
チーズを作る際に生まれる大量の副産物「ホエイ」。その約9割が廃棄されることもあるという現状に、神奈川県厚木市のサンクトガーレンが新たな解を提示した。本来、ビール醸造所では「禁忌」とされる乳酸菌をあえて使い、未利用資源を価値ある一杯へと変える。その挑戦の裏側に迫った。
泡まで苺色の衝撃!ビール嫌いも唸る「甘酸っぱい」新境地
グラスに注いだ瞬間、その鮮やかな色彩に驚かされる。3月12日に発売されるサンクトガーレンの新作『ホエイサワーエール ストロベリー』は、泡までほんのりと苺色に染まっている。
一口含めば、乳酸菌由来の爽やかな酸味と苺の柔らかな甘みが広がる。これまでの「ビールは苦いもの」という常識を心地よく裏切る味わいだ。
アルコール度数も4.0%と低めに抑えられており、お酒に強くない層からも支持されそうな仕上がりだが、この軽やかな一杯の裏には、老舗醸造所による極めて重い決断があった。
捨てられる牛乳の9割を救え!チーズ副産物ホエイの逆襲
今回のビールの鍵を握るのは、チーズ製造時に発生する「ホエイ(乳清)」だ。牛乳からチーズに加工されるのはわずか1割程度で、残りの9割は液体状のホエイとして残る。
大規模工場であればプロテインの原料などに加工できるが、小規模なチーズ工房では、活用しきれず廃棄せざるを得ないケースも多い。サンクトガーレンはこの未利用資源に着目した。
ホエイに含まれる乳酸菌やミネラルをビールのコクや酸味へと転換する。環境負荷の低減を、単なる義務ではなく「新しい美味しさ」という付加価値へと昇華させたのだ。
醸造所の「天敵」を招き入れる禁断の製法と職人の執念
しかし、この試みには大きなリスクが伴う。ビール醸造において乳酸菌は、他の製品を酸敗させる恐れがある「最大の天敵」だからだ。もし菌が工場内に残留すれば、看板商品である他のエールビールまで台無しにしてしまう。
そのため、製造当日は通常の醸造ラインをすべて停止。排気口やタンクの開口部を徹底的に密閉し、作業後にはすべての部品を分解して洗浄するという、異例の体制が敷かれた。「リスクを承知で、それでもこの味を作りたい」という職人たちの執念が、この一杯を支えている。
地ビール0号の矜持!リスクを負ってでも「驚き」を届ける理由
日本で地ビールが解禁される前から挑戦を続けてきた、通称「地ビール0号」のサンクトガーレン。彼らがこれほどの手間とリスクをかけるのは、クラフトビールを通じた社会への問いかけでもある。
大手メーカーにはできない、小規模だからこそ可能な社会課題へのアプローチ。廃棄されるはずだったホエイに新たな命を吹き込み、消費者に驚きとともに届ける。この一杯は、単なる季節限定のビールではなく、持続可能なモノづくりのあり方を体現した「液体のメッセージ」といえるだろう。



