
静まり返る後楽園ホールのリング上に、黒いジャージー姿のフワちゃんが立っていた。
深々と頭を下げると、かすかに震える声で謝罪の言葉を口にした。
1年3か月の沈黙を破り、彼女は再びプロレスの世界に戻ってきた。
その背中を押したのは、スターダム・岡田太郎社長の「本気を見た」という言葉だった。
12月29日、両国国技館で行われる“再デビュー戦”。その舞台裏には、意外な物語があった。
沈黙の1年3か月 後楽園に立つまで
2024年8月、タレント・やす子に対する不適切投稿で活動休止となったフワちゃん。
華やかなテレビの舞台から姿を消し、SNSも沈黙した。
「人を笑顔にするために始めた仕事で、悲しい思いをさせた」
その悔しさを胸に、彼女は世界へと飛び出した。
ロンドン、ニューヨーク、そしてロサンゼルス。
午前は語学学校、午後は海外のプロレススクールで汗を流す日々。
「男の人たちにボコボコにされながら練習してました」と笑うが、その裏にあるのは覚悟そのものだ。
痛み、挫折、孤独。それらを噛み締めながら、再びリングに立つ決意が固まった。
岡田太郎社長の決断「過去よりも、今と未来を見る」
今年4月、米国大会で初めて顔を合わせた2人。
「正直、触れない方が波風は立たない存在です」と岡田社長は打ち明ける。
上場企業としてのリスクを理解したうえで、あえて受け入れる決断をした。
理由はただひとつ、「本人の本気」だ。
「本人は全くプロレスを軽く見ていない。
真面目にやれば、批判はむしろ糧になる」
スターダムのリングに立つには、覚悟が必要だ。
岡田社長は「選手たちを信じている」と語り、サプライズを超えた試される復帰に期待を寄せた。
練習生としてゼロから「痛みがうれしい」
今夏から週4回、道場での基礎練習が始まった。
午前11時から夕方まで続くハードトレーニング。
リング設営、受け身、筋トレ、そしてロープワーク。
練習生として一から積み上げる毎日は、かつてのバラエティとは正反対の世界だ。
「体中にあざができても、それを見ると、がんばってる証拠だなって思える。
あざを増やして、つらい思いも楽しい未来に変えたい」
痛みを誇りに変えるその言葉には、プロレスラーとしての再生がにじむ。
賛否の声と、女子プロレスへの追い風
「もうテレビに出られないのでは」「プロレスを軽んじるな」
復帰発表直後から、SNSでは賛否が渦巻いた。
一方で「スターダムの存在を知った」「女子プロレスを見直した」といった声も広がっている。
岡田社長は「うねりになればいい」と語り、団体としての追い風を感じているという。
スターダムのリングは、ただの話題づくりの場ではない。
そこには、選手たちの努力と矜持がある。
だからこそ岡田社長は言い切る。
「スターダムのプロレスは一番でなければならない」と。
“リングの上で証明する”再デビュー戦へ
12月29日、両国国技館。
照明が落ち、観客が息をのむ瞬間。
そこに再び、フワちゃんが立つ。
もうタレントではない。
プロレスラー・フワちゃんとして、リングで過去と向き合う。
「有言実行で、死ぬ気でやればリスペクトされる」
それがプロレスの世界だ。
彼女の一挙手一投足が、女子プロレスの未来を照らすことになるかもしれない。



