三井住友信託銀行の元社員が、業務上知り得た未公表情報を利用しインサイダー取引を行った疑いで、証券取引等監視委員会の強制調査を受けた。
元社員は不正を自主申告し、懲戒解雇されたが、監視委は東京地検特捜部への告発を視野に調査を進めている。
証券取引等監視委員会が強制調査を実施
証券取引等監視委員会は、三井住友信託銀行(東京都)の元社員によるインサイダー取引の疑惑を受け、金融商品取引法違反(インサイダー取引)の容疑で関係先を強制調査したことがわかった。調査関係者によると、元社員は企業の株式公開買い付け(TOB)などの未公表情報を基に取引を行い、約3000万円の利益を得た疑いがある。
不正の経緯と銀行の対応
疑惑の対象となったのは、証券代行部門で管理職を務めていた50代の元社員だ。数年間にわたり、顧客企業の重要な情報を不正に利用し、株取引を繰り返していたとされる。昨年10月30日、元社員は自ら不正を申告し、同行は11月1日に公表するとともに、懲戒解雇処分とした。
この通報を受け、監視委は詳細な取引の実態を把握するために関係先を調査したとみられる。
三井住友信託銀行の対応と過去の事例
三井住友信託銀行は、国内最大手の証券代行業務を担う金融機関であるが、過去にもインサイダー取引を理由に行政処分を受けている。2012年には公募増資を巡る不正取引で金融庁から課徴金納付命令を受けた。大山一也社長は昨年11月の記者会見で「当社で2度目となるインサイダー取引が発生したことを重く受け止めている」と述べていた。
同行は、独立社外取締役や外部有識者を交えた調査委員会を設置し、事実関係の究明と再発防止策の検討を進めている。
金融業界で相次ぐ不祥事
金融機関における不正行為は後を絶たない。昨年6月には三菱UFJフィナンシャル・グループの銀行・証券部門で顧客の未公表情報が共有され、金融庁から業務改善命令が出された。また、同年10月には野村証券のトレーダーが国債先物取引で相場操縦を行ったとして、約2200万円の課徴金が命じられた。
昨年12月には、金融庁に出向中の裁判官と東京証券取引所の元職員が、TOBに関する未公表情報を基に不正取引を行い、東京地検特捜部に告発された。この裁判官は、金融庁企画市場局に勤務する中で得た情報を基に10社分の株式を購入し、数百万円の利益を得た疑いが持たれている。また、東京証券取引所の元職員は父親と共謀し、未公開情報を利用して約1706万円分の株取引を行ったとされる。
市場の信頼回復に向けた課題
こうした相次ぐ不祥事は、金融業界の規範意識の欠如を浮き彫りにしている。金融庁や日本取引所グループは再発防止策として、インサイダー取引に関する研修強化や内部監査の徹底を進める方針を示しているが、専門家からは「教育や規範意識の向上だけでなく、より厳格な監視体制が不可欠」との指摘がある。
特に、過去の裁判官のような公的な立場にある者が不正に関与した事例は、市場の公正性そのものを揺るがす事態であり、制度的な見直しが求められる。金融機関や証券取引所の管理体制の抜本的な強化が、市場の信頼回復には不可欠となるだろう。
証券取引等監視委員会の調査結果次第では、さらなる規制強化の動きが加速する可能性もあり、金融業界全体が厳しい対応を迫られることとなる。