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生物多様性ワークショップ(バイオダイバーシティ・コラージュ)参加レポート

サステナブルな取り組み ESGの取り組み
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生物多様性ワーケーション ワーク中

科学に基づいたデータを用いながら生物多様性について学ぶ「バイオダイバーシティ・コラージュ(Biodiversity Collage)」をご存じだろうか。
すでに参加者は5万人を超え、世界で大きな注目を集めて大きなうねりとなり広がっているこのワークショップの体験レポートをお届けする。

◾️生物多様性について

「生き物」を頭に思い浮かべてほしい。
——人間。身近なペット。空の鳥たち海の魚たち。昆虫やヘビ、トカゲ、ミミズ、オケラ、アメンボ、トンボ、カエル、ミツバチ、スズメ、イナゴ、カゲロウ…
…そろそろ植物や粘菌類が出てくるころだろうか。
人それぞれ、もちろん思いつく順番は違うだろう。だが生物の幅は広い。哺乳類や爬虫類、両生類などの脊椎動物だけではなく、植物や粘菌類も生物だ。実際、筆者の周りには「3度の飯より粘菌が好き!」と、キノコの写真集や図鑑を日々うっとり眺めている「粘菌女子」もいる。

それでは、「生物多様性」という言葉で頭に思いつくことはどうだろう?
実は筆者は、「何千何万種類の多様な生き物が存在していること」が「生物多様性」であり、それをどう維持していくのか、あるいは絶滅の危機に瀕している「絶滅危惧種」を守る活動などを指すのが生物多様性だと思っていた。

「そうですよね。そう思われている人は多いと思います。そして、それも間違いではありません。でも、より正確に科学的に説明すると、生物多様性の定義は以下となります。『地球上のさまざまな環境に適応した、特有の個性を持った生きものが存在し、それぞれがさまざまな相互作用によってつながり合っていること』。
(IGES「生物多様性とIPBES」より)」

バイオダイバーシティ・コラージュの数少ない公認日本語ファシリテーター、ミナミさんはさらに言葉を重ねる。
「そして生物多様性には、『生態系の多様性』『種の多様性』『遺伝子の多様性』の3つの異なる多様さがあるとされています。つまり、たくさんの種類の生きものがいるというだけではなくて、それを支えるさまざまな環境が存在している。そして同じ種類の生きものの中でも多様に異なる遺伝子がある。この3つのすべてが『生物多様性』なんです。」

生物多様性ワーケーション みなみさん
篠原美奈巳(シノハラ ミナミ) | 教育と人事のバックグラウンドを持ち、2022年からサステナビリティ推進のためキャリアチェンジ。クライメート・フレスクのファシリテーター兼トレーナーや日本初のバイオダイバーシティコラージュのファシリテーターとして日本でトップクラスの実績を誇る。

少々難しい話に「この記事もワークショップも、自分には関係なさそうだ」と思われる方もいるかもしれない。事実、このワークショップの根幹となっているのは「科学に基づいた情報と知識」だ。
だがこうした話「も」含まれるものの、実際のワークショップはもっと日常的で身近なトピックやエピソードが、参加者同士ふんだんに会話されるものとなる。そして筆者は、それこそがこのワークショップの一番の価値かもしれないと感じた。

さてここから、ワークショップの大きな流れを振り返ってみよう。でもその前に、ワークショップの概要と提供団体を紹介する。

◾️開催団体「Ichigo Bloom(いちごブルーム)」について

世界ではすでに5万人を超える参加者を数え、今も参加者を増やし続けている「バイオダイバーシティ・コラージュ」。
日本でその展開をリードしている団体の一つが、東京をベースに日本全国の企業や組織にサステナビリティ教育プログラムを提供している「Ichigo Bloom(いちごブルーム)」だ。

「私たちいちごブルームは、サステナビリティ教育者とファシリテーターのネットワークです。生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価する政府間組織「IPBES(イプベス)」の報告書に基づいた、フランスで開発されたワークショップ「バイオダイバーシティ・コラージュ」を日本で提供しています。

IPBESは「生物多様性版のIPCC」とも呼ばれている組織で、2024年3月現在145カ国が加盟している国際的な組織です。IPCC報告書と同様に、IPBESの評価報告書も4年から6年程度の期間を要して、世界中の科学者や専門家のレビューを経て発行されているものです。
え、『どうして名前にいちごが付くのか?』ですか。それはCOP26で宣言された気温上昇幅の目標値が『1.5℃——いちご』だからです。それから、私たちがイチゴ好きっていうのも関係しているかな。他にもいくつか理由はあるんですが、詳しくはウェブサイトで見ていただけたら嬉しいです。」

生物多様性ワーケーション ICHIGO BLOOM

それでは、バイオダイバーシティ・コラージュがどんなふうに進められていくかを見ていこう。
最初に、ファシリテーターから『生物多様性の理解のための、科学的で楽しいチームビルディングワークショップ』という「バイオダイバーシティ・コラージュ」の概要と、グランド・ルール(この場における約束ごと)についての説明を受ける。

