
個包装が当たり前のアパレル業界で、大量のゴミと現場の重労働に疑問を抱いた起業家が立ち上がった。株式会社chomが開発した「Looplet」は、梱包資材をインフラへと昇華させ、物流の常識を根底から覆そうとしている。
幕張でベールを脱ぐ「捨てる」を拒む魔法の輸送箱
2026年4月、幕張メッセ。熱気に包まれる「Startup Japan EXPO 2026」の会場で、ひときわ異彩を放つプロダクトがベールを脱ぐ。株式会社chomが世に送り出す再利用型梱包ボックス「Looplet(ループレット)」だ。
これまでアパレル業界では、商品を美しく保つという大義名分の下、膨大な量のビニール袋や段ボールが「当然の犠牲」として捨てられてきた。だが、この新星スタートアップは、その使い捨ての連鎖に真っ向からノーを突きつける。
同社が開発したのは、資材そのものが自律的に循環する、まったく新しい物流の形だ。展示会場では、その実物が初めて公開され、物流の常識を変えたいと願うパートナー企業を募るという。
物流網を駆け巡る「血液」のように

このLoopletが、ただの「頑丈な箱」だと思ったら大間違いだ。その真骨頂は、段ボールと個包装(OPP袋)の役割を一つの筐体に統合し、回収・再利用を前提とした「循環インフラ」として設計されている点にある。
従来の物流では、倉庫から店舗へ届いた瞬間に資材は役割を終え、無慈悲にゴミ箱へと放り込まれていた。しかし、Loopletは違う。店舗に届いた後はそのまま陳列棚やバックヤードで什器として機能し、役目を終えれば再び倉庫へと還流していく。
まるで血管の中を流れる血液のように、サプライチェーンという肉体の中を資材が絶え間なく循環し続けるのだ。この仕組みが普及すれば、店舗から「梱包ゴミ」という概念そのものが消滅するかもしれない。
華やかな売場の裏側で流した「現場の涙」
この革命的なプロダクトの原動力となったのは、代表の野崎絵未里氏がかつてアパレル店舗の現場で抱いた、痛切なまでの違和感だった。
華やかな照明の下、お客様には「レジ袋はご利用ですか」と環境意識を問いかける。しかし、その足でバックヤードに向かえば、入荷したばかりの衣類から剥ぎ取られたビニール袋が、山のように積み重なっている。開梱作業に追われ、腰を痛め、人手不足に喘ぐスタッフたち。この構造的な矛盾、そして現場の疲弊を、野崎氏は黙って見過ごすことができなかった。
彼女が目指すのは、単なるエコ素材への置き換えではない。梱包という行為そのものを再定義し、現場の負担を減らしながら環境負荷もゼロにする。「新しいあたりまえ」を現場から作り上げるという、執念にも似た哲学がそこには宿っている。
現場の「小さな違和感」が産業の巨大な壁を壊す
chomの歩みから我々が学ぶべきは、現場で感じた「小さなトゲ」を、産業構造を揺さぶる「巨大なエンジン」へと昇華させる構想力に他ならない。
多くの大企業がSDGsという看板を掲げながらも、既存の便利なオペレーションを手放せずにいる。その一方で、彼女たちは物流という巨大なインフラの作り替えに、真正面から挑んでいるのだ。
一つの袋を破る手間、一つの箱を潰す時間。そんな現場の細部に宿る非効率を徹底的に削ぎ落とすことこそが、真の意味でのサステナビリティへと繋がっていく。効率と環境は、決して二律背反ではない。それを証明しようとする彼女たちの挑戦は、沈滞する日本のアパレル産業にとって、希望の灯火となるはずだ。



