
午後の校長室に入った職員が感じ取ったのは、誰もがすぐに気づくほどの、はっきりとしたアルコールのにおいだった。
子どもたちの学びを見守るはずの学校。その最高責任者である校長が、勤務時間中に校長室で酒を口にしていた。福島市立平田小学校で明らかになったこの事実は、教育現場に大きな衝撃を与えた。
子どもたち、保護者、そして教職員の信頼を揺るがした一件は、教育現場の「管理」と「責任」の在り方を、改めて突きつけている。
校長室に残された缶チューハイ 現場で何が起きていたのか
福島市立平田小学校で明らかになったのは、勤務時間中の校内飲酒という、教育現場では考えがたい行為だった。机の下から見つかったのは、500ミリリットルの缶チューハイ2本。1本は空、もう1本は飲みかけだった。
職員からの報告を受けて市教育委員会が確認した時には、残っていたはずの缶も空になっていた。校長はその後、飲酒を認め、「軽い気持ちだった」と説明したという。
この問題で、福島県教育委員会は女性校長(57)を停職12カ月の懲戒処分とした。
「酒のにおいがする」情報は以前から 9回の指導の実態
問題は、10月の一件だけではなかった。
福島市教育委員会によると、2024年以降、市教委は学校への訪問指導を8回、教育委員会への呼び出しを1回行っていた。きっかけは、「校長からアルコールのにおいがする」という複数の情報だった。
職員会議やPTA総会での居眠り、児童を大声で叱責する場面も確認され、そのたびに勤務態度の改善や飲酒の自粛を求めてきた。しかし、是正はされなかった。
福島中央テレビによると、市教委は「再三の指導にもかかわらず改善が見られなかった」と説明している。
保護者の間に広がっていた不安 「うわさ」は現実だった
夕方、門扉が閉ざされた学校を前に、保護者の表情は硬い。
「以前から、酒の臭いがするという話は耳にしていた。処分を聞いて、正直少し安心した」。
一方で、「純粋な子どもたちの学びの場で、勤務中に飲酒するなんて許せない」という怒りもにじむ。
小規模校だからこそ、校長の存在は大きい。その最高責任者の不在、そして不祥事は、学校全体に重い影を落とした。
問われるのは校長個人か、それとも組織か
今回の処分を受け、市教委は謝罪し、教頭を職務代理者とするなどの対応を検討している。しかし、9回もの指導が行われながら、結果として飲酒が止められなかった事実は重い。
勤務中の飲酒という明確な規律違反に対し、なぜ早期により踏み込んだ措置が取れなかったのか。
校長個人の問題にとどまらず、教育委員会の管理体制や、問題行動への初動対応の在り方が、いま厳しく問われている。