  • みんなが発言し、自分を表現できるようにする。
  • いつでも「わからない!」と言ってOK。
  • 共有知を重視。経験・知識を積極的にシェアする。


この3つは非常に大切だ。ワークショップが参加者全員にとって有意義かつ建設的なものとなるよう、熱中しすぎて忘れないようにしよう。

ワークショップは通常3時間。
「きちんと中身を咀嚼し紹介するためには、最低でも3時間は欲しい」とファシリテーターのミナミさんは言う。「長いな…」と思う人もいるだろう。だが、ほとんどの時間が講義ではなくグループワークで、始まってしまえばあっという間。筆者と一緒に体験した今回のグループの多くのメンバーが、「あと30〜60分あればいいのに」と終了後は語っていた。

ワークは4~7人程度のグループで、対話を中心に進めていく。参加者が多い場合は、人数に応じてグループを増やし、各グループにファシリテーターが1人つくのが理想的だ。

生物多様性ワーケーション カードゲーム
この日のバイオダイバーシティ・コラージュ会場は東京晴海の(株)メンバーズ本社

◾️バイオダイバーシティ・コラージュ「謎解き編」

アイスブレイクで場を温めた後は、いよいよバイオダイバーシティ・コラージュ本編のスタートだ。
この日は以下の順番で4つのワークが行われた。

  1. スターター(20分)
    7枚のウォーミングアップ・カードを使って生態系の基本を確認する
  2. テクニカル・パート(70分)
    数回に分けて配られる39枚のカードを、相関性や因果関係を踏まえて模造紙に配置していく
  3. クリエイティブ・パート(25分)
    カード配置を最終調整し、装飾して作品に仕上げる
  4. ディスカッション・パート(45分)
    振り返りを行い今後のアクションについて対話する


ワークの中心となるのは2の「テクニカル・パート」と4「ディスカッション・パート」。
まずは2の「テクニカル・パート」の詳細を見ていこう。

全39枚のカードが数回に分けて配られるので、1枚ずつ内容を読み上げ、チームメンバー全員が内容を理解できていることを確かめながら模造紙の上に配置していく。
ポイントは、それぞれのカード間の相関性や因果関係について、対話し合意を取りながら進めていくことだ。

生物多様性ワーケーション ワークシーン
この日は筆者も外部研究員として所属している、メンバーズ「脱炭素DX研究所」所員向けの開催だった

具体的にはこんな感じだ。
「土壌の劣化」「生息地の損失と分断化」「農業」「生態系サービスの劣化」「土地利用の変化」「レジリエンス(回復力)」「遺伝資源と薬用資源」——この題名がついた7枚のカードが配られる。
タイトルと、カードの裏に書かれた説明文章や関連情報を読み上げたら、そのカードと他のカードの関係を考え、同じグループに属しているのか因果関係があるのか、あるのならそれはどんな構図となるのかを、自分の考えや知識、エピソードなどと合わせて他のメンバーに伝え、みんなの意見を聞きながら、関係性が理解できる場所にカードを配置していく——この作業を繰り返しながら、ポイントとなるタイミングでファシリテーターによる解説とともに確認作業を行っていく。

途中、カードに書かれた言葉やメンバーの意見に違和感を感じることもあるし、配置場所について意見が対立することもあるだろう。
だが、忘れてはいけない。カードは全部で39枚。次に配られるタイミングで、新たなつながりや構図が描き出されるかもしれない。ファシリテーターはワークショップが盛り上がるように、計算して配っているのだ!

そして大切なことは、つながりや構図には「絶対的な正解」はないということを忘れないこと。
人間誰しもそれぞれ異なる見かた(フレーミング)や思い込み・価値観(メンタルモデル)を持っており、それにより同じものを見聞きしても、そこに見いだすものは異なってくる。ワークの間は、メンバーそれぞれがどこに違いを感じているのか、そしてそれが何に起因しているのかを理解しようとする姿勢が重要だ。エピソードを語る姿や聞く姿に、その人なりの「信念」や、時代や社会の捉え方である「パラダイム」が浮かび上がってくるのを感じよう。
そうそう。「わからない!」がいつでも歓迎されることも忘れずに。

◾️「科学的正義」は最初の足がかり。人の行動を持続させるために

ここで、筆者が今回のワーク中に言ったり聞いたりしたエピソードを紹介しよう。

  • ミツバチの生育環境 | 都市部の公園や植え込みには意外と花が多く、農地と比較すると使用される農薬量が少ないのでミツバチにとってはむしろ生息しやすい
  • 「生態系サービス」という言葉への違和感 | サービスという言葉には「人為的な意思」が込められているような感じがしてしまう…。「機能」ではないのか?
  • エンタメがもたらす影響 | 1975年に公開され世界中で大ヒットした映画『ジョーズ』の影響でサメに悪者のイメージが付き、フカヒレブームと相まって乱獲が進み、個体数が減ってしまった。数年前、スティーヴン・スピルバーグ監督がそれに対して謝罪を行なった。
  • 花粉媒介者(ポリネーター)不足 | ハチやアブという花粉を媒介する昆虫が急速に減少している中、ハウス式のマンゴー農園などでは、清潔な環境で養殖したハエを用いているところもある


