
夜の討論スタジオで響いた一言が、全国に波紋を広げた。
「高市に大反対すればいい。あんなやつは死んでしまえ」。
10月19日放送の『激論!クロスファイア』(BS朝日)で、司会の田原総一朗氏(91)が放った暴言は、瞬く間にSNSで炎上。
23日、本人はXで謝罪したが、収録番組で発言をそのまま放送した局側の対応に、視聴者の疑問は消えていない。
「死んでしまえ」と言った夜
スタジオの空気が、一瞬で凍りついた。
自民党・片山さつき氏、立憲民主党・辻元清美氏、社民党・福島瑞穂氏。
女性政治家3人が並ぶ中、話題は高市早苗首相の“選択的夫婦別姓”への否定的姿勢に及んだ。
野党側の批判が続いたそのとき、田原氏の声が割り込んだ。
「高市に大反対すればいいんだよ。あんなやつは“死んでしまえ”と言えばいい」
その一言は討論を断ち、場を静まり返らせた。
長年「言葉で斬る」ことを信条としてきたジャーナリストの口から出た言葉としては、あまりに重く、そして軽かった。
SNSに広がる怒りと失望
放送直後からSNSは炎上。
「暴言をそのまま放送したのはなぜか」「編集でカットできたはず」という声が相次いだ。
「本人だけでなく、放送したBS朝日にも責任がある」
「BPO案件では?」「報道倫理の崩壊だ」
といったコメントが寄せられた。
BS朝日は21日、「不適切な発言があり、厳重注意とした」と発表。
だが「厳重注意で済むのか」「生放送ではなく収録なのに」といった批判は収まらない。
謝罪文ににじむ“世代の限界”
23日、田原氏はXにこう投稿した。
「発言の主旨は野党に檄を飛ばそうとしたもの。きわめて不適切な表現となり、深く反省しております。本当に申し訳ございませんでした」
しかし、「誰に謝罪しているのか」「高市氏本人に向けていない」との指摘も相次ぐ。
謝罪文は丁寧ながら、どこか他人事のようにも映った。
91歳。
半世紀以上、テレビ討論の第一線に立ってきた田原総一朗という存在が、いまや「時代に取り残された」と感じた視聴者も少なくない。
“炎上”は、個人よりも「過去の言論スタイル」への揺り戻しを象徴しているのかもしれない。
“報道機関の甘さ”が残した後味
今回の騒動を巡っては、「田原氏だけでなく、放送局にも説明責任がある」との意見が強い。
なぜ編集段階で削除されなかったのか。
番組スタッフは「予定調和を嫌う田原氏が、あえて挑発的な言葉を使うのが持ち味」と説明する。
だが、それは“報道”というより“慣れ合い”だったのではないか。
落語家の立川志らく氏は「フワちゃんは活動休止、田原氏は厳重注意」と指摘。
野口健氏も「『死ね』と同義。テロを容認するような発言だ」とSNSで批判した。
処分の軽重が“誰が言ったか”で変わる。
その構造こそ、今回の事件が浮かび上がらせた最も深い問題かもしれない。
メディアの責任を問う時代へ
『激論!クロスファイア』は26日の放送を休止。次回は11月2日放送予定だが、田原氏の続投は未定とされる。
討論文化の象徴だった田原氏の言葉が、いま「放送倫理」の揺らぎを映し出している。
討論とは、意見のぶつかり合いではなく、相手を理解するための言葉の往復である。
「死ね」という言葉が放たれた瞬間、その往復は断たれた。
“過激さ”が評価された時代の終わりを、今回の騒動は静かに告げている。



