
「女子大で学びたくて、ここに来たのに」。兵庫県に本部を置く武庫川女子大学が発表した2027年度からの共学化方針に、在学生や卒業生の間で動揺と反発の声が広がっている。学生有志による反対署名には数日で数千筆が集まり、SNSでは賛否が交錯する。
一方で、突如明かされた共学方針の背景には、女子大学を取り巻く全国的な構造的変化と、「見えない圧力」も浮かび上がってきた。
女子大の“共学化ラッシュ” 武庫女の「唐突さ」に際立つ異質さ
武庫川女子大学の決断は、女子大共学化の「最後の波」なのかもしれない。首都圏では津田塾大学、日本女子大学、東京女子大学といった伝統校が近年共学化を決定あるいは議論を進めており、「女子大」というブランドはいまや絶滅危惧種に近づきつつある。
各校の共学化理由には共通点がある。少子化による志願者減、ジェンダー平等社会への対応、グローバル大学ランキングにおける不利な扱い──いずれも「女子だけ」という構造が大学経営において足かせになるという判断からだ。
だが、そうした他校と比べ、今回の武庫川女子大学の対応はあまりに唐突だった。在学生からは「他の女子大は何年もかけて学生と議論していたのに、うちはいきなり理事会発表?ふざけてる」という声も上がる。
実際、今回の反発は「共学化そのもの」よりも「プロセスの不透明さ」に対する怒りが中心だ。在学生のひとりはこう話す。「共学化の賛否を超えて、“誰も説明してくれない”ということに対して絶望してるんです」
「女子枠採用はどうなる?」就活に影響する“女子大卒”の行方
学生たちが危惧するのは進路への影響だ。教育・福祉・企業の一部業界では、「女子大出身者」の特性を評価して採用する「女子枠」や「女性活躍支援枠」が存在しており、特に人間関係学部や教育系学科では、「武庫女ブランド」が一定の信頼を得てきた歴史がある。
就職支援を受けた卒業生のひとりは語る。「『あ、女子大出身なんですね』と面接で言われることは確かにありました。武庫女の教育学部って言えば、指導力とか礼儀の面で良い印象を持たれやすい。共学になったら、それがただの“関西の中堅大”って印象になるのではと心配です」
企業の人事担当者に匿名で意見を求めたところ、「女子大だから採用するという時代ではない」としつつも、「女子大出身者はチームプレーの意識が高く、素直な人が多いという印象はある」とのコメントも得られた。
一方で、キャリア形成において“女子大学”というラベルが剥がれ落ちることを前向きにとらえる学生も一部にはおり、大学側が丁寧にキャリア支援の方針を示せば、共学化後も新しい武庫女像が築ける可能性はある。
だが、現時点ではそれすらも「説明されていない」という。
内部証言「共学化、寝耳に水だった」 学内の混乱と沈黙
ある教職員は匿名を条件に、こう打ち明けた。「理事会で正式に出たのは本当に最近です。広報部門も寝耳に水だったようで、Webサイトの更新もバタバタでしたよ。教員の中でも反対の声はありますが、公式には言いにくい雰囲気です」
別の職員は「大学全体の生き残りを考えればやむを得ない、という空気が上層部にはある。ただし、それを“突然降ろす”やり方はおかしい」と語った。
学生たちは「共学化に反対するな」と言っているのではない。「せめて、聞いてほしかった」と言っているのである。「私たちは共学が怖いんじゃない。置き去りにされるのが怖いんです」と、署名活動の主催者は訴える。
女子大の終焉か、多様性の始まりか 岐路に立つ「教育のかたち」
共学化は全国の女子大学が直面する現実だ。だが、それは「伝統を捨てること」ではなく、「どう変わるか」という問いと向き合うプロセスでもあるはずだ。
武庫川女子大学がどのような答えを出すかは、全国の女子大、さらには高等教育全体の今後に示唆を与えるだろう。署名は7月17日まで受け付けられ、20日に理事会に提出される予定だ。