
食品卸・写真流通・地域金融がけん引する「地産外商」先進県の現在地
かつて「一次産業県」と評された高知は、1990年代以降に卸売・サービスの県外展開を加速させ、今や外貨獲得型ビジネスが県内総生産の屋台骨となった。本稿は決算短信・官報公告など一次資料を突合し、2024年度実績に基づく最新ランキングを作成した。銀行は経常収益、JAは販売取扱高で順位を付ける。
20 位 北村商事〈高知市〉 売上 120 億円〈2024/5〉
名門ポイント: 1947年創業の北村商事は、鉄鋼材・建設資材の販売・加工から橋梁・鉄骨製作、建築一式施工まで担う“商社兼ゼネコン”型企業である。市内稲荷町の「鉄鋼センター」と仁井田の「メタルステーション」を核に切断・溶断・鋼板加工を行い、工場在庫を活用したジャストイン配送体制を構築。公式サイトでは橋梁・鉄構の施工事例も公開している。2024年5月期売上高は120億円、従業員127名。健康経営優良法人や「地域未来牽引企業」の認定を取得し、SDGs宣言書を掲げて脱炭素と働きやすさの両立を推進するなど、地方中核企業として持続可能な地域インフラを支えている。
19 位 兼松エンジニアリング〈高知市〉 売上 124 億円〈2024/3〉
名門ポイント: 高圧洗浄車や超強力吸引作業車を製造する兼松エンジニアリング(高知市)は、2024年3月期の売上高124億円と過去最高を更新した。強力吸引作業車で国内シェア8割強、高圧洗浄車でも約5割を占めるなど、環境整備機器の専業メーカーとして首位を維持する。下水道管などインフラ更新需要が底堅く、決算短信によれば高圧洗浄車の受注残は前年を上回った。国内市場の伸びが限定される中、有価証券報告書は東南アジア向け輸出拡大とODA案件の獲得を戦略に掲げる。さらに商用車の脱炭素化を見据え、EVや燃料電池・水電解水素生成の架装技術を開発する社内プロジェクトを推進している。高知発のニッチトップ企業として、国内外のインフラ維持と環境負荷低減を両立させる事業モデルが評価されている。
18 位 YAMAKIN〈香南市〉 売上 129億2,000万円〈2024/6〉
名門ポイント: 歯科用貴金属合金・ジルコニアなどの歯科医療材料を自社開発・製造する専門メーカーである。2024年6月期の売上高は129億2,000万円、従業員数310名、資本金5,000万円と会社概要で開示する。香南市工場は独TÜV SÜDの審査を受けISO 9001および医療機器品質管理規格ISO 13485を取得。そして高透光性と高強度の両立を実現した積層型ジルコニアを上市して国内トップクラスのシェアを維持しつつ、海外売上を拡大中である。研究面では国立大との共同講座を設置し、次世代歯科材料の基礎研究から臨床評価まで一貫して手掛けることで製品群の高付加価値化を図っている。
17 位 ヒワサキ〈高知市〉 売上 134億3,000万円〈2024/3〉
名門ポイント: 1949年創業のヒワサキ(高知市)は、LPガス・石油・電力を一気通貫で扱う総合エネルギー商社で、2024年3月期の売上高は134億3,000万円と前年から4%伸びた。有価証券報告書によれば、高知港での船舶向け燃料供給やENEOS系スタンド網による陸上販売が安定収益を支え、子会社の四国エネルギー物流が保有するタンクローリーと倉庫を活用し、災害時の備蓄配送ネットワークも構築する。家庭分野ではゴールド保安認定を取得し、LPガスの保安監視を遠隔デジタル化。さらに四国電力との提携で電力小売を伸ばし、太陽光・蓄電池設置や省エネ機器販売を組み合わせることで、地域インフラ商社への事業転換を加速させる動きを強めている。
16 位 新来島高知重工〈高知市〉 141億1,000万円〈2023/3〉
名門ポイント: 新来島高知重工(本社・高知市仁井田新築、資本金3億8,700万円、従業員約220名)は、新来島どっくグループに属する沿岸船専門ヤードである。2023年3月期の売上高は141億1,000万円となり、1万~3万トンクラスのバルクキャリアやケミカルタンカー、LNG燃料対応船などを建造する。2025年5月には国土交通省「造船DXオートメーション実証事業」に採択され、溶接ロボットの現場適用による省人化・効率化を図る実証事業を開始するなど、生産性向上と環境対応を両立する取り組みが進む。高知県内最大級の造船事業者として、海洋関連技術と雇用を支える基幹企業である。
