
国民健康保険(国保)は、「保険料が高い」「社会保険の方が有利」と語られることが少なくない。一方で、厚生労働省は子育て支援の一環として、国保の保険料軽減措置を高校生年代まで拡大する方針を示した。なぜ国保は割高に見えやすいのか。社会保険との違いはどこにあり、今回の制度改正で何が変わるのか。子育て世帯が利用できる支援制度とあわせて、仕組みを整理する。
国民健康保険とは何か
自営業者やフリーランスらが加入する国民健康保険(国保)について、厚生労働省は保険料の軽減対象を拡大する方針を固めた。時事通信によると、同省はこれまで未就学児に限っていた均等割の軽減措置を「高校生年代まで」に広げる案を社会保障審議会の医療保険部会に示し、大筋で了承された。来年の通常国会に関連法案を提出し、施行は2027年4月を見込む。子育て支援を強化する取り組みの一環として位置づけられている。
国保と健康保険(健保)は、いずれも公的医療保険制度を構成する柱だが、加入の仕組みや保険料の決まり方は大きく異なる。国保は市区町村が運営し、自営業者やフリーランス、退職者などが加入する。一方、健保は企業で働く人とその家族が対象で、運営主体は健康保険組合や協会けんぽなどが担う。雇用先の有無が、加入区分を分ける境界となっている。
国保の保険料は、世帯人数に応じて課される「均等割」と、所得に応じて算定される「所得割」などを組み合わせて決まる。均等割は子どもの人数が増えるほど負担が重くなる構造であり、子育て世帯の家計を圧迫してきた。このため政府は2022年4月から、未就学児分の均等割の半額を国と自治体が負担する軽減措置を導入している。
「国保の方が高い」と言われる理由
国保については、「保険料が高い」「加入できるなら社会保険の方が良い」と比較されることが多い。そこには、制度の仕組みに由来する明確な理由がある。
第一に、国保は保険料を全額自分で負担する制度である点が大きい。健保では、保険料を会社と本人がおおむね折半して支払う。一方、国保には雇用主がいないため、保険料の全額を加入者自身が負担することになる。この違いだけでも、負担感に差が生じやすい。
第二に、世帯人数が増えるほど保険料が上がりやすい。国保では、加入者1人ごとに均等割が課されるため、子どもの人数が多い世帯ほど負担が積み上がる。会社員の健保では、子どもが増えても保険料が直接増える仕組みではない。
第三に、加入者の構成が異なる。国保には高齢者や自営業者など、医療費がかかりやすい層や収入が不安定になりやすい層が多く含まれる。このため、制度全体として医療費水準が高くなり、保険料も上昇しやすい。
さらに、給付内容の違いも影響している。健保には、病気やけがで働けなくなった場合の「傷病手当金」や、出産で休業した期間に支給される「出産手当金」など、収入減少を補う制度がある。一方、国保は原則として医療費の給付が中心で、こうした所得補償は設けられていない。
これらの要因が重なり、国保は「高く見えやすく」、健保は「負担の割に手厚い」と受け止められやすい構造になっている。
国保と健保の違い(概要)
公的医療保険制度は全国民を対象としているが、加入区分は働き方によって分かれる。国保は地域住民を基盤とする制度であり、健保は企業に雇用される人を基盤とする制度である。保険料の算定方法や給付内容の違いが、それぞれの制度の性格を形づくっている。
国保と健保の比較表(まとめ)
| 項目 | 国民健康保険(国保) | 健康保険(健保) |
|---|---|---|
| 加入対象 | 自営業者、フリーランス、退職者など | 企業に雇用された人とその家族 |
| 運営主体 | 市区町村・国保組合 | 健康保険組合・協会けんぽ |
| 保険料の負担 | 加入者が全額負担 | 会社と本人でおおむね折半 |
| 保険料の算定 | 均等割+所得割 | 給与に応じた一定率 |
| 給付の特徴 | 原則として医療給付のみ | 医療給付に加え傷病手当金など |
| 財政の特徴 | 高齢者割合が高く財政が厳しい | 比較的安定した財政基盤 |
高校生年代までの軽減措置拡大で何が変わるか
均等割は子どもの人数に比例して負担が増えるため、子育て世帯にとって重い負担となってきた。今回の拡大案が実現すれば、高校生年代までの子どもについて均等割の半額が公費で補われる。複数の子どもを養育する世帯では、年間で数万円規模の負担軽減となる可能性がある。
一方、国保は市区町村が運営しており、保険料水準や医療費構造には地域差がある。軽減措置の効果にも差が出る可能性があり、公費負担のあり方や自治体間の調整は今後の課題となる。
子育て世帯が利用できる主な制度
国保の軽減措置以外にも、子育て世帯を支える制度は複数用意されている。医療、所得、教育といった分野ごとに支援策が設けられている。
児童手当
子どもを養育する世帯に支給される現金給付で、制度改正により高校生年代まで支給対象が拡大され、所得制限も撤廃された。
出産育児一時金
出産に伴う費用負担を軽減するための一時金で、公的医療保険に加入していれば支給される。
子ども医療費助成
自治体が独自に実施する医療費助成制度で、対象年齢や所得制限の有無は地域ごとに異なる。
国保・均等割軽減措置
国保加入児童の均等割を軽減する制度で、現在は未就学児が対象だが、高校生年代まで拡大する方針が示されている。
保育料の無償化
3歳から5歳の保育・幼児教育の利用料が無償化され、0歳から2歳も住民税非課税世帯は対象となる。
就学援助制度
学用品費や給食費など、学校生活に必要な費用を自治体が補助する制度で、低所得世帯が対象となる。
子育て支援制度の比較表(まとめ)
| 制度名 | 制度概要 | 受給資格 | 対象年齢 |
|---|---|---|---|
| 児童手当 | 子育て世帯への現金給付 | 子どもを養育する保護者 | 0歳〜高校生年代 |
| 出産育児一時金 | 出産費用の補填 | 公的医療保険加入者 | 妊娠・出産時 |
| 子ども医療費助成 | 医療費の自己負担軽減 | 自治体基準による | おおむね0歳〜中学・高校生 |
| 国保・均等割軽減 | 国保保険料の負担軽減 | 国保加入世帯 | 未就学児〜高校生年代(予定) |
| 保育料無償化 | 幼児教育・保育費の無償化 | 所定条件を満たす世帯 | 0歳〜5歳 |
| 就学援助 | 学校関連費用の補助 | 低所得世帯 | 小学生・中学生 |



