全国的に「タクシーがつかまらない」状況が続くなか、2024年のタクシー業者倒産・廃業件数が過去最多の82件に達しました。この数字は2023年の63件を大きく上回り、前年比30.2%増という急増ぶりです。さらに、これまで最多だった2019年の73件をも超え、業界全体に衝撃を与えています。
特に注目すべきは、倒産の要因として「ドライバー不足」が突出している点です。2024年に倒産した35件のうち、少なくとも4割以上が人手不足を直接の原因としています。タクシードライバー不足という課題は一層深刻化しており、業界の持続可能性が問われる状況です。
ドライバー不足と燃料費高騰が経営を圧迫
タクシー業界の人員不足に拍車をかけたのは、新型コロナ禍以降の需要低迷とドライバー離職の増加です。国土交通省の統計によれば、2023年3月末時点で全国のタクシー運転手の数は約22万人と、コロナ禍前の2019年3月末から約2割も減少しました。一方、同期間のタクシー車両数の減少率は1割以下に留まっており、いかにドライバー減少のペースが著しいかを物語っています。
さらに、燃料費の高騰も経営への大きな打撃となっています。タクシー業の多くが使用するプロパンガスの価格は上昇を続け、収益を圧迫する要因となっています。このような複合的な問題により、稼働率が低下し経営を断念する事業者が相次いでいるのが現状です。
ライドシェア導入で打開策を模索
こうした厳しい状況のなか、一部のタクシー業者は新たな打開策として「日本版ライドシェア」の導入を進めています。これはタクシー会社が運行主体となり、一般ドライバーが自家用車を使って有償で旅客輸送を行う仕組みです。ライドシェアはすでに海外では普及しており、効率的な移動手段として評価されています。
しかし、日本では「安全性」と「既存のタクシー業との共存」が課題となっています。一部ではライドシェアがタクシー業の競争相手になる可能性が指摘されていますが、同時に過疎地やドライバー不足に悩む地域では、共存共栄の仕組みとして期待する声も聞かれます。
利用者の安心を確保するための課題
タクシー業界の現場からは、ライドシェア導入に先立ち、法改正や労働環境の改善が必要だという声が上がっています。たとえば、ガスボンベの定期検査において地元で検査を受けられず、200km以上離れた他県まで持ち込む必要があるケースがあるなど、現場の負担は大きいままです。
また、運転免許の返納を定年制にしようとの議論も進んでいますが、これがさらにドライバー不足を招く可能性もあり、慎重な判断が求められます。賃金や労働環境の改善が進まなければ、タクシー業界全体が縮小の一途をたどる恐れがあります。
今後の展望と考察
タクシー業界の危機は、単に1つの業界の問題にとどまりません。公共交通機関の一翼を担うタクシーが衰退すれば、地域住民の移動手段の確保が困難になるほか、関連産業や観光業にも影響が及ぶ可能性があります。
ビジネスパーソンとしては、まず業界の動向を注視し、自社が関わる交通インフラや物流にどのような影響が及ぶかを検討する必要があります。また、行政と業界が連携して持続可能な仕組みを構築するための議論を支援することも重要です。
現場の声に耳を傾け、労働環境や収益構造の改善を進めることで、タクシー業界が再び安心・安全な移動手段として機能することが期待されます。