
子どもを守るはずの制度に、思わぬ“抜け道”があった。
偽造免許で教壇に立ち続けた元教員の事件が、教育現場の脆さを露呈した。来年導入される「日本版DBS」は性犯罪歴の照会を強化するが、下着盗難や盗撮は対象外。名前を変えれば過去も消える。そんな現実が、子どもたちの安全を脅かしている。
「まさか先生が」 失効した免許で教壇に立つ
朝のチャイムが鳴り響く福岡県須恵町立中学校。生徒たちが教室へと駆け込む中、ひとりの補助教員が黒板にチョークを走らせていた。
後に逮捕された補助教員近藤正仁容疑者(66)。かつて女子中学生にわいせつ行為をして免職され、教員免許を失効していた男だった。
だが彼は、その失効した免許を使い回し、改姓を繰り返して全国の学校で教壇に立っていた。
町の教育委員会が免許の照会を行った際、データベースには“古畑”という旧姓で登録されていたため、照会結果は「該当なし」。
「ヒットしなかった」。その一言で、彼は再び教育現場へ入り込んだ。
制度の“穴” 変わる名前、消える前科
文部科学省が管理するデータベースには、過去に免許を失効した教員の氏名が登録されている。
しかし登録されるのは「失効時の姓名」のみ。
結婚、離婚、養子縁組。名字を変えるだけで、別人として扱われる現状がある。
改姓を繰り返せば、過去の罪を“リセット”できる。
実際、近藤容疑者も十数年の間に複数回改姓し、そのたびに異なる学校へ。
制度の網をすり抜け、子どもたちの前に立ち続けた。
来年始動「日本版DBS」 期待と限界
政府は2026年12月から、性犯罪歴の照会システム「日本版DBS」を導入する。
英国の制度をモデルに、子どもと接する職業(教員、保育士、塾講師など)の過去を照会できる仕組みだ。
戸籍とひもづけることで、改姓しても追跡可能になる。
だが、対象となる犯罪はごく一部。下着泥棒や盗撮、ストーカー規制法違反などは除外され、不起訴や示談の場合も登録されない。
さらに、照会できるのは禁錮刑の場合20年、執行猶予付きなら10年まで。
時間が経てば、過去の性犯罪歴も“白紙”になる仕組みだ。
「それでも子どもを守れるか」問われる社会の覚悟
「網羅的とは言えない。運用しながら改善を」。
教育法務に詳しい鈴木みなみ弁護士は、日本版DBSの限界を指摘する。
一方で、ネット上ではこんな声が相次ぐ。
「不起訴でも性犯罪歴が消えるなんておかしい」
「下着泥棒や盗撮を見逃せば、次は加害にエスカレートする」
「更生も大切だが、子どもの安全はその上にあるべきだ」
英国のDBSは、「加害の芽を摘む」思想に立っている。
日本版DBSが、同じ理念を持てるか。
加害者の権利を守る社会から、被害者と未来の子どもを守る社会へ。
その覚悟が、今まさに問われている。



