
横浜の海を浄化するワカメが、人気ベーカリーのパンに姿を変えた。高校生が収穫し、地域に届けるこの一節のパンには、単なる無料配布を超えた、次世代による環境再生への哲学が凝縮されている。
海の再生をパンに託す、トランジットグループの新たな試み
春の足音が近づく湘南の海辺に、少し変わった香りのパンが並ぶ。株式会社トランジットホールディングスは、2026年2月22日、神奈川県鎌倉市の「Pacific BAKERY」にて、横浜の海で収穫されたワカメを使用した特製パンを無料配布する。
この取り組みの主役は、環境意識の高い高校生たちだ。彼らは2月14日、横浜・みなとみらいの海に自ら入り、約970キログラムものワカメを収穫した。
そのワカメが、フォカッチャやチャバタといった日常の食へと姿を変え、彼らの手によって地域住民へと手渡される。
企業の枠を超えた、純粋な「ボランティアの熱量」が原動力
他社のサステナビリティ活動と一線を画すのは、その圧倒的な「現場主義」にある。単に環境団体に寄付をするのではなく、高校生を中心とした250名のボランティアが、昨年12月の種付けから収穫までを文字通り手作業で行った。
「自分たちの手で海をきれいにしたい」という若者の純粋な衝動を、企業がプロデュース能力を活かして社会実装する。配布されるパンには、海から回収された約17.8キログラムの炭素が、確かな重みとして宿っている。
企業が用意したお仕着せのプログラムではなく、高校生の発案から始まったという点に、このプロジェクトの真の独自性がある。
「美味しく食べること」が地球を救うという逆転の発想
この活動の背景には、環境問題を「苦しい節制」から「楽しい体験」へと変換する哲学がある。トランジットグループが得意とするのは、カルチャーや食を通じた体験価値の創造だ。
今回のワカメは、東京湾の富栄養化の原因となる窒素やリンを吸収し、海を浄化する役割を果たしてきた。その成果を数値として報告するだけでなく、焼きたてのパンとして提供することで、環境保護を「自分事」として味わってもらう。同社の担当者は「海の恵みを五感で知ることが、最大の環境教育になる」と静かに語る。
現代のビジネスが次世代から学ぶべき「行動の価値」
一連の流れから私たちが学ぶべきは、大義名分よりも先に「まず動く」という姿勢だろう。25回目を数える「夢ワカメ・ワークショップ」の歴史に、高校生の瑞々しい感性が加わることで、活動は一気に地域を巻き込む物語へと昇華された。
企業の役割は、若者の熱意を「食」という共通言語に翻訳し、広く世に問うことにある。七里ヶ浜で手渡される一切れのパンは、持続可能な未来が、理論ではなく日々の食卓の延長線上にあることを、私たちに雄弁に語りかけている。



