ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

アデコ株式会社

https://www.adeccogroup.jp/

本社所在地:東京都千代田区霞が関3-7-1 霞が関東急ビル

「人が中心」のAI活用のあり方。AI導入によるAdeccoの新たなマッチングシステム

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
リンクをコピー
アデコ 澤上さん 太田さん
撮影:安藤ショウカ

世界60カ国で事業を展開する人財サービスのグローバルリーダーであるAdecco Group。その日本法人であるアデコ株式会社の人財派遣およびアウトソーシング事業のブランドのAdecco(以下、Adecco)は、人財派遣事業においてAIを導入した新しいマッチングシステムの運用を2024年に開始した。

派遣社員として働くことを希望する登録者、人財を求める企業、そしてAdeccoが「三方よし」となるマッチングシステムとは。システムの開発に携わったIT&Digital本部 Data Science部 部長 太田潤さんと、システムを実務で活用するビジネスサイドの責任者としてプロジェクトに参加するキャリアプランニング本部 部長 澤上弘さんに伺う。

年間約8万時間を削減するAIマッチングシステム

AIの進化が加速し、私たちの生活や仕事にも当たり前のような存在となっている今、もはやAIとの関わりを避けることはできない。むしろ、AIをどのように使いこなせるかが、個人や組織の成果を左右する重要な要素にすらなっている。

そんな中、Adeccoは人財派遣事業におけるマッチングシステムを刷新し、AIを導入した新しいマッチングシステムを独自に開発した。それまで担当者が手動で行っていたマッチング業務の一部を自動化することで、登録者と企業のマッチングに要している時間を年間約80,000時間削減する見込みだという。

「これまでは『企業の求人にマッチ度の高い登録者を探すこと』と『登録者に仕事をオファーして意向を確認すること』に特に時間がかかっていました。人気のある求人であれば、100人単位で応募がくることもあります。その一人ひとりの経歴等を確認して、どの方が一番マッチしているか判断して絞り込み、多くの場合は電話でオファーするのです。しかし、電話をかけてもつながらないことも多く、生産性を下げる要因になっていました。この業務における効率化を図り、生産性を向上させるのがAIマッチングシステムです」(澤上)

このマッチングシステムにおいては、11項目の観点にもとづいて登録者と求人情報の適合度をAIで定量化。それをもとに企業と登録者の両者の条件や希望が反映されたマッチングリストが生成される仕組みになっている。

Adeccoでは、「人が中心にあるべき」という考えのもと事業を行っている。テクノロジーの活用によってキャリアコンサルティングや日々の仕事のフォローアップといった付加価値業務に向き合える時間を増やし、すべての派遣社員の躍動につなげていきたいという思いがあるという。その実現に向けた取り組みの一つが、このAIマッチングシステムなのだ。

AIに“学習させない”。Adecco独自のアプローチ

システムの開発に至った経緯と、ローンチまでの流れを教えてください。

太田

「クライアントと候補者のマッチングにAIを導入できないか」という経営陣からの強い要望をきっかけに、2021年からプロジェクトが始まりました。当時は今ほどAIが普及しておらず、世界的に見てもまだAI活用の動きが小さかったので、人財派遣事業を手がける企業としてどのようにAIを使っていくのがよいのか、といった協議もしながら技術検証を進めていきました。

そんな中、2023年には生成AIが急速に台頭し、新たな技術が次々と出てきました。私たちもそれらをいち早く取り入れて、それまでの設計も変え、2024年2月にはAIマッチングシステムの構想がある程度固まってきました。

その後、実際に業務に組み込むため、ビジネスサイドの声を拾いながら要件定義を行い、2024年10月にローンチに至りました。

2021年にAI活用に向けて動き始めた当時、どのような課題や目的があったのでしょうか。

太田

大きくは「生産性向上」と「社内文化の醸成」の2つの軸がありました。

生産性向上は企業だけでなく国全体の課題にもなっていますが、当社でも将来にわたって持続的な成長をしていくための重要な要素であり、以前からテクノロジーの活用を積極的に進めてきていました。その中で、人財派遣事業の領域の中でも特に時間がかかっており、効率化の伸びしろが大きいマッチング業務にAIを導入しようという流れになったのです。

