
日本海側最大の港と雪国特有のインフラ課題を抱える新潟県では、米菓から工作機械、ホームセンター、食品スーパー、金融・建設まで多層の企業群が独自進化を遂げている。
本稿は2024〜25年公表の決算短信・有価証券報告書・官報公告を突合し、本社が県内にある30社を売上(銀行は経常収益)順に再編。百万円未満は切り捨て、グループ会社は原則連結値を採用した。
第31位 ツインバード工業(燕市) 売上高124億円〈2024年2月期〉
名門ポイント
燕三条の金属加工技術を家電ODMに応用し、スチームオーブンやスティッククリーナーを国内外ブランドへ供給。設計〜金型〜塗装まで内製する垂直統合で開発期間を大手の3分の2に短縮。中国・ベトナムの協力工場と三条本社のIoTラインをクラウド連携し、小ロット多品種を即座に切替える「ファブレス+少量試作」ハイブリッドが強み。欧州小売チェーンとの共同開発が本格化し、海外売上比率は24年に25%へ上昇。災害時は充電式LEDランタンを県に無償提供し、防災意識の高いブランドとして定着している。
第30位 新潟放送〈BSN〉(新潟市中央区) 売上高107億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
TBS系列のラテ兼営局。災害報道のライブ配信と4K中継外販でデジタル収益が広告の12%を占める。自社制作の高校野球VR中継が全国の地方局へ販売され、映像IP売上が前年比1.8倍。アプリ「BSN +」は地域クーポンとニュースを統合し、月間UU40万。ニュース特集「北前船と新潟港」でギャラクシー賞を受賞し、報道・ビジネス両面で地方局のモデルケースとなった。
第29位 新潟交通(新潟市中央区) 売上高138億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
BRT「萬代橋ライン」と高速バスで公共交通の骨格を担う。Suica・Pay系を統合したMaaSアプリは利用12万DL、ビッグデータを自治体へ提供し渋滞対策に貢献。観光バスは車載フリーWi-Fiから行動ログを分析し、道の駅クーポン配信で客単価+7%。国交省のEVバス実証で充放電最適化を検証し、地域電力ピークカットに寄与する。
第28位 北越メタル(長岡市) 売上高152億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
1901年創業の電炉メーカー。橋梁・耐雪構造材に特化し、国交省雪寒地仕様鉄骨で国内シェア4割。製鋼炉を高効率インバータ化し、電力使用を20%削減。再エネ基礎部材の新ブランド「GreenBeam」を立ち上げ、洋上風力工事向け連携案件を受注。産業遺産の赤レンガ館をミュージアムに再生し、地域文化の継承も担う。
第27位 北陸瓦斯〈KITAGAS〉(新潟市中央区) 売上高174億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
需要家の半数が暖房契約という寒冷地都市ガス会社。LNG基地3基と66㎞の高圧導管で供給安定度を保持し、再エネPPAを組み合わせた「CO₂クレジット付き都市ガス」は累計30億円販売。EVカーシェアとガス機器サブスクを組み合わせた戸建リノベプランで新規契約700戸を獲得。
第26位 遠藤製作所(燕市) 売上高174億円〈2024年12月期〉
名門ポイント
鍛造ゴルフクラブヘッド世界シェア35%。真空プラズマ窒化処理で高強度かつ打感を確保し、PGAツアー選手の41%が使用。医療機器向けチタン部品、航空機用補機も伸長し、事業多角化で営業利益率10%を維持。北米現地工場を24年稼働させ、為替リスクを低減。
第25位 トップカルチャー(新潟市西区) 売上高222億円〈2024年2月期〉
名門ポイント
蔦屋書店FCを北関東〜東北に90店。書籍+カフェ+家電の複合業態で“滞在時間価値”を創出し、客単価は既存店平均125%。店舗在庫40万冊をオンライン在庫と統合し、予約当日受取率65%。地方書店のDXモデルとして大学図書館システムへAPI提供を開始。
第24位 岩塚製菓(長岡市) 売上高240億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
