ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

EMIELD株式会社(エミールド)

https://www.emield.com/

〒530-0027 大阪市北区堂山町1-5三共梅田ビル7階

06-4397-4152

「サステナ疲れ」の時代に火を灯す女性 EMIELD森優希が仕掛ける“本業で解くサステナ”という新路線

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
リンクをコピー
EMIELDの森社長
森優希さん(提供:EMIELD、以下同)

大阪・中之島の会議室には、熱と倦怠が入り混じった空気が漂っていた。

ホワイトボードには「ネイチャーポジティブ」「TNFD」「地域共創」などの概念が書き込まれているが、担当者たちの表情にはどこか疲労が滲む。SDGs疲れ、ESG疲れ。

さらにトランプ政権復活後の反ESGムードが世界の潮目を変えつつあり、企業の開示領域は後退し、担当者は「どこまで本気で力を入れるべきなのか」判断に迷い始めている。

だが、その空気に飲まれず、むしろ淡々と議論の中心に立ち続ける女性がいた。

EMIELD株式会社の代表取締役、森優希。現場で課題を“実装”してきた経験と姿勢で信頼を集める人物だ。アフリカのストリートチルドレン支援に始まり、自治体、大学、企業を横断しながら、社会課題を事業として解く取り組みに挑んできた。

彼女は静かに言った。「サステナビリティは、企業が余裕のあるときだけやるものではありません。本業を強くしたいのなら、向き合わざるを得ないテーマなんです」。

その言葉は会議室の倦怠をわずかに振り払い、議論は再び動き始めた。

 

「本業で解くサステナ」を掲げるEMIELDとは何か

研修風景
研修風景

エミールドは、2021年設立、サステナビリティ経営を支援する事業を展開するが、一般的なコンサル会社とは異なる。

大学やNPO、自治体の専門家と企業を結びつけ、課題を現場で見て、聞き、触れることからスタートする。「きれいな報告書づくりには興味がないんです」と森社長は語る。

「企業のビジョンの達成につながるのか、現場が抱える課題が本当に解けているのか。そこにしか価値を見出していません」。

企業の存在意義を言語化するパーパス策定から、事業の再設計、社内浸透、若手育成まで幅広く扱うが、そのすべては“一気通貫”であることが特徴だ。サステナは本業に埋め込まれてこそ意味を持つという信念が、エミールドを貫いている。

伊藤忠建材のパーパスを育てた「3年の対話」

東京大学千葉演習林×EMIELD株式会社 伊藤忠建材様への研修プログラム
東京大学千葉演習林×EMIELD株式会社 伊藤忠建材様への研修プログラム

エミールドの仕事ぶりを象徴するのが、伊藤忠建材株式会社とのパーパスプロジェクトだ。同社は連結年商3,766億円(2025年3月時点)、1961年設立の建材商社で、環境配慮型ブランド「地球樹」を業界に先駆けて展開してきた企業である。

「会社が大きいか小さいかではなく、信頼できる人と仕事がしたい」。関野博司社長は、パーパス策定のパートナーにエミールドを選んだ理由をそう語っている。森社長の誠実な姿勢と、専門性と情熱を兼ね備えた提案力が決め手だったという。

プロジェクトは最初、森林や木材領域を中心にした案から進み始めた。しかし議論を重ねるうち、建材という幅広い事業と社員全員が向き合える内容へと自然に形を変えていった。

森社長は「最初の案から変化していったのは、メンバーの議論が深まった証拠だと感じました。『もっと考えたい』とプロジェクトメンバーから自発的に声が上がったのはとても印象的でした」と振り返る。

このプロジェクトが特異だったのは、数カ月で終わるものではなく、社員の“働く意義”のレベルまで落とし込む長期設計だったことだ。部署、課、室、自分自身。

組織の階層がすべて存在意義に沿って動く未来を描く。その道筋を、エミールドが寄り添いながら磨いていった。

 

介護を“地域の文化”に変える 豊中市との挑戦

EMIELDの豊中市とのイベント

企業だけでなく、自治体との連携でもエミールドは結果を出している。大阪府豊中市の介護保険事業者連絡会(約216法人・473事業所、2025年11月現在)と取り組むのが、「会釈のできる地域づくり」という独自のテーマだ。

豊中市では高齢化が進み、人材不足が深刻化していた。介護施設は「閉ざされた場所」というイメージもあり、地域との距離が生まれていた。

この状況を変えようと、森社長らが設計したのが「リアルハブ」だ。介護施設を地域に開き、子ども向けイベントや食の交流などを通じて、地域の人々が自然と足を運べる場をつくる。

2024年10月~2025年10月までに72回実施され、865名が参加した。

参加者に行ったアンケートのうち約7割が、「介護への印象が変わり、良くなった」という回答をしており、介護との接点がなかった学生や主婦、地域の人々がジブンゴトとして介護を考えるきっかけにもつながった。