文化醸成という点では、当時は社会全体でDXの流れがあった時期でした。そこで、会社全体でデジタル技術を採り入れることで、変革に向けて積極的に活用していく社内文化を作るため、テクノロジーを業務の中に組み込む最初のユースケースを作りたいと考えていました。

IT&Digital本部 Data Science部 部長 太田潤さん

開発にあたり、特にどんなことを意識しましたか?

太田

顧客企業と登録者をマッチングする際は、仕事内容や労働条件など、さまざまな情報が絡みます。その中で、顧客企業が大事にしたいものと登録者が大事にしたいものを最適な形でマッチングできるように設計することを意識していました。

そしてそれを実現するため、業務で実際に使う社員にテストをしてもらいながら、何度も繰り返し細かいチューニングを行いました。

それまで手動だったマッチング業務をデジタル化することは、やはり難しいことなのでしょうか。

太田

正直なところ、難しかったです。我々の業界は情報の非対称性が非常に高く、登録者のデータや条件と、企業からの求人内容が完全に一致することはほぼありません。さらに、条件などの情報は、文章で詳細に記されている場合もあります。人財や企業によって異なる情報や条件がある中で、それらをどうマッチングさせていけばよいかを分析し、すり合わせることには時間がかかりました。

「過去の事例をAIに学習させることでマッチング精度の向上を図る」という考えもありますが、そのような手法を採ると偏った結果を出してしまうリスクがあります。そこで、AIマッチングシステムのコンセプトとしたのが、社内の担当者が持っている細かなノウハウを言語化し、それをシステムに組み込んで再現することでした。

つまり、「以前、この組み合わせが良かったから」ではなく、目の前にあるデータだけを参照して、マッチングの度合いを計るというアプローチです。そのプロセスをシステムに落とし込むのは非常に大変でしたね。

AIを導入した新たなマッチングシステムによって実現する「三方よし」

実務で利用する中で、生産性の向上を実感していますか。

澤上

はい、感じています。AIマッチングによって、登録者の検索やマッチ度の高い順でのリスト化が即座にできるようになりました。それによって、担当者が手動で候補者全員の情報を見る必要もなくなり、検索時間が大幅に短縮されています。

マッチングの項目にはコンタクトを取りやすいかどうかという項目もありますので、コミュニケーションがとれるまでの時間が大幅に短くなりました。それによって、より多くの候補者と話すことができるようになりました。

アデコ 澤上さん
キャリアプランニング本部 部長 澤上弘さん

定量化によってマッチ度が高まったことは感じていますか?

澤上

登録者と顧客企業、それぞれの希望条件を照らし合わせて数値化することができているので、やはりマッチ度は高いですね。マッチ度が高いほど就業開始が早まる傾向があり、早期の就業、受け入れにつながっています。

また、マッチ度が高い仕事や登録者を提案できるようになったため、満足度や定着率の向上にもつながっており、人財と企業がお互いにより良い関係を築くことができるようになっていますし、長く就業いただけるのは私たちにとっても大変嬉しいことです。こうして、三方よしの状況ができていると感じています。

AIマッチングのシステムは、登録者側にもメリットがあるのでしょうか?

