
小さな「おくすりシート」を資源に変える。第一三共ヘルスケアと東大和市が進める、市民参加型の資源循環プログラムが示す、企業・行政・生活者の新しい協働の形。
東京都で初協定、「おくすりシート」回収エリアが東大和市に拡大
第一三共ヘルスケア株式会社(以下、第一三共ヘルスケア)は、テラサイクルジャパン合同会社と協働で展開する「おくすりシート リサイクルプログラム」について、回収エリアを東京都東大和市に拡大し、2025年12月11日より運用を開始した。これは、2022年10月の神奈川県横浜市での開始以来、東京都内の自治体との連携としては初となる事例である。
本プログラムは、医薬品包装材であるPTP(Press Through Package)シートを回収し、再資源化する生活者参加型の取り組みである。開始にあたり、東大和市役所庁舎にて、東大和市、テラサイクル社、第一三共ヘルスケアの三者による協定締結式が行われた。
東大和市における回収は、市役所および市内の市民センター・公民館など公共施設全10カ所(2026年1月までに設置予定)から始まり、回収対象はメーカーを問わない使用済みのおくすりシート全てである。協定締結式では、回収シートをリサイクルして作製されたベンチが公開され、プログラムの具体的な成果が示された。東大和市では、先行する横浜市での実績を踏まえ、回収方法やコストの最適化を図り、プログラムの持続性を高める運用を目指す。
リサイクル困難な複合素材を資源化する革新的な仕組み
本プログラムが持つ最大の独自性は、リサイクルが極めて困難とされてきた医薬品包装材を、回収・再資源化のサイクルに乗せた点にある。
おくすりシートは、医薬品の品質保持のため、プラスチックとアルミニウムを組み合わせた多層構造を持つ複合素材であり、一般的なリサイクル設備では分離・処理が難しく、その大半が廃棄物として焼却処分されてきた。高齢化の進展に伴い、その使用量増加が見込まれる中、この膨大な廃棄物への対策は業界全体の課題であった。
第一三共ヘルスケアは、テラサイクル社の専門的な技術と知見を活用し、この複合素材から資源を分離・抽出する仕組みを確立した。プログラム開始から2025年11月末までの回収量は約16t(約1,600万枚相当)に上り、回収されたシートはペン、トレー、ベンチなどのアップサイクル品へと生まれ変わっている。製薬会社として、削減が難しい必需品の包装材を「廃棄物」ではなく「資源」として再定義し、それを社会実装した点は高く評価されるべきだ。
「小さな廃棄物」に光を当てる企業と行政の協働戦略
この取り組みの根底には、「Wellness for GOOD」という、第一三共ヘルスケアが掲げるサステナビリティ・コンセプトがある。これは、「100年後も人と社会と地球が健やかであり続ける」ことを目指す哲学であり、PTPシートのリサイクルを「Earth」領域の重点的な取り組みと位置づけている。
同社のサステナビリティ推進マネジャーである岩城純也氏は、「小さなアクションが環境を守る——その挑戦を、本プログラムで実現できるよう」継続的な努力を強調する。
この活動が持続性を確立できた鍵は、行政との協働戦略にある。企業一社の力では、全国的な回収ネットワーク構築は困難である。しかし、東大和市が市役所や公民館などの公共施設に回収拠点を設け、市民の日常的な参加を促すインフラを担うことで、効率的かつ広範な収集が可能となった。
東大和市の和地仁美市長は、市が掲げる「ゼロカーボンシティ宣言」との整合性を強調し、「両社と連携し、持続可能な社会の実現を目指して取組を進めてまいりたい」と述べた。これは、市民に最も身近な接点を持つ行政が、企業の革新的なリサイクルシステムを社会インフラとして機能させるという、新しい協働モデルの成功例である。
循環型社会実現の鍵を握る「生活者参加型」モデルの学び
第一三共ヘルスケアのこのプログラムは、循環型社会の実現に向け、今後の製造業が学ぶべき重要な視点を二つ提示している。
第一に、製造物責任の拡張である。製品のライフサイクルが使用後(廃棄)まで延伸されたことで、企業は「売って終わり」ではなく、包装材という副次的な廃棄物にまで再資源化の責任を負うべきという、サプライヤー責任の明確化を示した。
第二に、社会変革を促す仕組みの設計である。回収対象をメーカー問わず、さらに回収拠点を市民が日常的に利用する公共施設に置くことで、生活者に負担をかけずに「参加」を促している。これにより、市民は日々の服薬後の「小さな廃棄物」を、社会貢献に繋がる「資源」へと変える意識改革の機会を得る。
同社は、本プログラムを「企業の枠を超えて広く取り組まれる活動へ発展すること」を目指すとしており、業界内でこのノウハウが共有され、PTPシートのリサイクルが新たな産業スタンダードとなるかどうかが、資源循環社会の進展における一つの試金石となろう。



