
東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドが、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に対する基本方針を策定し、施設の利用拒否を含む厳格な対応姿勢を打ち出した。発表は4月18日。同社は、従業員の安全確保と顧客体験の質を守る観点から、必要に応じて警察通報や法的措置も取ると明記している。
カスハラの定義と対応範囲を明文化
今回の基本方針では、カスハラの定義を厚生労働省のガイドラインに基づき、「社会通念上不相当な言動や要求」と位置づけた。具体的な事例としては以下が挙げられている。
- 長時間の電話や園内での居座り
- 従業員への盗撮やつきまとい行為
- SNSを用いた誹謗中傷や名誉毀損
オリエンタルランドでは、これらの行為が確認された場合、原則としてサービス提供を停止し、当該人物に対する施設の利用制限、いわゆる「出禁(出入り禁止)」措置を講じる方針を打ち出した。
広報担当者は「これまでもキャスト(従業員)が対応に苦慮するような事案は発生していた。キャストとゲスト双方の安心と安全を確保し、より良い体験価値を守るための施策として定めた」と説明している。
他業種でも進むカスハラ対策
カスハラ問題への対策は、近年小売・外食業界を中心に広がりつつある。以下は主な企業の取り組み例である。
企業名 | 業種 | 主な対応策 |
---|---|---|
ユニクロ(ファーストリテイリング) | アパレル | 不当な要求を受けた際の店舗対応マニュアルを策定。必要に応じて警察に通報 |
日本マクドナルド | 外食 | 店舗スタッフへの暴言・暴力に対し、利用拒否・通報の指針を策定 |
東京メトロ | 交通 | 駅係員に対する暴言・暴行の急増を受け、駅構内に「ハラスメント禁止」ポスターを掲示 |
東急ハンズ | 小売 | カスハラの定義を社内で共有し、顧客対応マニュアルを明文化 |
これらの企業は、従業員の離職要因にもなりかねない悪質な顧客対応への明確な指針を設け、サービスの質と職場環境の両立を図っている。
対策の効果と限界——“グレーゾーン”の判断が焦点に
企業がカスハラ対策を具体的に打ち出すことで、一定の抑止効果と従業員の精神的支援が期待されている。
まず、行為の具体例や利用拒否措置などを明文化することで、「カスハラは許されない」という企業の立場を明示し、悪質な行為の抑制につながる可能性がある。とくに利用者に対し、違反行為が組織的に記録・対処されることを伝えることは、抑止力として機能しやすい。
また、従業員側にとっても、明確な基準と対処方針が示されることで、孤立せずに会社として対応できる体制が整い、精神的負担の軽減や早期離職の防止につながるとされる。
一方で、「苦情」と「ハラスメント」の線引きは依然として難しく、企業側の対応が「クレーム封じ」と受け取られるリスクもある。とくに真摯な要望との区別が曖昧なケースや、SNS上での匿名的な中傷など、店舗外での行為への対応は依然として課題が残る。
専門家の中には、企業単独では限界があるとし、業界横断的な連携や、法整備、警察・行政との協力体制の構築を呼びかける声もある。実際、日本労働組合総連合会(連合)が2021年に実施した調査では、カスハラを経験した労働者の約6割が「会社の対応に不満がある」と回答しており、対策の“実効性”が現場で問われている。
社会的規範の見直しへ——企業・社会の両輪が求められる
カスハラ問題は、単なる業務妨害にとどまらず、従業員の心身の健康や企業のサービス品質にも影響を及ぼす。今後は、オリエンタルランドのように方針を公表する企業が増えることで、社会的な許容範囲の見直しが進むと同時に、法的・倫理的な基準の整備も重要になると見られる。
企業単位の取り組みと、社会全体での理解の醸成。この“両輪”が揃わなければ、カスハラ問題の根本的な解決は見えてこない。