いは、飲食店の現場ではもはや珍しくない。
特に目立つのが、日本の商習慣やサービス文化を尊重しようとしない態度だ。注文内容を理解しないまま商品を受け取り、完食後に返金を求める、あるいは「高すぎる」と声を荒らげる事例も各地で報告されている。
王道家直系 我道家 OSAKA本店でも、今月4日、中国人客がラーメンを完食した後に返金を求める騒動が起きた。オープン以来初めての出来事だったというが、店側にとっては象徴的な一件だった。食べる前に確認する、納得できなければ注文しない。そうした最低限の常識が通用しない場面が増えている。
価格差は差別か 現場が選んだ「防衛的な対応」
同店は、日本語のほか英語、韓国語、中国語に対応した券売機を導入している。日本語画面ではラーメンは1千円程度だが、英語など外国語表記では2千円台前後となっていた。この価格差が「外国人差別ではないか」とSNSで拡散された。
しかし店主の新井悠介さん(38)は、「差別ではなくプレミアムだ」と明確に否定する。外国人向けには味付けを調整し、日本人でも好みが分かれる豚骨のクセを抑え、トッピングを増やすなど仕様を変えている。「2倍の手間をかけている」という言葉は誇張ではない。
外国語での説明対応にも時間と人手が必要だ。同店の利用客の約9割は日本人で、少数の外国人客への対応が現場に負担をかけている現実がある。価格設定は、そうした負担を吸収するための防衛的措置とも言える。
「二重価格」批判が覆い隠す現場の疲弊
提供する商品仕様が異なる以上、厳密には同一商品に異なる価格を付ける「二重価格」とは言い切れない。それでもSNSでは、「外国人を狙い撃ちしている」「日本の恥だ」といった過激な批判が飛び交った。
だが、その多くは現場の実情を無視した議論だ。説明すれば納得してきた従来の対応が、マナーを欠いた一部の訪日客によって破壊されつつある。価格設定そのものよりも、異文化を尊重しない振る舞いが問題を肥大化させている。
批判が先鋭化する中で、実店舗への嫌がらせにまで発展した今回の事件は、議論が健全さを失った結果とも言える。
インバウンド拡大の影で問われる線引き
訪日客の増加を背景に、二重価格導入を模索する動きは各地で広がっている。沖縄県の大型テーマパーク、ジャングリア沖縄は、国内在住者と訪日客で異なる料金設定を採用した。
京都市でも、市バスや地下鉄を地元住民が安く利用できる「市民優先価格」が検討されている。観光客増加により、市民生活が圧迫されている現実があるためだ。
訪日客を受け入れることと、無制限に振る舞いを許すことは同義ではない。今回のピザ大量注文事件は、外国人観光客のマナー問題と、それに対する社会の線引きが限界に近づいていることを示している。



