
ステージの照明が落ち、ひとりの少年がマイクを握る。
その瞬間、彼の心の中で長く押し込めてきた“本当の自分”が息を吹き返した。
Netflix映画『This is I』は、タレント・はるな愛(本名:大西賢示)の半生をもとにした実話であり、性別適合手術を執刀した実在の医師・和田耕治との絆を描く。
主演は18歳の新星・望月春希。共演に斎藤工を迎え、企画は鈴木おさむ、監督は『Winny』などで知られる松本優作。
“自分らしく生きる”というテーマを、80〜90年代のヒット曲と現代ダンスを交差させながら描く感動作だ。配信は2026年2月、Netflixで世界独占となる。
はるな愛の実話をもとに 「本当の自分」を探し続けた少年
1980年代の大阪。テレビに映る松田聖子に憧れ、鏡の前で歌う少年・大西賢示。
しかし、彼が見つめる鏡の中の姿は、どうしても“自分”のように思えなかった。
「女の子のようになりたい」という思いを口にすれば、周囲の視線が突き刺さる。
それでも彼は、夢を諦めなかった。
「聖子ちゃんみたいなアイドルになりたい」。
映画『This is I』は、そんな少年が社会の偏見に傷つきながらも、自分を信じて生き抜こうとした日々を、リアルな息づかいで描き出す。
運命を変えた出会い 医師・和田耕治との絆
物語のもう一人の主人公は、医師の和田耕治。
彼は当初、性別違和を抱える人々の苦悩を知らなかった。
だが賢示との出会いをきっかけに、「本当の医療とは何か」を深く問うことになる。
その日、彼の前に現れた若き患者の目には、迷いではなく決意が宿っていた。
和田は自らの恐れを超え、当時タブー視されていた性別適合手術の執刀に踏み出す。
賢示は和田が初めて手術を行う患者となり、ふたりの間には言葉を超えた信頼が芽生えていく。
白い手術室の光の中で交わされたまなざしが、人生の方向を変えた。
18歳の新星・望月春希が主演 “揺らぎ”を生きる演技
オーディションで選ばれた18歳の高校生・望月春希。
トランスジェンダー当事者を含む数百人の応募者の中から選ばれた彼女は、
「自分らしさとは何か」に葛藤する主人公を、繊細で力強く演じる。
一方、賢示の運命を支える医師・和田を演じるのは斎藤工。
冷静な判断と人間らしい弱さを併せ持つ医師像を、静かな熱で体現している。
ふたりの演技が交わるたびに、スクリーンからは“信頼”という目に見えない糸が浮かび上がる。
音楽とダンス 80〜90年代歌謡が呼び覚ます“記憶”
本作のもう一つの軸は、音楽だ。
80年代からY2K(2000年代初頭)を彩った名曲たちが、物語を鮮やかに彩る。
懐かしいメロディーが流れるとき、観客は当時のテレビのきらめきと、少年が夢を追った“時代の匂い”を一緒に思い出すだろう。
監督・松本優作は「映像と音楽の融合の冒険」と語る。
現代的なダンスシーンが加わることで、過去と現在、舞台と現実が交錯する。
そこに生まれる感情のうねりが、物語をさらに立体的にしている。
松本優作監督が描く、“生きる勇気”の物語
『Winny』『ぜんぶ、ボクのせい』などで注目を集めた松本優作監督。
社会の見えない壁や痛みを、誠実に描くその手腕は本作でも健在だ。
「自分らしく生きる」というテーマのもと、笑い・涙・音楽・ダンスを織り交ぜ、観る人の心をそっと解きほぐしていく。
監督は語る。
「明日も生きてみようと思える。そんな映画になったと思います」
その言葉どおり、『This is I』は“明日”に背中を押してくれる作品になるだろう。
鈴木おさむが惚れ込んだ“実話”
企画を手がけたのは放送作家・鈴木おさむ。
きっかけは2021年、大阪で訪れたショーレストランだった。
名刺入れに記された「WADA」という文字に導かれるように、彼は和田医師と、そこに書かれていた“ある女性”はるな愛の実話を知る。
「読めば読むほど映画になる」と感じたという鈴木は、Netflixへ企画を持ち込み、4年の歳月を経て実現にこぎつけた。
「この物語が、一人でも多くの人の励ましになることを願っています」
と、鈴木はコメントしている。
映画の中の“生き方”が、私たちに問いかける
偏見や孤独の中で、それでも笑い続けること。
夢を手放さず、自分の声を信じること。
賢示と和田、ふたりの姿は時代を越えて私たちの胸に響く。
彼らの物語は、誰にでもある“生きづらさ”や“他人に言えない痛み”に寄り添う。
そして静かに語りかける「あなたは、あなたのままでいい」と。



