
「母子の健康を守ることは、彼らが生きる未来の環境を守ることと同義である」。こうした一貫した哲学を掲げ、温活支援と環境保全を地続きの課題として捉えるのが、元助産師が率いる株式会社YPの独自性である。
ペットボトルキャップが宝物に。品川区のサロンが挑む「プラキャップ再生プロジェクト」
東京都品川区でよもぎ蒸しサロン「select」を運営する株式会社YPは、2026年2月より、ペットボトルキャップを再利用する「プラキャップ再生プロジェクト」を始動させる。
本プロジェクトは、家庭で廃棄されるプラスチック資源を回収し、ワークショップを通じてキーホルダーやコースターへとアップサイクルするものだ。2025年11月に実施された「牛乳パックランタン」に続く第2弾として、地域住民を巻き込んだ体験型の環境教育の側面も併せ持っている。特筆すべきは、キャップを持参した顧客に対して、完成したプロダクトを還元する仕組みを整えている点だ。単なる「ゴミの回収」に留まらず、資源が形を変えて手元に戻る「循環の喜び」を可視化させている。
延べ800名以上の母子を支援。「助産師の視点」がリサイクル活動に必要な理由
一般的な企業のESG投資や環境活動が、法的義務やブランディングに端を発することが多いのに対し、同社の取り組みは極めてパーソナルな「母子支援の現場」から出発している。
これまでに879名の女性をサポートしてきた代表の佐藤友佳氏は、助産師としてのキャリアを通じ、生命の誕生という最も根源的な現場に立ち会ってきた。他社との決定的な違いは、サステナビリティを「数値目標」ではなく、「次世代が生きる場所の確保」という地肉化された使命として捉えている点にある。サロンという、心身の悩みを吐露する親密なコミュニティを起点にしているからこそ、環境活動が「遠い世界の議論」ではなく「自分たちの暮らしの延長線」として住民に受け入れられているのだ。
ウェルビーイングと環境保全の融合。よもぎ蒸しサロンが提唱する「やさしい選択」
この活動の背景には、「健やかな身体と安心して暮らせる環境は、分かつことのできない一対の存在である」という哲学がある。
佐藤氏は、環境保全を「身体のメンテナンス」と同じレイヤーで語る。「女性が安心して子育てを迎えられる社会には、健やかな身体だけでなく、安心して暮らせる環境が欠かせません」。その言葉通り、よもぎ蒸しで個人の内側(健康)を整えることと、アップサイクルで外側(環境)を整えることは、同社にとって同じベクトル上の活動だ。この「ウェルビーイングとサステナビリティの融合」こそが、同社の経営における北極星となっている。
地域密着型サステナブル経営の理想系。スモールビジネスから学ぶSDGsの本質
株式会社YPの事例から学べるのは、社会課題の解決は必ずしも大規模な設備投資を必要としない、という事実である。
既存の顧客基盤を「資源回収の拠点」とすることで物流コストを抑えながら高い回収精度を実現し、ワークショップという「体験」を付与することで廃材に情緒的価値を与える。そして何より、助産師という専門性を「身体のケア」から「社会のケア」へと拡張させた視点の転換が、活動に強い説得力を与えている。地域の小さなサロンが、大手企業が苦戦する「消費者の意識変容」を軽やかに成し遂げている姿は、これからの地域経済におけるサステナブル経営の、一つの完成されたモデルケースといえるだろう。