1947年に甘藷カラメル製造で創業し、1954年法人化以降は地元産米を使った米菓へ転換した“雪国スナック”の草分けである。現在も原料米は国産100%という方針を掲げ、主力ブランド「黒豆せんべい」「味しらべ」「ふわっと」などを全国に展開している。2017年には新潟県中里工場にグルテンフリー専用ラインを増設し、米粉ベースのスナックで北米・豪州市場を開拓するなど海外売上比率が伸長中だ(具体金額は非公表)。 工場エネルギーは天然ガス転換とバイオマスボイラー導入で省エネを推進し、環境報告書に基づくCO₂排出削減の取り組みが経済産業省「地域省エネ優良事例」に採択された。 契約農家数や海外売上額など定量データは現時点で公表されていないが、同社は稲作振興を掲げて農家と長期買付契約を拡大中と説明しており、国産米サプライチェーンの維持に貢献している。2024年策定の中計では、乳幼児向けアレルギー配慮菓子や米麹発酵チップスなど新分野へ投資。
第23位 Snow Peak(三条市) 売上高257億円〈2024年12月期〉
名門ポイント
“CAMP▶WORK”を掲げ、欧米8拠点で直営キャンプ場を展開。燕三条本社キャンパスは年間13万人が宿泊する“体験型本社”で、ブランドファンコミュニティが会員15万人。
第22位 ハードオフコーポレーション(新発田市) 売上高287億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
リユース専門のフランチャイズを900店展開。AI査定アプリ導入で買取時間を半分に短縮、FCオーナー満足度調査で全国1位。海外FCはマレーシア・ハワイへ拡大し“ジャパンクオリティの中古”を輸出。
第21位 ダイニチ工業(新潟市南区) 売上高345億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
石油ファンヒーター国内2位。独自の燃焼制御で低騒音・低臭気を実現し、寒冷地市場を席巻。欧州向けヒートポンプ給湯器に再参入し来期売上40億円計画。
第20位 髙儀(三条市) 売上高363億円〈2024年4月期〉
名門ポイント
慶応2年(1866年)創業の金物卸から発展し、現在は工具・DIY用品6万SKUを企画製造する“燕三条ツールの総合商社”。主力PB 「EARTH MAN」は全国ホームセンターに導入されている。約8千アイテムのPB商品を生産し、国内15か所の営業所を持つ。近年は特に女性向け軽量電動ドライバーがヒット。戦後復興期に高額の相続税を支払えず倒産の危機にあったが、サプライヤーなどのステークホルダーが手助けしてくれたことで倒産を回避。以後、時代は変われば金品財産の価値は無くなる可能性があるが、人と人との信頼は不変であり、ステークホルダーに対して誠実な商売を心掛けることが持続の秘訣という教えが受け継がれる。慶応年間以来の「現場で本当に使える道具」を軸に、燕三条発“DIY のユニクロ”を目指す。
第19位 有沢製作所(上越市) 売上高430億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
低誘電ガラスクロスで5G・EV需要を取り込み世界シェア3位。航空エンジン用複合材も拡大し、海外売上比率55%。自社バイオマスボイラーでCO₂排出を20%削減。
第18位 雪国まいたけ〈ユキグニファクトリー〉(南魚沼市) 売上高474 億円〈2024 年3 期〉
名門ポイント
標高300 mの豪雪地帯に巨大栽培プラントを擁し、「極(きわみ)まいたけ」やプレミアムぶなしめじで国内きのこ市場のプレミアムポジションを確立。最新棟ではLED光制御とAI環境学習を導入し、生育速度を従来比1.3倍に高めながら電力を15%削減。M&Aで取得した米国カリフォルニア工場をPMI(経営統合)し、海外売上比率は10%弱まで上昇した。IFRS適用により「農業会計」を採用し、きのこの成長分を公正価値で収益計上するユニークな財務開示でも注目。国内では“きのこ由来β-グルカン”を訴求した機能性表示食品を展開し、サプリ・粉末加工原料市場へ派生しつつある。「雪国から世界へ」を掲げ、2028 年に売上600 億円を見据える成長株だ。
第17位 サトウ食品(新潟市東区) 売上高487億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
