
兵庫県議会で百条委員会の委員を務めた竹内英明元県議の妻が、NHK党の立花孝志党首による発言が故人の名誉を毀損したとして、名誉毀損の疑いで刑事告訴したことが分かった。兵庫県警は今年6月に告訴を受理している。
竹内氏は昨年11月の知事選翌日に辞職し、今年1月に死亡。自殺とみられている。問題となったのは、立花氏が昨年12月、泉大津市長選の街頭演説で「警察の取り調べを受けているのは間違いない」と発言したことや、死去直後の動画配信で「逮捕される予定だった」「自業自得」と述べたことだ。
これらの発言はSNSで拡散され、今年1月、兵庫県警の村井紀之本部長(当時)が県議会で「全くの事実無根」と異例の否定コメントを出した。「被疑者として任意の調べをしたこともない」と明言し、虚偽情報の拡散を強く遺憾とした。
立花氏は後に「逮捕が近づいていたというのは間違いだった」と訂正・謝罪しているが、妻は「夫は『黒幕』と名指しされ、そこから運命が変わった。孤立し、絶望してこの世を去った」と会見で語った。さらに「表に出れば再び攻撃される恐怖はあるが、夫の尊厳を守るために声を上げる」と決意を示した。
死者の名誉毀損、成立は稀なケース
刑法230条2項は「死者の名誉毀損」を規定しているが、実際に刑事告訴・起訴に至る例は極めて少ない。死者の名誉毀損は、遺族の告訴が前提であり、社会的評価の低下が明確に認められる必要がある。政治家のような公人であっても、虚偽の事実を摘示すれば対象となるが、立証は容易ではない。
一方、ある弁護士は「死者の場合は、名誉回復のための反論や訂正の機会が本人にないため、法的保護の重要性は高い。今回のように警察幹部が明確に否定した事案は、成立の可能性が比較的高い」と指摘する。
選挙とフェイク情報、その境界線
今回の問題は選挙期間中の街頭演説や動画配信で発言されたことが特徴だ。選挙アナリストの大濱崎卓真氏は「選挙運動の自由は民主主義の根幹だが、事実に基づかない発言で相手の信用を傷つけることは、自由の範囲を逸脱する」とSNSで投稿している。
一方で、SNSでは「選挙の場では候補者が相手陣営や関係者を批判することは避けられない。表現が過剰であっても、公共性や公益目的があれば刑事責任を問うべきではないという立場もある」と述べ、過度な萎縮効果への懸念も示す声も。
海外では、欧州連合が施行した「デジタルサービス法(DSA)」の下で、選挙期間中のフェイク情報削除を義務づける動きが進む。日本では選挙中のネット上の偽情報に即応する制度がなく、訂正や削除が間に合わない。結果的に、事実誤認が投票行動や世論に影響し続ける危険があるのではないだろうか。
両者の主張と今後の焦点
立花氏は告訴受理について「妥当だ」と述べた上で、「真実または真実相当性を説明し、不起訴を目指す」としている。これに対し、妻は「デマで人を貶め、死者にむち打つ行為が公然と行われる異常さを、社会はもっと深刻に受け止めるべきだ」と訴える。
今後の焦点は、発言の真実相当性が認められるかどうか、そして死者の名誉毀損が公判維持に耐えうるかだ。公人の死後も続く虚偽情報を、法はどこまで裁けるのか。その判断は、選挙言論の自由と人権保護のバランスに一石を投じることになりそうだ。