15 位 ニッポン高度紙工業〈高知市〉 売上 148億2,800万円〈2024/3〉
名門ポイント: コンデンサ用電解紙の専業トップとして 2024年3月期に売上高148億2,800万円を計上した。決算短信では営業利益17億円と堅調な収益を確保しており、海外売上比率は約5割に達する。アルミ電解コンデンサ用セパレータは国内95%、世界でも約6割のシェアを占め、データセンターや車載EV向けの需要が下支えとなった。製品面では、国内外の車載用途や産業用電池向けのLIBセパレータ「Cellulion®」を量産し、再エネ・電動車市場の拡大を取り込む。2022年には南国工場(現NKKソリューションズ)で使用電力を実質再エネ100%へ転換し、全温室効果ガス削減に着手した。中期事業計画(2025〜27年度)では研究開発投資を拡大し、生産能力増強と高付加価値品の開発に重点を置く方針を示している。土佐和紙の技術を源流に持つニッチトップ企業は、脱炭素と電子部品の高度化という二つの潮流を追い風に、グローバル市場での存在感をさらに高める構えだ。
14 位 宮地電機〈高知市〉 売上 152億8,000万円〈2024/3〉
名門ポイント:1946 年創業。四国全域11拠点の電材営業部で電気設備機器シェア首位を掲げ、2024年3月期売上高152億8,000万円・従業員305人を計上する。経済産業省「省エネお助け隊」に採択され、省エネ診断や補助金活用支援を行うほか、自家消費型太陽光や蓄電池を組み合わせた脱炭素ソリューションを提供し、エネルギーコスト削減ニーズを取り込む。住宅設備ショールーム「ラ・ヴィータ」を高知・高松・松山などに展開し、照明・インテリアの展示、展示サンプルの貸し出、サンプル取り寄せを全て無料で行い体験型提案を強化する。設計支援と現場配送を一貫提供し、地域密着型の独立系商社として快適空間づくりとカーボンニュートラル推進を両立させている。
13 位 明星産商〈南国市〉 売上 156 億円〈2024/6〉
名門ポイント: ウェットティッシュや医薬部外品を中心にOEM生産を手掛ける生活消耗品メーカーである。マイナビ企業データなどによれば、2024年6月期の売上高は156億円、従業員数は605人。ポケットティッシュ、立体マスク、化粧品チューブ充填など多様な小分包製品を国内外大手ブランドから受託し、OEM分野でトップクラスの実績を築く。南国・富士宮・岡山の4工場は相互バックアップ体制を採り、急な大量発注や災害時でも安定供給できるBCPを構築。生産ラインには大ロット設備と小ロット対応設備を併設し、試作から量産までのリードタイム短縮を図る。さらにSDGs方針の下で廃棄ロス削減と再生可能エネルギー導入を推進し、顧客のサステナブル調達要件にも応える「高知発ニッチリーダー」として評価を高めている。
12 位 サンシャインチェーン本部〈高知市〉 売上 207 億円〈2024/3〉
名門ポイント: 1961年創業のボランタリーチェーン本部で、直営・加盟を合わせ計29店舗を展開する【消費者庁資料】(2022年公表)。2024年3月期の単体売上高は207億円、グループ年商は320億円に達し、従業員はアルバイトを含め1,074名(社員234名)であるとマイナビ会社概要に開示する。ネットスーパーを2021年9月に開始して県外顧客も取り込むと業界誌「エラベル四国版2026」が報じる。直営各店ではゼロエネルギー住宅のような省エネ機器展示や地産地消コーナーを常設し、食の安全・安心と地域循環型ビジネスを掲げる企業理念を体現している。
11 位 大旺新洋〈高知市〉 売上 222億2,765万円〈2024/6〉
名門ポイント: 1951年創業の総合建設会社で、2024年6月期の売上高は222億2,765万円に達した。浚渫船5隻、揚土船3隻を自社保有し、全国で陸上土木を手掛けるほか、斜面安定や舗装工事も担う。専門誌「CONST-MAG」でも取組事例が紹介された。環境事業ではフロン破壊処理プラントを運営し、資源循環と脱炭素に貢献する。さらに同社は「こうちSDGs推進企業」および経産省の健康経営優良法人(ホワイト500)の認定を受け、防災機能を備えた津波避難ビル型本社で地域防災にも寄与する。従業員は422人