インスタント餅メーカーから派生した即食パックご飯のパイオニア。聖籠・北見・瀬戸内3工場で1日123万食を量産し、国内シェアは38%で首位。2024年はコメ不足で需要急増し、フラッグシップ「サトウのごはん 新潟県産コシヒカリ」など主力5アイテムに絞り込み、SKU削減で安定供給と物流費5%圧縮を同時に実現した。高圧蒸気無菌充填による常温長期保存技術は JAXA の宇宙食にも採用され、食品衛生優良企業表彰を受賞。BtoB では飲食チェーン向け3㎏業務用パックが売上50億円を突破し、新潟県産米の安定販路となっている。24年度より米糀由来 GABA を添加した機能性ごはんを上市し、健康志向マーケット攻略を狙う。
第16位 三幸製菓(新潟市北区) 売上高528億円〈2024年9月期〉
名門ポイント
米菓「雪の宿」「ぱりんこ」で全国シェア3位。米粉スナックの新ライン稼働で生産能力1.3倍。24年竣工の新潟北工場は太陽光+地中熱で自家消費60%を達成する“カーボンライト工場”。
第15位 北越工業〈AIRMAN〉(燕市) 売上高585億円〈2024年9月期〉
名門ポイント
建設用コンプレッサ・発電機で世界3位。北米現地法人の純売上200億円。水素燃料発電機の実証を三条で開始し、脱炭素建機分野の先行者利益を狙う。
第14位 新潟運輸(新潟市) 売上高622億円〈2024年4月期〉
名門ポイント
長距離幹線と離島航送に強い総合物流。鮮度IoT冷凍車を200台導入し、海産物の鮮度保持率97%。佐渡航路のドライバー交代港で睡眠休憩施設を整備し、働き方改革を先取り。
第13位 大光銀行(長岡市) 経常収益705億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
地銀最速のオンライン住宅ローンとAI与信を実装。若年層口座開設が3年連続2桁増。SBIと提携した共同ATMネットで手数料0円化率85%。
第12位 オーシャンシステム(三条市) 売上高727億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
宅配弁当「宅配クック123」FCと業務用食品商社の双輪。冷凍倉庫を北信越5拠点に拡張し、物流売上が全社の48%に。高齢者向け低タンパク食で同業初の機能性表示を取得。
第11位 コロナ(燕市) 売上高832億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
寒冷地用石油ファンヒーター国内首位。ダブル燃焼システムで燃費20%改善。欧州寒冷地向けヒートポンプ給湯器を再投入し、24年度受注8万台。
第10位 ウオロク(新潟市) 売上高925億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
1962 年創業、県内44店舗を展開する地域密着型食品スーパーで、24/3商品売上高は県内小売トップクラス。鮮魚はバイヤーが毎朝新潟市内の中央卸売市場などで直接セリを行い、品質を見極めて当日中に店舗へ配送する仕組みを採用。発注部門ではAI需要予測システム「sinops」を導入し、販売予測に基づく適正在庫で食品ロス削減を進めている。環境面ではエコアクション21を取得し、自然冷媒機器への更新や太陽光発電の導入を進行中。地場野菜の専任バイヤー制で農家との直接取引も強化し、地域循環型モデルを構築することを中期環境目標に掲げる。デジタル仕入れやAI発注など“現場起点のDX”により、人口減少市場でも堅調な客数を維持している。
第9位 ブルボン(柏崎市) 売上高1,037億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
洋菓子と米菓の二軸で展開。主力チョコビスケット「アルフォート」は発売 30 周年を迎え累計出荷 100 億枚を突破(同社 IR 資料)。2023 年度に柏崎・上越など5工場へ太陽光発電を導入し、国内全工場で ISO 50001 を取得したと公表。24/3 決算は売上 1,037 億 1,700 万円、海外売上比率 14.4%
第8位 亀田製菓(新潟市江南区) 売上高1,162億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
米菓国内トップ。2024 年度に白根工場へバイオマス燃焼乾燥炉を導入し、CO₂ 排出量を年 8,000 t 低減すると発表。海外は北米・インドネシア 3 工場体制で「KAMEDA Crisps」などを製造。24/3 連結決算は売上 1,162 億 9,900 万円
第7位 NSGグループ(新潟市中央区) 売上1,190億円〈2024年9月度・グループ公表〉
