
高齢者やその家族による暴力・暴言、不当な要求――介護の現場で今、こうした「カスタマー・ハラスメント」(以下、カスハラ)が深刻な問題となっている。2025年4月、東京都は全国に先駆けてカスハラ防止条例を施行し、5月には新たに「介護職員カスタマー・ハラスメント総合相談窓口」を開設した。都内の介護従事者を対象に、無料での電話・メール相談を受け付け、匿名でも対応する。
増加するカスハラ、介護離職の引き金に
東京都福祉保健局によると、介護職員への理不尽な言動は年々増加傾向にあり、業務に支障を来すだけでなく、職員のメンタルヘルスを損ない、離職に直結する事例も多いという。とくに、利用者本人ではなく家族による執拗なクレームや暴言、無理なサービス要求が目立つ。
介護施設の管理者からは、「『金を払っているんだから言うことを聞け』と怒鳴られた」「夜中に何度も電話をかけてきて、担当者を出せと強要された」などの声が寄せられている。
東京都の相談窓口が始動
今回開設された「介護職員カスタマー・ハラスメント総合相談窓口」は、都内で介護に従事する職員・管理者に対応する。訪問介護や福祉用具の貸与・販売などの在宅サービス従事者も含まれ、現場の多様な実態を反映した設計となっている。相談は無料で、電話・メールの両方に対応。匿名での利用も可能で、職場に知られずに相談できる仕組みとなっている。
カスハラへの具体的な対応策
東京都は、現場レベルでの対応マニュアルの整備や、研修を通じた職員の対応力向上にも乗り出している。以下のような対応策が提案されている。
対応策 | 内容 |
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マニュアル整備 | 想定されるハラスメント行為への対応手順を標準化。職員の対応に一貫性を持たせる。 |
記録の徹底 | ハラスメントの発生日時・内容・対応の詳細を記録し、トラブル発生時の証拠とする。 |
第三者の立ち会い | 訪問介護や面談時に、可能であれば複数名で対応し、理不尽な要求を抑止する。 |
上司や管理職への即時報告 | 現場だけで対応を抱え込まず、組織として早期に対応する体制を構築。 |
相談窓口の活用 | 精神的に追い詰められる前に、外部窓口を利用し、助言や支援を得る。 |
また、カスハラを受けたことにより心理的負担が大きい場合には、産業医やカウンセラーとの連携も勧められている。
社会全体での理解と啓発が必要
介護の現場は、利用者の生活を支える最前線であると同時に、人と人とが密接に関わる繊細な職域でもある。高齢化が進むなか、介護従事者の確保と定着は喫緊の課題であり、現場の安心と尊厳を守る体制整備が急務となっている。
このために、介護従事者でない人々に求められる行動もある。
介護従事者でない人ができること | 内容 |
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現場への理解を深める | 介護は専門性と負担の大きい職業であるという認識を持つ。 |
言動に配慮した利用姿勢 | 冷静で敬意ある対話を心がけ、感情的な対応を避ける。 |
ハラスメントの見過ごしを防ぐ | 家族や知人の言動にも目を配り、不適切な行動には注意喚起を。 |
地域での啓発参加 | 見学会や講座、ボランティアなどを通じて介護現場を理解する。 |
政策への関心と声の発信 | 福祉政策に関心を持ち、選挙や地域行政に意見を届ける。 |
カスハラは一部の悪質な利用者だけの問題ではなく、社会全体の価値観と意識が問われる課題である。職員を守る制度づくりとともに、ひとりひとりが「介護の尊厳」を支える当事者であるという認識が、いま求められている。