
小学校で使い古されたプラスチックの植木鉢を、世界に誇る伝統工芸品へと転生させる。PHI株式会社が手掛けるこの試みは、単なる廃棄物再利用の枠を超え、次世代の感性を育む新たなサーキュラーエコノミーの形を提示している。
環境省も注目するプラスチックの「出口戦略」
環境省が主催する「プラスマ・アワード2026」において、PHI株式会社のアップサイクル製品『JAPAN BLUE 熊野筆 KACHIIRO』が「作る部門」の銀賞に輝いた。
評価の対象となったのは、日本の教育現場で長年課題となっていたプラスチック鉢の処理問題に対する、鮮やかな解決策だ。卒業と同時に役割を終え、保管場所を圧迫し、やがては廃棄される運命にあった「朝顔の鉢」。これを回収して粉砕し、広島県が誇る伝統的工芸品、熊野筆の軸(持ち手)として再生させる。
ニュースの核心は、単に「ゴミを減らした」ことではない。プラスチックを賢く利用し、高付加価値な製品へと昇華させたそのプロセスそのものが、国の認める標準モデルとなった点にある。
捨てたはずの「思い出」が伝統工芸として還る
他社のリサイクル事業と一線を画すのは、徹底した「ストーリーの循環」だ。一般的な再生プラスチック製品は、原料の由来が見えにくい。しかし、KACHIIROの場合、原料は自分たちが授業で使った鉢そのものである。
自らの手で鉢を洗い、それが職人の手を経て、藍色の美しい筆へと姿を変えて手元に戻ってくる。この「愛着の連続性」こそが、同社の独自性といえる。
「自分が使っていたものが、宝物に変わって戻ってくる。その感動を子供たちに届けたかった」
同社の繁田知延CEOはそう語る。機能性や効率性が優先されがちな循環型社会において、PHIは「情緒」という強力なエンジンを組み込んだ。それは、単なる環境保護活動を、子供たちが自発的に参加したくなる「物語」へと変容させている。
資源を「減らす」から「価値を高める」哲学へ
この取り組みの背景には、プラスチックを悪者とするのではなく、どう賢く付き合い、次の価値に変えるかというPHIの深い哲学がある。
同社が目指すのは、環境教育と地域資源循環、そして伝統工芸の継承という三位一体の実現だ。現代社会において、プラスチックの利便性を完全に排除することは難しい。であれば、それを一過性の消費で終わらせず、世代を超えて愛用される「工芸品」へと昇華させることで、物質としての寿命を極限まで引き延ばす。
さらに、完成した筆を再び教育現場で活用することで、モノづくりの背景にある環境問題への理解を深める。教育が資源を生み、資源が教育を豊かにする。この循環構造こそが、同社の考える真のサステナビリティである。
「自分ごと」化させる教育的視点の重要性
PHIの活動から学べる最大の教訓は、社会課題の解決には「参加者の納得感」が不可欠であるという点だ。
企業がSDGsを掲げる際、往々にして数値目標や技術論が先行し、消費者は置いてけぼりになりがちである。しかし、PHIは「朝顔の鉢を洗う」という小さな体験を、世界規模の環境問題や伝統文化の保護へと繋げてみせた。
「捨てられるはずだったものが、価値あるものに変わる瞬間を目の当たりにする。その原体験こそが、未来を変える力になる」
繁田氏の言葉通り、2027年の国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)を見据えた同社の挑戦は、日本発のサーキュラーモデルとして世界へ波及する可能性を秘めている。
ビジネスと教育、そして伝統。これらが交差する地点に、プラスチック問題の解法があることを、この小さな一本の筆が証明している。



