
環境負荷の低減と上質な宿泊体験の両立という難題に対し、老舗メーカーが導き出した答えは「プラスチックゼロ」への完全転換だ。旭産業は間伐材由来の新素材を武器に、ラグジュアリーホテルの美学を再定義しようとしている。
プラスチックを捨てた老舗の宣戦布告
2026年2月、東京ビッグサイト。ホテル業界の視線が、ある1本の歯ブラシに注がれることになる。大阪府堺市で1960年から歯ブラシを追求してきた旭産業が発表する『Zero Plastic Handle™』だ。
驚くべきはその徹底ぶりで、バイオマス素材にありがちなプラスチックとの混ざり物ではない。構成成分の100%が間伐材や天然植物酸などの自然由来。
まさにプラスチックへの絶縁状とも言えるこの製品が、業界最大級の展示会でついにそのベールを脱ぐ。
木なのにカビない、現場の悲鳴を救った逆転の発想
脱プラの旗印として導入された竹や木の歯ブラシだが、そこには宿泊客からの口当たりが悪いという不満や、ホテル側の湿気ですぐカビるという衛生上の頭痛の種が付きまとっていた。この詰みの状態を、旭産業はCXPという次世代素材で突破した。
木材由来でありながらプラスチック並みの緻密な造形が可能で、表面は驚くほど滑らか。独自の技術で吸水性を極限まで抑制し、ラグジュアリーホテルの厳しい衛生基準を軽々とクリアしてみせた。
国際的なデザイン賞を総なめにする小池和也氏を起用したその佇まいは、もはや工芸品のような美しさを放っている。
ファーストクラスを唸らせた誇り、変革の原動力は職人魂
なぜこれほどまでの完成度を実現できたのか。その源流は旭産業が歩んできた65年の歴史にある。かつて航空会社のファーストクラス用アメニティを手掛けた同社にとって、品質への妥協は己の存在意義を否定することと同義だった。
歯の健康と環境の健康は地続きでなければならないという哲学のもと、創業以来、企画から製造まで一貫して自社で手がけるからこそ、新素材というじゃじゃ馬を完璧に乗りこなし、実用性と美しさを両立させる極致にまで辿り着いたのである。
環境対応を最強の武器に変える、攻めのブランド戦略
旭産業の挑戦は、すべてのビジネスパーソンにサステナビリティの正解を突きつけている。多くの企業が代替品探しに四苦八苦する中、同社は単なる素材の置き換えで終わらせなかった。
木材特有のほのかな香りや温もりのある質感という、プラスチックには真似できない価値を上乗せしたのだ。マイ歯ブラシ持参が当たり前になりつつある今、あえてホテルがこの1本を提供すること。
それは宿泊客に、このホテルはここまで徹底しているのかという驚きと信頼を刻み込む、最高級のホスピタリティとなるに違いない。