澤上

はい。当社のデータベースには非常に多くの求人がストックされているため、これまでのシステムでは、最初の登録時の面談で登録者に最適な仕事を提案しづらいという課題がありました。しかし、AIマッチングの導入後は、事前準備に時間を掛けずに最初の面談で求人を検索、すぐにその方の希望や条件に合う仕事を紹介することができるようになりました。

登録者の多くは早期に就業することを希望されていますので、登録面談の場ですぐに仕事紹介ができることは、登録者目線で見ても満足度が高いサービスにつながっているのではないかと思います。また、当社の担当者が新たな提案をすることもできるため、登録者の方が見落としていた求人や、適性があるのに考えたことがなかった求人と出会う確率も上がったと思います。

お客様のために、テクノロジーを活用する

今回開発したAIマッチングシステムは、御社のAI倫理ガバナンスの指針「Responsible AI Principles(責任あるAI活用のための原則)」にもとづいて開発されているそうですね。この指針を掲げることにはどのような意義があったのでしょうか。

太田

Adecco Groupの本社があるEUでは、世界初の包括的なAIに関する規制である「Artificial Intelligence Act」という規制法が施行されており、企業によるAI利用に関して基本的人権の尊重に基づいた厳格なルールが定められています。

「AI Act」においては、AIがもたらし得るリスクの高さに応じて規制の強さが4つのランクに分けられており、一番上は「許容できないリスク」となっています。人を社会的に格付けすることや、顔認証のデータベース化にAIを用いることがこれにあたり、AIの利用が禁止されています。そして、実は2番目に規制が強い「ハイリスク」に「採用」が含まれています。リスクが高いとされている分、会社としてAIの開発に関するエビデンスをしっかりと残し、ガバナンス体制も整備する必要がありました。

また、採用におけるAIの活用は、倫理面への配慮やバイアス排除、プライバシー保護といった課題もあり、社会的にも非常にシビアな領域だと思います。日本ではまだEUのような規制はありませんが、だからこそ厳しいEUの規制に則った指針にもとづいてサービスを開発するというのが、信頼性の担保において非常に意義のあることだと考えています。

このAIマッチングシステムの開発においても、Adecco Group全体の指針に基づいて開発・検証し、本社のAI倫理委員会にも諮問したうえでローンチしています。

AIの活用について、今後の展望を教えてください。

太田

AIの活用においては、やはり生産性を上げることが一番重要だと思います。当社には、効率化できる業務がほかにもまだあります。AIマッチングは、マッチングにフォーカスした効率化ツールですから、それ以外の営業領域の支援におけるAI活用にも積極的に取り組んでいきたいです。今年に入ってから「AIエージェント」の活用も本格化しているので、これも軸の一つにしながら広げていきたいですね。

システムを開発する立場としては、そのシステムが社内のユーザーや、社内のユーザーがサービスを提供する顧客のためになることを念頭に置いています。これからも様々な声を聞きながら、顧客の躍動につながるようなものを作っていきたいですね。

人財派遣事業においてAIを活用する先で、どのようなことを目指していますか。

澤上

実務をしている立場としては、より多くの登録者と顧客企業にさらに満足していただけるようなサービスでお応えしたいという思いがあります。AIマッチングの導入によって、人にしかできない業務により多くの時間をかけられるようになりました。今後もシステム開発部門と協力しながら、付加価値を生む業務にさらに注力し、当社のファンを増やしていけるよう邁進していきます。

◎会社情報
社名:アデコ株式会社
代表取締役社長:平野 健二
設立:1985年7月29日
本社所在地:東京都千代田区霞が関3-7-1 霞が関東急ビル
資本金:55億6,000万円
従業員数:37,200名
※すべての雇用形態の従業員の合計

◎インタビュイー
太田 潤
アデコ株式会社 IT&Digital本部 Data Science部 部長

澤上 弘
アデコ株式会社 キャリアプランニング本部 部長

Tags

ライター:

フリーライター。昔から感想文や小論文を書くのが好きで、今なお「書くこと」はどれだけしても苦にならない。人と話すのが好きなことから、取材記事の執筆が主軸となっている。新潟県で田んぼに囲まれて育った原体験から、田舎や地方への興味があり、目標は「全国各地で書く仕事をする」こと。

関連記事

タグ

To Top