ワークショップ中に交わされたこうしたエピソードの中には、「科学的な事実」からは縁遠いものも含まれていたことだろう。
ただ個人的には、それこのワークショップにより得られる貴重な価値だと感じた。
なぜなら、科学的な正しさや正義は、最初の足がかりとはなっても情熱を燃やし続ける燃料としては弱いから。人の行動を持続させるには、「科学的正義」を超える何かが必要ではないだろうか。そしてそれは、行動をともにする仲間ではないだろうか。

生物多様性ワーケーション 集合写真
テクニカルパートとクリエイティブパートを終え「ほっと一息」の参加者一堂

◾️バイオダイバーシティ・コラージュ「未来のための選択編」

テクニカル・パートの後は、装飾して作品に仕上げるクリエイティブ・パートだ。ここでそれまでの論理や言語に縛られていた脳を一度解放し、直感を楽しむのがよいだろう。
これはこうしたワークショップでよく起こることだが、脳を使ったワークの後に五感を中心としたワークを行うと、突然それまでとは違うアイデアや発想が浮かび出すことも多い。
この日も、クリエイティブ・パートに入ってからみんなのアイデアが活性化し、カードの配置が大幅に変更されることとなった。

そしていよいよ最後は、これまでのワーク内容を振り返り、今後のアクションについて個人ワークやグループワークを行っていく「ディスカッション・パート」だ。
「時間も残り少ないことから、今日はチームとしてのアクションではなく、個人としての未来に向けたアクションに絞って考えることとしましょう。」

ミナミさんの説明を受け、この日はメンバーそれぞれが、自分が未来に向けて大切にしたいものが何かを考え、それが失われることがないよう、どんな行動を意識していくかを書き出し、みんなに発表するワークを実施した。
ここまでのワークで、生物多様性の損失がいかに起きるか、そしてそれを防ぐことがいかに難しいかを、参加者全員が理解していた。しかし同時に、難しいからといってそれが決して諦められるものではないことも理解していた。

そんな中で、何を選びどんな行動を取るか。もしかしたら、チームメンバーの選ぶ選択や行動があまりにも自分とかけ離れていて、驚かされるかもしれない。ただそれでも、ワークを通じてそのメンバーの信念や価値観について理解を深めてきたからこそ、その個性を素直に受け止められるのではないだろうか。

生物多様性ワーケーション ボード
それぞれの選択アクションを一枚に書きだし、全員で共有

「今日は3時間という時間制限がありました。また、参加者皆さんがプロフェッショナルとして気候変動や脱炭素に関する高い基礎知識を持っているという特性もあったので、このような構成としましたが、最後のパートはいろいろなワークに変更可能です。自身の複雑な感情に向き合う時間をしっかりと長めに取ることもできますし、個人ではなく焦点を『チームとしてのアクション』とすることもあります。

特に企業向けバイオダイバーシティ・コラージュの場合は、その企業のビジョンや事業領域、あるいは今後注力予定の主力事業候補や地域特性に合わせて構成することが多いですね。」

◾️企業でのバイオダイバーシティ・コラージュ開催について

後日、ミナミさんに企業のバイオダイバーシティ・コラージュの活用タイミングについて聞いてみたところ、以下2つが特にお勧めとのことだった。

  1. これから生物多様性に取り組み始めるチームの知識と意識の土台を作るため
  2. すでに動き始めているものの煮詰まり感があるときなど、知識の整理に


「つまり、自分たちがなぜ生物多様性を考え、それに取り組もうとしているのかという根本を問い直す機会にしていただくのが良いのではないか、ということです。
生物多様性の損失をいかに防ぐか。あるいは失われつつあるレジリエンスを取り戻す方法や、種の適応を後押しする方法を考えどのように実践していくのか——これらは企業にとって必須事項となりつつあります。

国際的な生物多様性保全のためのルールであり、ネイチャーポジティブ(自然再興)を唱える「TNFD: 自然関連財務情報開示タスクフォース」の実践や、日本の環境省が推進している「自然共生サイト」の認定取得などは、環境負荷が比較的大きい製造業や大企業にとっては近い将来欠かせないものとなるでしょう。
そしていかなるアプローチであれ、実践に欠かせないのは、生物多様性に関する自分たちの知識と意識をまずは高めること。そして企業内の実践者チームのコミットメントとチームワークを高めることです。
まずは何が欠けているのかを確認し、自分たちが大切にしたいものが何なのかを見極めるために、私たちにご相談いただければと思います。」

    いちごブルームへの問い合わせ | https://ichigobloom.jp/ja/lets-talk/

筆者も、多様な生態系を守る文化的サービスが大きく花ひらくよう、今後も言語による受粉活動を続ける所存だ。

参考

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ライター:

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャー、およびソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちと社内外でさまざまなコラボ活動を実践し、記者として取材、発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。 合い言葉は #混ぜなきゃ危険 #民主主義は雑談から #幸福中心設計

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