
創業220年を超える江戸の老舗、くず餅の「船橋屋」がいま、お菓子の常識を根底から覆そうとしている。彼らが目をつけたのは、なんと「ビールのカス」と「ボツになったコーヒー豆」。一見、ゴミ箱行き寸前の素材を、職人の意地と伝統の技で「毎日食べたい極上スイーツ」へと転生させたのだ。
「ビールのカス」が極上スイーツに?老舗が仕掛ける“食べられる循環”の正体
東京・亀戸に本店を構え、文化二年から続く暖簾を守る船橋屋。その老舗が2026年3月、JR東日本のサステナブルフェア「ぐるぐる、つなげる」に合わせ、驚きの新商品を投入する。
今回、主役に抜擢されたのは、ビール醸造後に大量に出る「麦芽粕」と、品質には問題ないが商品化されない「テスト焙煎珈琲豆」。これまでは家畜の飼料や廃棄に回るしかなかった「厄介者」たちだ。
しかし、船橋屋の試みは、巷にあふれる「環境にいいから我慢して食べる」といった、お行儀のいいボランティアではない。
職人の意地が「もったいない」を超えた!秘伝の黒蜜と“小豆の皮”の意外な共演
「おいしさを追求する過程で、表に出ることのなかった素材と、私たちは200年以上向き合ってきました」
現場の職人はそう語る。実は和菓子づくりの現場では、こし餡を作る際に取り除かれる「小豆の皮」など、これまで光の当たらなかった素材が常に存在していた。それらを「単なる残り物」としてではなく、最高に旨い「一品」として食卓へ戻す。それこそが、江戸っ子の粋であり、職人の矜持というわけだ。
特に注目すべきは、麦芽粕を粉砕して焼き上げた「グラノーラ」だろう。高たんぱく・高食物繊維でありながら、加工が極めて難しい麦芽粕を、あえて強めに焼成。そこに船橋屋の魂ともいえる「秘伝の黒蜜」と藻塩を絡めた。
さらに、同社独自の「くず餅乳酸菌®」まで配合するという徹底ぶりだ。一口噛めば、麦の香ばしさと黒蜜のコクが弾ける。これはもはや「健康食品」の枠を超えた、止まらないスナックである。
「コーヒーを食べる」新体験!猿田彦珈琲とのコラボで生まれた“二重の再生”
もう一方の「あんやき(コーヒー)」も凄まじい。ベースとなる餡は、廃棄されるはずだった小豆の皮を100%活用した「特製皮入りあんこ」。そこに猿田彦珈琲のテスト焙煎豆を、抽出せず「豆ごと」微粉末にして練り込んだ。
「コーヒー風味のお菓子」ではない。「コーヒーそのものを食べる」という新体験。黒蜜と餡の甘さをあえて引き算し、苦味とコクを際立たせたその味は、老舗がたどり着いた「二重のアップサイクル」の結晶といえる。
江戸の知恵はサステナブルの先駆けか?ビジネスが学ぶべき「伝統と革新」の最適解
船橋屋の挑戦から私たちが学べるのは、サステナビリティとは決して「特別なこと」ではないという事実だ。
捨てられる素材を、200年磨き上げた技術で「いつもの味」へと昇華させる。無理に背伸びをせず、本業の技で社会の歪みを正していく。この老舗のしたたかな攻めの姿勢こそ、これからのビジネスパーソンが持つべき「循環の知恵」ではないだろうか。
渋谷のエキュートエディションに並ぶその菓子は、単なる期間限定品ではない。伝統という重みに甘んじず、未来を食らい尽くそうとする、老舗の「覚悟」が詰まった逸品なのだ。



