
セブン&アイ・ホールディングスは、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールからの買収提案を拒否し、自力での企業価値向上を目指す方針を固めた。これに伴い、井阪隆一社長が退任し、後任には社外取締役のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が就任する見通しだ。外国人が同社のトップに就くのは初めてとなる。
買収提案の背景と拒否の理由
アリマンタシォン・クシュタールは、2024年8月にセブン&アイに対し約7兆円規模の買収提案を行った。しかし、セブン&アイの取締役会は、提案額が企業価値を著しく過小評価していることや、米国での競争法上の懸念が払拭されていないことを理由に、全会一致で提案を拒否した。
特に、米国市場での競争法の問題は深刻視されていた。セブンイレブンは国内で21,535店舗、海外で84,541店舗(日本は2024年2月末現在、日本以外は2023年12月末現在)を展開し、世界でも最大規模のコンビニエンスストア網を誇る。しかし、クシュタールも北米を中心に広範な店舗網を持ち、両社の事業が米国市場で大きく重複している。
そのため、独占禁止法に抵触するリスクが高まり、規制当局の承認が得られない可能性が指摘されていた。米国の公正取引委員会(FTC)や司法省が、特定地域における市場寡占の可能性を問題視することは必至と見られていた。加えて、競争法の問題が長期化することで、買収プロセスが遅延し、企業価値がさらに毀損される懸念もあった。
新体制への期待と課題
新社長に就任するデイカス氏は、西友のCEOやセブン&アイの取締役会議長を務めた経験を持ち、グローバルな経営感覚を備えているとされる。同氏のリーダーシップのもと、セブン&アイは国内外のコンビニエンスストア事業の強化や、イトーヨーカ堂を含む非中核事業の整理を進める見込みだ。
一方で、課題は少なくない。セブン&アイの主力事業であるコンビニエンスストア部門は、国内外で競争が激化している。特に、米国では物価高の影響で消費者の購買意欲が低下し、店舗の売上が伸び悩んでいる状況だ。さらに、国内でも低価格商品の投入による客足の回復が見られるものの、高品質路線とのバランスをどのように取るかが問われている。
今後の展望
セブン&アイは、新体制のもとで企業価値向上のための具体的な戦略を示す必要がある。特に、国内外のコンビニ事業の強化や、不採算事業の整理が焦点となる。特に海外市場では、セブンイレブンの84,541店舗という圧倒的な規模を活かしつつも、北米での競争環境への対応が課題となる。
また、米国市場においては、クシュタールによる再度の買収提案や、他の外資企業からのアプローチが依然として排除できない。米国の公正取引委員会(FTC)や司法省が、独占禁止法の適用を厳格化する動きがある中、競争法の問題が今後どのように影響を与えるかも注視される。加えて、米国内での消費動向や物価高の影響を見極め、セブン-イレブンのビジネスモデルを適応させていくことが急務となる。
株主やステークホルダーに対する透明性の高い説明と迅速な対応が求められるなか、セブン&アイは今後どのような舵取りを行うのか。5月の株主総会での決定が注目される。