プロジェクトの背景には、「会釈という小さな行動が地域の心理的安全性を支える」という思想がある。

知らない人や場所を遠ざけない“関わりの土壌”をつくることで、介護を“サービス”ではなく“文化”として根付かせていく。現場を歩き続けてきた森社長らしい視点だ。

この取り組みをともに進めてきた豊中介護保険事業者連絡会の村上会長は、「一言で言えば、『この思いを預けられる場所が見つかった』という感覚です」と語る。

やりたいことを否定せず、受け止め、柔軟に整理し、「それならこうすれば面白いですよ」と未来を一緒に描いてくれる姿勢が決め手になったという。「これはもうエミールドさん一択だなと感じて、ご依頼させてもらいました」と率直に述べている。

エミールドが目指すのは、行政と住民、介護現場をつなぎながら、地域に新たな文化を育てることだ。その挑戦は、介護の未来のかたちを静かに書き換えつつある。

大阪府と進めるネイチャーポジティブ実装という新領域

EMIELD

近年、企業の注目が高まっているのが自然資本の再生、いわゆるネイチャーポジティブである。

エミールドは2025年12月5日より、大阪府みどり企画課と事業連携協定を組み、企業のネイチャーポジティブ推進をテーマにした「共創ラボ」、ウェルビー・ミーティングを立ち上げた。

サステナ担当者が孤立しない“共に育つ場”として、企業・行政・専門家がセクターを超えてつながり、対話を通じて事業や活動を生み出す「共創プラットフォーム」のようだ。

2026年度内には、東京での開催も予定している。

その森の現場で、エミールドの「ソーシャルパートナー」として伴走しているのが、東京大学 大学院農学生命科学研究科 附属演習林 森林流域管理学研究室の蔵治光一郎教授だ。

水や森林の研究者として知られる蔵治教授は、ある企業の「水を守る」をテーマにしたプロジェクトで、エミールドから突然届いた1通のメールが出会いのきっかけだったと笑う。

「普段からいろんなメールが来ますから、最初は『何者だろう』と思いました。でも、話していくうちに“社会課題を本気で解決したい”という姿勢が伝わってきた。この人と組めば、なかなかこちらを向いてくれない企業も動かせるかもしれないと思った」と振り返る。

蔵治教授が共感したのは、森社長が“グリーンウォッシュ”とは一線を画したいと語っていた点だ。森林や水の世界では、これまでも企業による表面的な関わりが少なくなかった。

「木を植えた、何本伐った、CO₂をどれだけオフセットした、といった数字だけが一人歩きしても、山の過疎や高齢化、林業現場の疲弊は解決されない」と教授は指摘する。

木材だけを資源として見て、どこで誰が切り出しているのかを想像しないまま使い続ける構造のままでは、いずれ“使う側”の持続可能性も失われるという危機感がある。

だからこそ、「現場と科学の知見と企業」をつなごうとするエミールドのアプローチに、研究者としてのやりがいを感じたのだという。

「いまご一緒している企業では、最初はこちらの話にポカンという反応でした。でも半年ほど議論を続けるうちに、会社を挙げて本気で取り組もうという空気に変わってきた。アプローチ次第で、企業のベクトルは本当に変わり得るんだと実感しています」と蔵治教授は語る。

森社長自身も、「企業価値への転換を学び、悩みを共有し、協業の可能性を探り、地域課題に対して何ができるかを対話する場を構想しています」と強調する。 企業、大学、行政が一緒に森に入り、現場で議論し、実装まで伴走する。

「名刺交換だけで終わる連携にはしたくありません。テーマに向き合い、実際に手を動かす場を作りたい」(森社長)。

 

森優希という人物を形づくった原点

EMIELD 森さんのタンザニア時代の写真
タンザニア時代の写真

森社長の行動力には強い原体験がある。小学6年生の頃、テレビで見たアフリカの子どもたちの映像がすべての始まりだった。「当たり前に学校に通えて、当たり前にご飯がある。その当たり前がどれほど尊いのかを知りました」と語る。

中越地震でのボランティア参加。大学で訪れたタンザニアのストリートチルドレン。50名規模の学生団体を率いた経験。病気、入院、父の死。「寄り添うこと」の意味を噛みしめながら生きてきたことが、彼女の語り口に静かに滲む。

森社長は「誰かが明日も前を向いて生きてみようかと思える社会をつくりたい」と話す。

サステナの“潮目”を変えていきたい

SDGs疲れが現場を覆い、ESGの揺り戻しが企業の姿勢を鈍らせつつある今、それでも“本業で解くサステナ”に向き合う企業は着実に増えている。

大学、NPO、自治体、企業、地域。多様な主体の間に実装の橋をかける存在として、エミールドの役割は大きくなっている。

森社長はこう締めくくった。 「大きなことはできなくても、今日誰かが少し笑顔になれば、それが変化の始まりなんです。企業や地域に広がっていく。その積み重ねが社会を変えると思っています」。

サステナ疲れの時代にあって、その火を小さくても確かに灯し続ける人がいる。その火は静かだが強い。

Tags

ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。株式会社東洋経済新報社ビジネスプロモーション局兼務。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

関連記事

タグ

To Top