
音楽ユニット「BABYMETAL」への“水商売発言”をきっかけに、再び注目を浴びた音楽評論家・湯川れい子。89歳にして現役の評論家は、なぜいま炎上の渦中にいるのか。そして、彼女はどんな存在なのか。若い世代にとっては耳慣れない名前かもしれないが、日本の音楽史を語るうえで欠かせない人物である。
BABYMETAL「水商売発言」から広がった炎上
9月16日、湯川れい子は自身のX(旧Twitter)で、世界的に人気を誇るBABYMETALをめぐる投稿を行った。きっかけは音楽評論家ピーター・バラカン氏の過去の発言に対する反応だった。
湯川は「彼女たちは美しさと若さで人を惹きつける」としながらも、それは「音楽的な実力や魅力ではない」と言及。さらに「水商売的な評価」と書き込んだことで、ファンの強い反発を招いた。謝罪はしたものの、「水商売は広義では人気商売を指す」と釈明したことで、火に油を注ぐ形となった。
SNSで吹き荒れた批判の嵐
湯川の発言は瞬く間に拡散し、X上では厳しい批判が相次いだ。「BABYMETALに対して音楽性の議論をするのは歓迎だけど、『水商売』という言葉を評論家が使うのは完全にアウトだ」とする声や、「世界のフェスで実力を示しているのに『魅力がない』はさすがに失礼すぎる」と憤るファンのコメントが目立った。
また、「謝罪したと思ったら開き直り。世代感覚のズレを自覚していない」「BABYMETALのファン層を軽視している。炎上も当然」といった声も広がり、事態は収束するどころか拡大した。一方で、「若さや見た目も含めてBABYMETALの魅力だと思う」「批判の仕方は拙かったが本質を突いている部分もある」といった冷静な意見も見られた。
音楽界のレジェンド・湯川れい子とは
今回の炎上で初めてその名を知った若い世代も多いだろう。しかし湯川れい子は、日本の音楽界を語る上で欠かせない存在だ。1960年代にはラジオDJとして活躍し、ビートルズやローリング・ストーンズを日本に紹介した功績を残している。
評論家としてだけでなく、森高千里の「私がオバさんになっても」やアニメ「ベルサイユのばら」の主題歌などの作詞も手がけた。さらに核兵器廃絶やジェンダー平等といった社会的テーマについても積極的に発言し、文化人としても存在感を示してきた。
世界を席巻したBABYMETALとメンバー構成
BABYMETALは2010年に「さくら学院」の部活動ユニット「重音部」として誕生した。デビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」で注目を集め、2014年のアルバム『BABYMETAL』によって世界進出を果たす。イギリスの「Sonisphere Festival」や米国「ヘヴィ・モントリオール」に出演し、メタリカやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ガンズ・アンド・ローゼズといった大物バンドと同じ舞台に立ってきた。
メンバーは三人。SU-METAL(中元すず香)は圧倒的な歌唱力で世界的に評価を受けている。MOAMETAL(菊地最愛)はダンスとコーラスを担当し、表現力と存在感でファンに支持されている。2023年に正式加入したMOMOMETAL(岡崎百々子)は、新世代の担い手として注目を集めている。
神バンド ― BABYMETALを支える超絶技巧集団
BABYMETALの世界観を完成させているのが、神バンドと呼ばれるバックバンドだ。白装束と骸骨風メイクで登場する彼らは、見た目の演出だけでなく、日本屈指の技術を誇るミュージシャンで構成されている。
ギタリストの藤岡幹大は超絶的なテクニックとメロディセンスでファンを魅了し、2018年に急逝するまで中心的役割を担った。大村孝佳は緻密なリフと速弾きで知られ、BABYMETALサウンドを支えている。ドラマーの青山英樹は正確無比かつパワフルなドラミングでライブを牽引し、ベーシストのBOHは6弦ベースを自在に操る日本屈指のベーシストとして知られる。
神バンドは固定メンバー制ではなく、実力派ミュージシャンが入れ替わりで参加する形態をとってきた。演奏の迫力は公演ごとに微妙に変化し、観客は一期一会の音を体験することになる。彼らの存在があったからこそ、BABYMETALは“企画もの”ではなく、世界のメタルシーンからリスペクトを集める実力派として認知されるに至った。
BABYMETAL「水商売発言」が映し出す世代間の断絶
今回の騒動は単なる言葉選びではなく、世代間の感覚の違いを浮き彫りにした。若い世代にとって「水商売」という言葉は侮蔑的に響くが、湯川の世代では「人気商売」という意味合いが強く、自虐を込めて使うことも少なくなかった。
湯川自身も「年代の違いが反発を招いたのか」と分析しているが、そこにあるのは音楽をめぐる価値観のギャップであり、SNS世代と昭和から続く評論家文化の断層だった。
おわりに
湯川れい子は、日本の音楽を半世紀以上にわたり見守ってきた評論家であり、文化人でもある。その発言が時代とのズレを露呈することはあっても、音楽と社会を結びつけて論じる姿勢は変わらない。
一方のBABYMETALは、若さやアイドル性に加え、神バンドという最高峰の演奏陣を従えた稀有な存在として世界を魅了し続けている。今回の炎上は評論家の言葉の重みを浮き彫りにすると同時に、世代間の言語感覚の差が論争を拡大させたことを象徴する出来事でもあった。