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AIで“死者と話す”時代へ。デジタルゴーストは癒しか、それとも冒涜か

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デジタルゴースト
DALL-Eで作成

薄い光が差し込む葬儀会場。
静寂に包まれたその場所で、祭壇横のスクリーンが突然明るくなり、すでに亡くなったはずの人物が、生前と変わらぬ声で参列者に語りかけた。

映し出された姿は、生成AIが“死後”に作り上げたもうひとりの故人だった。

いま世界では、AIによって「死者と再会する」技術が急速に広がっている。
遺族の心を支える新しい弔いなのか。それとも、悲しみを長引かせる危険な技術なのか。

揺れる現場の声とともに、その最前線を追う。

 

 

葬儀の場で起きた死後の挨拶

葬儀の終盤、参列者が静かに席に着いている中、スクリーンがふいに光を放った。

映し出されたのは、すでに亡くなっている人物の顔。
かすかに微笑みながら、生前の声でゆっくりと話し始める。

「今日は私のために集まってくれて、本当にありがとう」

その言葉が会場に響いた瞬間、あちこちから息をのむ音が聞こえた。
表情も声の調子も、生前のイメージにきわめて近い。涙をぬぐう参列者もいた。

しかし、映像は生前に撮られたものではない。
数分の映像と写真、そして家族が考えた文章をもとに、葬祭関連の企業が生成AIで再構築したAI故人だった。

家族の1人は話す。

「本人が最後に伝えたかった“ありがとう”が、こうして形になったのだと思いました」

亡き人が語るはずのない言葉を届ける。
人とAIの境界を揺らす場面だった。

 

世界で広がる、死者と対話する技術

同じような動きは世界でも加速している。

日々残されていく写真、動画、メッセージ、音声データ。
これらをAIに学習させることで、故人の声や話し方、口癖、価値観までも推測し、生きていたならこう話すだろうという応答を再現する技術が登場した。

ある開発関係者は言う。

「AIは奇跡ではなく計算です。
故人のデータをもとに、もっともらしい返答を予測しているにすぎません」

しかし、その「もっともらしさ」が、人の心を強く揺さぶる。
声が似ていれば似ているほど、懐かしさは痛みにも近づいていく。

国内のIT企業も、故人の言葉や癖を学習した対話型のAI提供を始めた。
写真や音声、文章データを与えることで、スマホ越しに故人と会話できるようになる。

依頼の多くは亡くなった家族を再現したいというものだが、最近は「自分が亡くなった後、家族が寂しくないように」と自分自身をAI化して残す終活型の依頼も増えているという。

人類はついに、死者と対話できる社会の入り口に立ち始めた。

 

“癒し”か“依存”か?揺れるグリーフケアの現場

この技術は本当に遺族の救いになるのか。
それとも、悲嘆をこじらせるのか。

心の専門家の間でも意見は割れている。

死別の悲しみが薄れる過程では、
故人との内面的な関係を少しずつつくり直していく時間が重要とされる。
夢に見たり、心の中で語りかけたり、手紙を書いたりすることで、やがて痛みが和らいでいく。

その一方で、AIがいつでも優しく応答してくれる存在になれば、遺族が悲しみと向き合うタイミングを失い、依存につながる可能性があるという指摘もある。

遺族の声にも揺れがある。

「最後の会話が叶った気がした。心が軽くなった」
「本物じゃないと分かっていても、つい頼りたくなる自分が怖い」
「違和感を覚える瞬間に、むしろ故人を強く思い出した」

万能の癒しではないが、禁じられた処方箋でもない。そのあいだに揺れる技術だ。

 

死者の尊厳をどう守るか?法とモラルの追いつかない現実

AIによる故人の再現が広がる中で、最も懸念されているのが、法的な枠組みと倫理の遅れだ。現在の国内には、亡くなった人の人格や肖像の扱いを明確に定めた法律がほぼなく、本人の同意がないまま誰かがAI故人を作成しても、現状では止める手段が乏しい。

専門家は「意に反した発言をAIで勝手に作られれば、故人の尊厳は簡単に損なわれる」と警告する。

海外ではすでに、事件の被害者をAIで再現し、法廷で本人のように語らせた例も報告されている。映像の説得力が大きいだけに、陪審員や裁判官がAI生成情報に影響され、公正さが揺らぐ可能性も指摘されている。事実ともっともらしい演技の境界は、予想以上に曖昧だ。

今後は、死後のデータを誰が管理するのか、AIが作った遺言やメッセージを法的にどう扱うか、遺族が望まないAI化が行われた場合にどう対処するかなど、さまざまな課題が浮上するだろう。

技術が先行し、社会のルールが後から追いかける構図の中で、死者の尊厳をどこまで守れるのか。議論はまだ始まったばかりだ。

 

AIは“越えてはならない境界”を揺らすのか

「死んだ人に会いたい」
これは古代の物語にも繰り返し登場する、人の根源的な願いだ。

多くの神話では、愛する者を黄泉の国から連れ戻そうとする物語が描かれる。
しかし結末はいつも同じで、死者の完全な復活には失敗する。

人類は長い歴史の中で、
死者との境界線は越えられない
という前提を受け入れてきた。

生成AIは、その境界を越えたわけではない。
だが、人に「越えたかもしれない」と錯覚させるだけの力を持ち始めている。

もし未来に
・指導者のAIが死後も更新され続ける存在となり
・家族が故人AIに人生相談を続け
・社会が永遠の人格を受け入れ始める

そんな世界になったなら、人は“死”をどう理解するのだろうか。

技術は、死と生の線引きを静かに揺さぶっている。
亡き人を思う心は変わらない。
けれど、その向き合い方は、AIの登場によって確実に変わり始めている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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