10 位 高知銀行〈高知市〉 経常収益 230 億 円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:こうぎんアプリを基盤に無通帳の「WEB口座」を展開し、振込や少額送金などのスマホ完結型サービスを2025年3月に拡充した〔ニュースリリース〕。freeeとのクラウド連携で法人資金管理を効率化し、中小企業のDXも後押しする。地域企業の成長支援では、オーシャンリースと共同運営する「こうぎん地域協働ファンド」(1号6億円、2号3億円)を通じ創業・新事業に投資。県内貸出比率67%超の地場銀行として、デジタル化と地域投資の二軸で経営基盤を強化している。
9 位 エースワン〈高知市〉 売上 279 億円〈2024/2〉
名門ポイント: 高知・愛媛・香川に食品スーパー「エースワン」16店と「エーマックス」3店の計19店を展開する地域チェーンである。マイナビ会社概要によれば、令和6年2月期の売上高は279億円、従業員数1,181人、資本金4,000万円で、店舗網は四国内に限定しながらも年商を着実に伸ばしている。地場鮮魚や量り売り総菜を強みに、購買データ分析で品揃えを地域ごとに最適化し、公式LINEでチラシ情報を配信するなどDXを推進。さらに、レシート金額の一部を地域団体へ還元する「スマイルレシートサービス」を通じ、2024年度は250超の団体に累計1,141万円を支援し、食品ロス削減と地域共生を両立している。
8 位 技研製作所〈高知市〉 売上 294億8,100万円(連結)〈2024/8〉
名門ポイント: 油圧式杭圧入引抜機『サイレントパイラー』を主力とする技研製作所(高知市)は、2024年8月期連結売上高294億8,100万円、営業利益33億24百万円を計上した〔決算短信〕。事業の8割を占める建設機械部門がPress-in Methodの省力化需要を取り込み、収益を押し上げた。同機は経産省「新グローバルニッチトップ企業100選」で世界シェア9割超と評価され、市場の6割強を握る〔同選定リリース〕。決算説明資料によれば海外売上比率は四半期で16.5%。北米・欧州を中心に拡大中である。圧入自動化技術を磨くことで世界40超の国・地域に展開する建設DXの旗手として存在感を高めている。
7 位 東洋電化工業〈高知市〉 売上 335億5,900万円〈2024/3〉
名門ポイント: フェロシリコンや各種球状化剤など製鋼用添加剤を一貫製造する国内屈指のフェロアロイ専業メーカーで、2024年3月期の単体売上高は335億5,900万円、従業員245名を公表している。海外取引が拡大しており、県の人材サイトでは「海外売上比率8割のグローバル企業」と紹介されるなど国際販売比率が高い。気候変動対応では、2030年度までに2013年度比46%のCO₂排出削減を掲げ、水力100%由来のCO₂フリー電力を2022年度から導入済みとサステナビリティレポートに明記する。副生成スラグの再資源化や省エネ炉設備の更新も進め、素材産業の脱炭素ニーズに応える体制を整えている。
6 位 サニーマート〈高知市〉 売上 455億6,100万円〈2023/9〉
名門ポイント: 県内外に直営23店(FCを含むとおよそ35店)を展開する地域密着スーパーのサニーマートは、2023年9月期に連結売上高455億6,100万円を計上した。鮮魚を対面で丸ごと捌くライブ売場や店内調理惣菜を軸に、高付加価値型の生鮮フォーマットで客単価を押し上げている。リニューアル店舗では鮮魚ショーを組み込んだ「鮮魚市」を常設し、買い物体験を演出する。2015年にはローソンと合弁会社「ローソン高知」を設立し、小商圏コンビニのノウハウを吸収して複合出店を拡大した。高齢化地区には移動スーパー「とくし丸」20台以上を走らせ、買い物弱者対策と地域見守りを両立。さらに食品残渣を堆肥化するリサイクルループで再資源化率80%を達成し、循環型ビジネスにも注力している。
5 位 四国銀行〈高知市〉 経常収益 538 億3,300 万円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント: 1878年創業の第二地銀で、高知市南はりまや町に本店を置く。2025年3月期の連結経常収益は538億33百万円と過去最高を更新し、総資産は3兆3,751億円に達した。同行は事業承継・創業支援を目的とする「しぎん地域活性化ファンド」1号・2号を組成し、累計投資額は70億円超に拡大。オンライン完結型のデジタルローンセンターにより審査から実行まで最短5営業日へ短縮し、手数料収益を底上げした。2024年12月には県産スギを主要構造材とする延べ約1.4万㎡の新本店ビル着工を発表し、林業バリューチェーンの活性化を図る。さらに2019年から業界標準APIを公開し、会計・家計簿アプリとの連携取引が月間25万件を突破するなどフィンテック分野で先行し、非金利収益の強化と地域経済のデジタル化を牽引している。
