
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は3月5日、日本で初めてのサステナビリティ開示基準を公表した。これは、国際的な基準であるIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と整合性を図りつつ、日本独自の要素を加えたもので、企業の透明性向上と持続可能な経営の促進を目的としている。
今回公表されたのは「サステナビリティ開示ユニバーサル基準」「一般開示基準」「気候関連開示基準」の3つだ。それぞれの基準が果たす役割やポイントを整理する。
ユニバーサル基準:開示の基本ルール
サステナビリティ情報の開示にあたっては、一定の原則が求められる。企業は、短期・中期・長期にわたるリスクと機会を整理し、それが財務に与える影響を説明する必要がある。特に、バリュー・チェーン全体における影響を考慮することが重要で、開示する情報の適時性や比較可能性、忠実な表現が求められる。財務報告と同時に開示することが推奨されており、投資家を含むステークホルダーが企業の持続可能性に関する情報を正しく評価できる環境を整える狙いがある。
一般開示基準:企業の持続可能性を示す枠組み
この基準では、サステナビリティに関する情報を4つの要素に分類して開示する。ガバナンスの面では、企業の意思決定プロセスや責任の所在が明示されることが求められる。戦略の部分では、持続可能性がビジネスモデルに与える影響を整理する必要がある。リスク管理に関しては、リスクの識別や評価、管理手法についての情報が含まれる。さらに、指標および目標の項目では、定量的なKPIや削減目標が明示されることになる。
この基準は2027年から適用が開始され、まずは時価総額3兆円以上の企業が対象となる。これにより、企業の透明性向上が期待される。
気候関連開示基準:気候変動リスクと機会の開示
気候変動に関するリスクと機会について、より詳細な開示が求められる。リスクは「物理的リスク」と「移行リスク」に分けられ、それぞれの影響が企業経営に及ぼす可能性を示す必要がある。物理的リスクには、自然災害や気温上昇による直接的な影響が含まれる。一方、移行リスクは脱炭素社会への移行に伴う市場や規制の変化による影響を指す。
また、企業は温室効果ガス(GHG)排出量についても詳細な情報開示を求められている。スコープ1(直接排出)、スコープ2(購入エネルギー由来の排出)、スコープ3(サプライチェーンを含む間接排出)と分類されるGHG排出量の開示は、多くの企業がすでに取り組んでいるが、今回の基準により一層の透明性が求められる形となる。将来的な排出削減目標の設定とともに、気候変動が経営に与える影響をシナリオ分析に基づいて評価し、気候レジリエンスを高める方針を示すことが求められる。
国際的な開示基準との比較――日本の立ち位置を探る
日本のサステナビリティ開示基準は、国際基準との整合性を図りつつ、日本独自の要素を取り入れている。しかし、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や米国のSEC(米証券取引委員会)による気候情報開示ルールと比較すると、いくつかの違いが浮かび上がる。
欧州のCSRDとの比較
欧州では、CSRDに基づき、すべての大企業に対してサステナビリティ報告を義務付ける方針をとっていた。しかし、2025年3月時点での最新情報によると、CSRDの適用範囲は大幅に緩和される方向で見直しが進んでいる。これまでの基準では、従業員250人以上、売上高5000万ユーロを超える企業が対象とされていたが、新たな基準では従業員1000人以上、総資産残高2500万ユーロ超、あるいは純売上高5000万ユーロ超の企業のみが対象とされる見込みだ。これにより、EU域内の約80%の企業が規制対象から外れる可能性がある。また、適用開始時期も2年間延期され、2028年からの適用が予定されている。
米国SECの開示ルールの最新動向
米国のSECは、2024年3月に気候関連情報開示の最終規則を採択した。最終規則では、すべての企業に一律の開示を求めるのではなく、重要性の原則を適用し、柔軟なアプローチを採用することで開示要件が緩和された。特に、バリューチェーンにおける気候関連リスクが除外され、それに伴いスコープ3温室効果ガス(GHG)排出量の開示要件も削除された。これにより、SEC登録企業やバリューチェーン内の事業者の遵守負担が大幅に軽減された。
国際基準との整合性と課題
日本の開示基準は、ISSB基準に準拠しつつも、欧米の開示基準と比較すると、規制の適用範囲や開示の厳格さで差異がある。特に、CSRDのように社会的影響を考慮するかどうかは大きく異なる。
企業にとっては、欧米市場との取引や投資家対応のために、日本基準にとどまらず、CSRDやSECの基準も視野に入れて対応を進める必要がある。特にグローバル展開している企業は、各市場の要求に応じた情報開示戦略を構築することが求められる。