
大阪・大正区に本社を構える老舗の産業用計器メーカー、株式会社木幡計器製作所が、後付けIoTセンサユニット「Salta®(サルタ)」を武器に、産業界に新たな風を吹き込んでいる。1909年創業、戦艦「大和」にも搭載された高精度の圧力計で知られる同社は、現在、デジタル技術を融合させた「見える化」によって、現場の課題を解決し続けている。
アナログ計器に後付け可能な「Salta®」が生む効率と安全
「Salta®」は、既存のアナログ圧力計に後付けすることで、指針の動きをBluetoothでデジタルデータ化し、リアルタイムで送信・蓄積できるIoTユニットだ。15秒間隔でのデータ取得が可能で、しかも現場に電源工事や配線工事は不要という手軽さが支持されている。
さらに注目されるのは、爆発リスクの高い製油所や化学プラント向けに開発された防爆仕様「Salta-Ex®」の存在だ。国内初の仕様を実現したこのモデルは、安全性と遠隔監視機能を両立し、予防保全への移行を加速させている。
自動車工場・医療現場での導入実績、そして地域連携
たとえば、自動車工場では巡回点検の人手が大幅に削減され、異常値のアラート通知によって保全精度も飛躍的に向上。医療分野でも同社は、小型で電池駆動の呼吸筋力測定器「IOP-01」を開発し、リハビリ現場や病棟での活用が進んでいる。現在は在宅医療との連携も見据えているという。
また、2018年には地域連携拠点「Garage Taisho」を設立し、地元の工業高校や行政・大学との連携を進めている。同社は“技術の地産地消”を掲げ、大正区の町工場が集積する地域で人材育成にも力を注いでいる。
継続の秘訣は「顧客」「技術」「連携」の三本柱
同社が100年以上にわたり企業としての存在感を維持してきた背景には、3つの明確な軸がある。
1つ目は、顧客課題への徹底的なフォーカス。2つ目は、既存技術を活かした「レトロフィット発想」。3つ目は、他社との技術連携によるシナジー効果だ。
実際、Salta®の量産設計やEMC試験、部品供給体制の構築には、大手企業や他の中小企業との連携が不可欠だった。同社単独では実現できなかった製品群が、こうした補完関係の中で形になっていった。
「老舗」でありながら「革新」を掲げる次の100年へ
代表取締役の木幡巌氏は、「歴史があることだけでは信頼は得られない。現場に役立つ“安全・安心・信頼”をいかに提供できるかが鍵だ」と語る。
創業者・木幡久右衛門が手作業で始めた圧力計製造の技術は、現在のIoT製品にも通じる職人精神として受け継がれている。その技術の核にあるのは、“現場を見る力”と“他者とつながる力”である。
「116年の歴史を、次の100年へ」──。その覚悟をもって、木幡計器製作所は今日もまた、アナログとデジタルの狭間で新たな挑戦を続けている。