
子どもたちの学びの姿が、いま大きく変わろうとしている。大日本印刷(DNP)が始めた新サービスは、世界的に人気の「Minecraft」や「Roblox」を舞台に、まちづくりや職業体験をゲームの中で学ばせるという大胆な試みだ。教育に新風を吹き込む期待が高まる一方で、「遊びすぎて依存しないか」「家庭や学校の理解を得られるのか」といった影の部分も浮かび上がる。光と影が交錯する“教育×ゲーム革命”の行方に迫った。
DNPのMinecraft・Roblox教育サービスの全貌
大日本印刷(DNP)は9月16日、世界的に人気の高いMinecraftとRobloxを活用した「DNPゲーム活用教育サービス」を発表した。まちづくりや職業体験をゲーム内で学ぶ仕組みを提供し、学校教育だけでなく、家庭学習や企業のCSR活動、地域イベントまでを射程に入れる。
同社は出版・教育分野で培った教材制作力に加え、XRやメタバース領域での開発実績を持つ。そこにスタートアップ企業との協業を掛け合わせ、従来の「教科書+授業」の枠組みを超える学習体験を構築した。単なる娯楽ではなく、遊びを学びに変換するプラットフォームを目指している点が特徴だ。
Minecraftで学ぶまちづくりとSDGs
Minecraftを活用したプログラムでは、子どもたちが仮想空間で建築や街づくりに挑戦する。建物の設計からエネルギー利用、都市計画に至るまで、社会の仕組みを体験的に理解できるよう設計されている。
学習は「発見→実践→振り返り」のプロセスで進行する。例えば、再生可能エネルギーを利用した街を構築し、効率を検証する過程を通じて環境問題への理解を深める。従来の板書中心の授業と比べ、子ども自身の意思で探究する要素が強いのが大きな利点だ。
ただし学校現場からは「授業時間内で十分な効果を得られるのか」「PCやタブレットを持たない家庭との格差をどうするのか」といった現実的な課題も指摘されている。
Robloxで体験する職業教育と企業CSR
Robloxを使ったプログラムでは、売場や工場を模した仮想空間に入り込み、子どもたちが職業を疑似体験できる。接客、製造、物流といった仕事の流れをゲーム感覚で理解できるのが魅力だ。親子で一緒に参加できる設計により、家庭での学びの共有や進路についての会話が生まれる可能性もある。
また、ゲーム内に企業ロゴや施設名を表示できる仕組みを整えた点も注目される。子どもは自然な体験の中で企業の取り組みを知り、CSRや採用活動に直結する新たな広報手段にもなる。だが教育関係者からは「教育の場が広告の延長になるのでは」との懸念が絶えず、学びとビジネスの境界をどう描くかは今後の課題だ。
コナミ「桃鉄教育版Lite」とセガ「ぷよぷよプログラミング」 他社の挑戦
教育とゲームを組み合わせた市場はすでに活況を呈している。コナミの「桃太郎電鉄 教育版Lite」は、日本全国を旅するすごろく形式を通じて地理や歴史を学べる教材として学校に導入され、「子どもが楽しく社会科に親しめる」と好評を得ている。
一方、セガの「ぷよぷよプログラミング」は、人気パズルゲームを題材にプログラミング教育を展開。子どもたちがソースコードを読み解き、改造を重ねながら論理的思考力を身につける仕組みで、教育関係者から高い評価を受けている。
さらに、教育ベンチャーのデジタネはRobloxを教材に取り入れ、プログラミングや創造力を育むカリキュラムを展開。親からの支持も厚く、教室の継続率向上につながっている。こうした取り組みはいずれも「遊びが学びへと転化する」成功例だが、同時に共通の問題も抱えている。
依存リスクと家庭との温度差 教育×ゲームの未来
最大の課題はゲーム依存リスクだ。子どもが楽しみすぎて「もっと遊びたい」と学習目的を見失うケースが報告されている。ある教師は「授業を終えても帰りたがらない子が出る」と語る。ゲームの持つ強い魅力は学びの原動力であると同時に、過剰な没入を招く諸刃の剣でもある。
さらに深刻なのが家庭との温度差だ。ITに理解のある保護者は「夢中になって学ぶのは素晴らしい」と肯定的だが、懐疑的な親からは「ゲームにしか見えない」「テストの点に直結しないのでは」と不安の声が上がる。祖父母世代との間で意識の乖離がより大きいケースもあり、家庭内で導入を巡る摩擦が生まれている。
DNPが成功するかどうかは、依存リスクを抑制しつつ、学習効果を数値化・可視化して教育現場と家庭の双方を納得させられるかにかかっている。ゲームが教育を進化させるのか、それとも教育がゲームに呑み込まれるのか。DNPの挑戦は、日本の教育の未来を占う試金石となるだろう。