
大量生産・大量消費の時代を経て、素材の「寿命」をいかに延ばすかが企業の命題となっている。昭和3年創業の山陽製紙は、工業用包装紙という黒衣の素材にデザインと哲学を吹き込み、循環型経済の旗手へと躍り出た。
始まりは「ゴミ」だった。老舗製紙メーカーが起こした10万枚の奇跡
電線や鉄鋼を包む、無骨で頑丈な「工業用クレープ紙」。製造工程で大量に発生し、かつては捨てられる運命にあったその端材が、今や全国の感度の高いキャンパーや家族連れに愛される「ピクニックラグ」へと変貌を遂げた。
大阪府泉南市に拠点を置く山陽製紙のブランド「crep(クレプ)」が、誕生10周年を迎えた。看板商品のレジャーシートは、累計10万枚という驚異的な数字を叩き出している。
単なるエコグッズに留まらず、2026年からは「年間10の新企画」という強気な攻勢をかける同社。一地方の中小企業がいかにして、紙の可能性を再定義したのか。その舞台裏に迫る。
「頑丈すぎて捨てられない」を価値に変えた、逆転の発想と独自素材
「crep」の快進撃を支えるのは、他社が決して真似できない「素材の出自」にある。
主原料となる工業用クレープ紙は、セメント袋や電線包装に使われる、いわば「物流のプロ」が認めた高機能紙だ。独特のシワ加工が驚異的な強度と伸縮性を生み、さらには再生紙の弱点である「水」にも強い。同社はこの無骨な素材に目をつけ、気鋭のデザイナーとタッグを組んだ。
「環境に良いから」ではなく「お洒落で便利だから」選ばれる。この、義務感に頼らないマーケティングこそが、従来のアップサイクル製品が陥りがちな「一過性のブーム」という罠を回避した最大の要因と言えるだろう。
「自然を愛でる道具」が、いつの間にか「地球を守る盾」になる哲学
山陽製紙の凄みは、製品の華やかさだけではない。その製造プロセスには、一切の妥協がない。
同社は、中小企業の製紙業として日本初となる「SBT認定」を取得。工場の電力はCO2フリーの再生可能エネルギーで賄い、排水は「飲めるほどきれいな水」に還して放流する。この徹底した姿勢の根底には、代表の原田六次郎氏が掲げる「自然に親しむ」という哲学がある。
「自然を守ろうという声高な主張よりも、まずは自然を楽しんでもらいたい。その道具が、かつては産業を支えた再生紙であれば、循環の輪をより身近に感じてもらえるはずだ」 という同社の姿勢は、論理的なサステナビリティと、人間の感性を融合させたものだ。
「成熟産業」という言葉は、思考停止の言い訳に過ぎない
山陽製紙の10年が我々に突きつけるのは、「成熟産業だから」「地方の中小企業だから」という言い訳を許さない圧倒的な実績だ。
彼らが成し遂げたのは、単なる新商品の開発ではない。自社の既存技術を再定義し、BtoBからBtoCへと販路を広げ、本質的なESG経営を実装するという、いわば「中小企業の生存戦略」の完成形である。
デジタル化が進み、紙の価値が揺らぐ現代。しかし、山陽製紙が描き出す「次の10年」の景色には、むしろ紙という素材の、もっと明るく逞しい未来が広がっている。