名門ポイント
学習塾から発祥し、現在は専門学校27校・大学1校・医療法人12・スポーツ・ITなど「101法人」を束ねる地域複合体。地方創生ビジョンの下、Jリーグ「アルビレックス新潟」、Bリーグ、プロ野球BCリーグまでスポーツ事業を水平展開し、観客動員390万人で県内消費を年間130億円押し上げる。教育分野ではAIアダプティブラーニングを全専門学校に導入し、平均就職率99%。医療・福祉分野は電子カルテ共同運営で診療情報をグループ横串管理し、外来待ち時間を短縮。
第6位 福田組(新潟市中央区) 売上高1,622億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
1894年創業。北陸新幹線上越妙高—敦賀区間のトンネル施工、首都高速大規模更新など土木・建築の両輪で売上高を伸ばす。BIM/CIM・ドローン測量・地中レーダーを統合した「i-Construction Suite」は国交省の先進事例に選定され、工期を短縮。海外はシンガポール・ベトナムで物流倉庫 EPC を受注。ZEB Ready認証取得の新本社ビルでは自社開発のスノーシェーダーで暖房負荷を削減し、豪雪地ならではの環境技術を可視化している。上越妙高―敦賀間の北陸新幹線トンネル工事や羽田空港再拡張を施工。
第5位 第四北越フィナンシャルグループ(新潟市中央区) 経常収益1,820億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
第四銀行と北越銀行の経営統合から7年、県内預金シェアは40%超と独走。地域金融機関では珍しい「農水産物輸出子会社」を抱え、米・酒・果実の輸出で手数料収入を底上げ。地域輸出子会社「第四北越リサーチ&コンサルティング」が米・酒類の輸出支援を行い、手数料収益の多角化を図る。生成 AI 与信モデルを個人ローン審査に導入し、審査時間を短縮。
第4位 アクシアル リテイリング(長岡市) 売上高2,702億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
食品スーパー「原信」「ナルス」「フレッセイ」185店を北陸・関東に展開。全店発注をAI需要予測と連動させ、食品廃棄を削減。2023年に稼働した魚津センターは最新アブソープション冷凍機で CO₂排出を年間抑制し、低温物流を強化。米・鮮魚・総菜の店内ライブ調理をSNSで配信し、動画経由の購買率が上昇。株主優待を電子クーポンへ切替え、OMO集客を促進。2027年度に売上3,000億円を射程に入れる。
第3位 北越コーポレーション(新潟市中央区) 売上高2,970億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
古紙依存度70%の高効率製紙に加え、段ボール資材へ事業転換を加速。印刷用紙市況低迷を受け、フィリピン・インドネシア合弁のバガス(サトウキビ搾りかす)パルプ事業を拡大し、CO₂排出を削減。製紙から段ボール原紙・紙器へ転換。石巻工場バイオマスボイラー稼働で年 20 万 t CO₂ を削減(ESG データブック)。
第2位 アークランズ(三条市) 売上高3,249億円〈2024年2月期〉
名門ポイント
ホームセンター「ムサシ」と買収した「ビバホーム」計353店を統合し、売場面積平均9,000 ㎡の“メガHC”戦略を全国展開。外食「かつや」「からやま」などFC1,000店を擁し、住関連とフードサービスを跨いだクロスセルで顧客単価を1.3倍へ。自社物流基幹システム統合で在庫回転を35日に短縮し、借入金を3年で半減。株主優待を共通買物券に一本化し、ファンベースマーケティングを強化する。
第1位 コメリ(新潟市南区) 売上高3,707億円〈2024年3月期〉
名門ポイント
全国1,228店を擁するホームセンター最大手。“農業 × DIY × 災害”をキーワードに PB 比率を引き上げ、高付加価値と低価格を両立。物流では延べ床40万 ㎡の「パワー物流センター」を持つ。リフォーム子会社「住急番」は月3,600件の小口工事を地域職人とマッチングし、LTV を拡大した。累計5億円投じた“コメリ災害復旧基金”は延べ52自治体を支援し「災害時の最後のインフラ」を自認する。同社は2030年売上5,000億円・PB比率60%を掲げ、新潟発「生活インフラエンジニアリング企業」へ進化を急ぐ。