
食品副産物を再資源化し、空間デザインに価値として組み込む――その発想を形にした共同開発が進んでいる。イトーキとキユーピーは、卵殻をアップサイクルした天板素材を製作し、企業空間そのものに循環型デザインを浸透させようとしている。
卵殻アップサイクルで天板素材を共同開発
キユーピーは年間約25万トンの鶏卵を使用し、国内生産量の約一割を占める。その過程で発生する卵殻は年間約2万8千トンに上り、同社は早くから100%再資源化の方針を掲げてきた。
今回、イトーキはその理念に共鳴し、卵殻を“視覚的な素材”として家具に落とし込む取り組みを進めた。キユーピーの空間そのものに循環の思想を反映させる狙いがある。
卵殻の存在を生かす透明樹脂仕上げ
初期の試作段階では、卵殻を石膏状に固める案も検討されたが、表情が消えてしまうことから方向転換した。粉砕した卵殻を透明樹脂で包み込み、粗目の殻を残すことで、素材そのものの存在を“見えるデザイン”として成立させた。
殻が浮く・偏るといった課題を克服するため、接着層の厚みや固定方法を繰り返し検証。最終プレスを行わず凹凸を残した仕上げは、自然な陰影を生み、素材が持つ独自の質感を空間に添える。
試作は滋賀工場および研究機関で進行し、検証段階だけで約30kgの卵殻が使用された。
キユーポートへの導入で企業ブランディングと統合
完成した天板素材は、東京都調布市の「仙川キユーポート」に導入される。
経営推進本部の望月康次氏は、来訪者を迎えるエントランスを巡って1年以上社内で議論が続いたと説明する。天板デザインは、グループ従業員の投票によって決まったという。
キユーピーマヨネーズ100周年の節目に合わせ、企業文化とサステナビリティを融合させる空間づくりが進む。エントランスは2026年の完成を予定している。
イトーキによるアップサイクル家具開発の流れ
イトーキはこれまでにも、製造過程で発生する廃プラスチックを再生させたトヨタ自動車との協働や、コーヒー豆かすを素材化した家具の開発など、多様なアップサイクル事例を積み上げてきた。
素材開発をデザインと結びつけ、企業空間へと落とし込む手法は同社の特徴であり、今回の卵殻素材もその延長線上にある取り組みと言える。
キユーピーが続ける卵殻活用の再資源化
キユーピーは創業初期から卵殻膜や卵殻の再利用を進め、化粧品原料やサプリメント、カルシウム強化食品、肥料など多方面で活用を行ってきた。
食品企業として副産物の価値を引き出し続けてきた姿勢が、今回の共同開発にも自然につながった。
サステナブル素材が企業空間にもたらす変化
働く場がハイブリッド化するいま、オフィス空間は“理念を伝える場”としての役割を強めている。
どの素材を使い、どのような過程で価値が生まれたのか――その物語が空間価値の一部を構成する時代に入った。
卵殻という身近な副産物が企業の象徴となる家具に変わるプロセスは、循環型社会の実装を体験的に示すものと言える。
イトーキは今後も、人と地球が調和する空間づくりを軸に、素材開発とデザインを融合させた提案を進めていく考えだ。



