
日本のリユース市場において、不透明な流通の排除や業界の健全化をITの側面から牽引してきた株式会社ワサビ。同社が新たに始動させたのは、眠れる資源に新たな命を吹き込み、文化の信頼性を再構築する試みである。
伝統資産を現代のモードへ昇華させる再構築の力
株式会社ワサビは、リユース着物を起点としたハイエンド・アップサイクルブランド「HOUSE of MATOI」をローンチした。同社は、国内外のEC在庫連携システム「WASABI SWITCH」を通じて、リユース品の適正な流通インフラを構築してきた企業である。今回のプロジェクトでは、その知見を背景に、国内に膨大に眠る未活用の着物に着目した。
第一線で活躍するデザイナー陣との共創により、黒留袖や絞り染めといった格式高い素材を、現代の美意識に即したモードコートやモダンパンツへと昇華させている。これは単なるリメイクの範疇を超え、素材に刻まれた時間や物語を読み解いた上での「再構築」に他ならない。
独自性のある取り組み―「負」を排除した透明な生産背景
本取り組みが他社と決定的に異なるのは、不適切な流通や搾取といった「負」の側面を徹底して排除しようとする同社の姿勢が、生産工程の細部にまで貫かれている点にある。ITの力で市場の信頼性を守ってきた同社は、ものづくりの現場においても同様の倫理観を求めた。
製造拠点として選ばれたのは、バングラデシュのパートナー工房である。低コストな労働力として搾取する構造とは一線を画し、一人ひとりの仕事を尊重するフェアトレードを実践。流通の歪みを正し、業界のクリーン化を推進してきた同社が、今度は製造の現場において、国境を越えた技術継承と倫理的な循環を具現化しているのである。
背景にある哲学―大量生産への警鐘と文化の継承
なぜ、システム提供を主業とする企業が自らプロダクトを手掛けるのか。その根底には、代表の大久保裕史氏が抱く「新品を大量生産するほど地球が疲弊する」という強い危機感がある。
同社がリユース業界のインフラを担う中で直面したのは、価値があるにもかかわらず、時代の変化と共に廃棄の列に並ぶ美しい着物の姿であった。「リユースを単なる流通にとどめず、文化として育てていきたい」と語る大久保氏にとって、着物は単なる中古品ではなく、次世代へ引き継ぐべき資産である。流通の健全性を守る思想は、このブランドを通じて、循環型社会における新しい価値基準の提示へと昇華された。
この会社から学べる事―リソースの「意味変容」と「信頼設計」
ワサビの挑戦は、既存のリソースをいかに再定義すべきかという、現代ビジネスの核心を突いている。
第一に、時代遅れとされた着物を「ハイエンドな希少素材」へと変換する「意味変容」の重要性である。第二に、市場の不健全さを排除してきた厳格な管理思想が、そのまま高単価商品の真正性を担保する「信頼設計」へと転換されている点だ。そして第三に、サステナビリティを単なる慈善活動に留めず、ハイエンド市場で通用するビジネスモデルへと昇華させる戦略眼である。
効率化を極めたデジタル技術の先に、手仕事による情熱の循環を見出す。ワサビの歩みは、経済性と倫理性、そして文化継承を高度に融合させた、次世代経営のひとつの到達点を示唆している。



