
「自社で拾ったゴミを、2,400円の価値に変える」――。ANAグループ社員が石垣島の海で回収したペットボトルを、新興企業オーシャンクラスの技術で再生。現場の熱量をビジネスへ変える、その執念を追った。
石垣島の海岸から空へ。海洋プラがフライトタグに再生
2026年1月27日、航空業界に激震が走った。全日本空輸(ANA)が、国内の海岸で回収されたプラスチックを再資源化した「アップサイクル・フライトタグ」を発売したのだ。舞台となったのは、観光地として名高い石垣島。
しかし、その美しい砂浜の裏側には、絶えず漂着するペットボトルの山という残酷な現実があった。
今回のプロジェクトが異色なのは、その「ゴミ」を拾い集めたのが、他ならぬANAグループの社員たちだという点である。自らの手で泥にまみれて回収し、機内で集められた廃材と共に、新素材「OCEAN THREAD®(オーシャンスレッド)」へと転生させた。
かつて廃棄される運命だった厄介者が、今、再び空へと舞い戻ったのだ。
なぜ「他社の再生素材」ではダメだったのか
世に溢れる再生プラスチックの多くは、どこで回収されたか不明な、いわば「素性の知れない素材」を混ぜ合わせたものだ。しかし、オーシャンクラスが展開する「OCEAN THREAD®」は、その常識を根底から覆す。
彼らが執念を燃やすのは、回収ルートの徹底的な透明化、すなわち「トレーサビリティ」の確立だ。「ANAの社員が、あの海で、あの日に拾った」という事実そのものを品質として保証する。
この現場の物語を付加価値に変える技術こそが、競合他社には逆立ちしても真似できない独自の武器となっている。1本2,400円という価格設定は、単なる物販ではない。海を守るという「体験」への対価なのだ。
代表・中村洋太郎氏が貫く「リアリズム」
「回収して終わり、では何の意味もない」――。オーシャンクラスを率いる中村洋太郎氏の視線は、常に冷徹なまでにビジネスの持続性を見据えている。
彼の根底にあるのは、環境保護を「持ち出しのコスト」から「利益を生むサイクル」へと昇華させる哲学だ。回収から再生、製品化、側面のストーリーから共感へと至るフローを回し、品質・供給量・価格の三拍子を揃えることで、初めて社会実装は成功する。
ANAという巨大なインフラを巻き込み、空港やECサイトという日常の導線にこの循環を組み込んだ手腕は、まさに次世代のサステナブル・ビジネスが目指すべき理想形と言えるだろう。
稼ぐためのサステナビリティ
この小さなフライトタグが、停滞する日本企業に突きつける教訓は重い。
それは「大義名分」と「手触り感」をいかに融合させるかという問いだ。外部から素材を安く買い叩くのではなく、自社社員が汗を流した活動をブランドの最強の資産へと変換する編集力。そして、スタートアップの尖った技術力と大企業の圧倒的なブランド力を掛け合わせ、社会的なインパクトを最大化させるパートナーシップのあり方である。
「海洋ゴミがゼロになる日を願って」描かれたクジラの紋章がスーツケースに揺れるとき、サステナビリティは「義務」から「憧れ」へと昇華する。これは、環境を武器に世界市場を切り拓く、日本発の「攻めの循環型モデル」の教科書なのだ。