4 位 中澤氏家薬業〈南国市〉 売上 597 億円〈2023/3〉
名門ポイント: 南国市に本社を置く医薬品卸大手で、マイナビ会社概要によると2024年3月期の売上高は597億円、従業員は約365人とされる。香川本社を含む二拠点体制で四国全域をカバーし、医療用から介護・食品原材料まで幅広い商材を扱う。2017年に津波浸水域外へ移転した免震構造の新本社は、非常用発電機とヘリポートを備え、停電時でも物流を維持できるBCP拠点として設計された。ワクチンなど温度管理が厳しい製品にも対応する。2024年6月には水深1メートルでも走行可能な四輪駆動の災害対策車両2台を導入し、被災地への医薬品配送力を強化した。同年12月には南国市と「災害時物資供給協定」を締結し、飲料水やマスクなどを即時提供できる枠組みを整備した。これにより、南海トラフ地震など大規模災害時の医薬品ライフライン確保体制を一段と強化し、地域医療のレジリエンス向上に寄与している。
3 位 JA高知県〈高知市〉 販売取扱高 651 億〈2024/3〉
名門ポイント: 2019年1月、県内12JAと連合会機能を統合して誕生した県域組織である。2024年3月期の販売品取扱高は651億円、出資金98億円、正職員1,323人を擁し、ユズ・ショウガなど園芸作物が販売高の6割を占める。県内産地の荷を一括する「JA園芸流通センター」では2000年から低温パレット共同輸送を実施し、鮮度保持とトラック積載効率を両立させた。東京・大阪など量販店との予約相対取引を拡大し、首都圏・関西への直販比率を高めている。生産面では県版GAP「こうち環境・安全・安心点検」を推進し、低温物流・独自GAP・スマート農業支援を三位一体で展開し、6次産業化や輸出の伸長を通じて組合員所得の向上と県産ブランド力強化を図っている。
2 位 カメラのキタムラ〈高知市〉 売上 898 億4,192 万円〈2024/3〉
名門ポイント: 全国に「カメラのキタムラ」約560店、子ども写真館「スタジオマリオ」約295店、Apple正規サービスプロバイダ65店を展開する国内最大級の写真流通チェーンである。2024年3月期の売上高は898 億4,192万円で、24年4月には店舗運営会社と間接部門を分社化し効率経営へ移行した。店頭プリント・ネットプリント・スマホアプリを連動させたオムニチャネル体制を敷き、写真プリントに加えて中古カメラ・スマホ買取やApple修理、LINE査定による即時見積もりなどリユース事業も強化する。配送買取の代金を送金アプリ「pring」とAPI連携し24時間リアルタイムで振り込む仕組みを導入するなど、デジタルサービスで顧客接点を拡張し粗利率を改善している。
1 位 旭食品〈南国市〉 売上 5,609 億9,000 万円(連結)〈2024/3〉
名門ポイント: 2024年3月期連結売上高5,609億9,000万円を計上して過去最高を更新した。同社は高知・東京の二本社体制で、全国4支社13支店17営業所と物流センターを結ぶドライ・冷蔵・冷凍の3温度帯混載網により多品種食品を供給する。福岡県古賀市の低温拠点などで一体運用を進め、輸送効率を高めている。 2024年7月には輸入卸イマイを買収し調達網を拡充。南国市四国総合物流センター屋根に流通業最大級の太陽光発電設備を早期導入し、グループ全体で再エネ発電拠点を23カ所に拡大するなど脱炭素経営を推進する。さらに1973年からよさこい祭りに企業チームで出場し、最大スポンサーとして地域文化も支えている。
総評
高知県の産業基盤は「食品卸+農協」「写真・流通」「地域金融」「ニッチ製造」の四層構造。旭食品と JA が外貨を稼ぎ、キタムラ・サニーマートが消費網を支え、四国銀行・高知銀行が資金循環を担保する。製造業は圧入機、フェロアロイ、電解紙など世界ニッチを押さえ、脱炭素とDXで競争優位を強化。2025 年度も 地産外商 と GX/DX が共通テーマとなり、県都・太平洋ゲートウェーとしてのポテンシャルが一段と問われる。