「ガザからの移住に50億ドル」 世界的コンサルBCGが試算していた衝撃

「パレスチナ人50万人の移住に必要な費用は、ざっと50億ドル──1人あたり9,000ドルで試算可能」。そう記された財務モデルが、世界有数のコンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって作成されていたことが、2025年7月、英ファイナンシャル・タイムズなどの複数報道により明るみに出た。
この計画は、米国とイスラエルが後ろ盾となる新組織「ガザ人道財団(GHF)」の設立に合わせて水面下で進められていたもので、BCGはプロボノ(無償支援)と称しつつ、実際には400万ドル規模の契約をGHF側と締結していたという。
国連やNGO関係者からは「これは移住ではなく、事実上の民族浄化だ」との声も上がり、同社は世界的な非難の渦中に立たされている。
現地で何が起きたのか? 援助を求めた子どもたちに銃弾が飛んだ
アルジャジーラが現地取材をもとに報じたところによれば、GHFの配給所には爆撃を逃れて飢餓に直面する市民が列をなし、支援物資を求めて殺到していたという。だが、GHFの支援拠点を守る米国の治安請負業者やイスラエル軍が発砲し、少なくとも700人の市民が死亡。中には複数の子どもたちも含まれていた。
その後、パレスチナ保健当局も「GHFの配給施設で多数の死者が出ている」と発表。現地では、この事態を「支援の名を借りた人道危機」と捉える声が広がっている。
BCGがその計画の財務的根拠を提示し、GHFの創設に協力していた事実は、単なるコンサルティングビジネスを超えた倫理的問題として問われ始めている。
セーブ・ザ・チルドレンが業務停止「全く容認できない」
NGO界も動いた。国際的な子ども支援団体「セーブ・ザ・チルドレン」は、BCGのガザにおける役割を「全く容認できない」として、同社とのすべての提携を打ち切った。同団体は「人道支援に名を借りた強制移住や暴力に協力する企業と関係を続けることはできない」と明言している(ニュー・ヒューマニタリアン誌報道)。
この決断は、コンサル企業と人道団体とのパートナーシップのあり方に一石を投じるものであり、他のNGOや政府機関にも判断を迫る前例となりそうだ。
内部崩壊するBCG、火消しの声明も逆効果?
BCGはこの騒動を受け、当初「これはあくまで一部社員の暴走であり、会社としては関与していない」「2024年10月、BCGの米国チームは2人のパートナーに率いられ、ガザ地区への人道支援を目的として支援団体の設立に無償で協力した」。と6月7日のリリースで釈明。問題となった2人のパートナーを6月に解雇し、リスク管理部門と社会貢献部門のトップも辞任したと発表した。
さらに報道が過熱したことで、7月6日に改めて「最近のメディア報道は、BCGの戦後ガザ復興における役割について誤った情報を伝えている。元パートナー2名が勝手にこのプロジェクトを実行した」と声明を出している。
だが、その一方で、関係者による「作業は最初から会社の黙認のもとで進んでいた」「BCG上層部は報酬の存在も認識していた」との証言も報道からは漏れ聞こえる。
この事態に、ウォール・ストリート・ジャーナルの取材によれば、BCGの長年の顧客ですら「これは容認できない」と激怒し、契約の見直しに入っているという。
裏に元CIA、トランプ・ネタニヤフ構想 利権と軍事の交錯も
このプロジェクトを主導したとされるのが、元CIA職員フィル・ライリー氏だ。彼はBCGで8年間、上級顧問を務めた後、GHFの警備拠点を管理する新会社「セーフ・リーチ・ソリューションズ」を設立。GHFの設計に関与した米国の警備請負業者「オービス」との接点から、BCGへの依頼が持ち込まれたとされている。
さらに、報道ではガザの一部を観光地として再開発する「トランプ・リビエラ構想」も進められていたことが判明。英元首相トニー・ブレア氏の研究所(TBI)が関係会合に参加していたものの、TBI側は関与を否定している。
そして、この構想に関心を示していたとされるのが、イスラエルのネタニヤフ首相とドナルド・トランプ前大統領。7月初旬、ネタニヤフはホワイトハウスを訪問し、非公式ながら「第三国へのパレスチナ人移住案」について言及したとされている。
英議会が調査要請、日本企業はだんまりを決め込むのか?
英国下院の商務貿易特別委員会は、BCGのCEOに宛てた書簡で、GHFとの関係の詳細、計画が始動した時期、資金提供者、関与した人物すべての開示を求めた。リアム・バーン委員長は「この計画は国際的な人道原則に反する疑いがある」として、明確な説明を7月22日までに提出するよう指示している。
一方、日本国内では、BCGと提携する大企業や自治体は少なくない。だが、現在のところ、これらの関係先から公式な反応は出ていない。果たして日本企業はこのまま「何も知らなかった」で済ませるのか。問われているのは、自社の倫理基準である。