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公取委、アニメ制作現場の搾取構造にメス 「交渉すれば仕事を失う」 下請けの悲痛な叫び

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公正取引委員会

公正取引委員会は12月24日、アニメーションや映画の制作現場における取引環境の実態調査報告書を公表した。日本が誇るアニメ産業の華やかな成功の裏で、発注元である「製作委員会」や制作会社が、立場の弱い下請けやフリーランスに対し、不当な負担を強いている実態が浮き彫りとなった。

公取委は、制作期間の延長やリテイク(やり直し)に伴う追加費用を支払わない行為などが、下請法違反や独占禁止法(優越的地位の濫用)の恐れがあるとの見解を示し、是正に向けた指針を策定する方針だ。

 

現場の悲鳴「生活できない」「タダ働き」

今回の調査では、業界を支えるフリーランス(個人事業主)から切実な声が数多く寄せられた。匿名を条件に取材に応じた現場クリエイターの事例からは、過酷な実態が見えてくる。

作画担当 Aさん(30代) 「単価が上がっても作業量に見合わない。交渉は『次がない』覚悟が必要」

「動画(原画と原画の間をつなぐ絵)の単価は1枚200円〜250円程度。これではまともに生活費を稼げません」とAさんは語る。 近年、制作費や報酬の単価自体は上昇傾向にあるものの、現場の実感は乏しい。Aさんは「求められるクオリティが以前より格段に高くなっており、単価が多少上がっても、それ以上に作業時間がかかるため割に合わないんです」と訴える。

本来なら単価交渉をすべきだが、Aさんは首を横に振る。「価格交渉をするということは、次の仕事がなくなる可能性を覚悟しなければならない。怖くて言い出せません」。

 

演出・制作進行担当 Bさん(40代) 「理不尽なリテイクも無報酬。キャンセルされても補償はない」

Bさんが直面したのは「追加報酬なき労働」だ。「海外に発注した作画の品質が悪く、1話まるごと作り直しになったことがありました。私の責任ではないのに、実質2話分の作業をしても、報酬は当初の1話分だけでした」。

また、発注の取り消しも死活問題だ。「絵コンテなどの準備作業を進めていた段階で、急に発注が取り消されました。しかし、着手していた分の報酬は一切出ない。空いたスケジュールですぐに新しい仕事が見つかるわけもなく、生活が立ち行かなくなります」と憤る。

 

8割超で「追加費用」発生も、支払いは不十分

個人の声は、データによっても裏付けられている。 調査によると、元請制作会社の8割以上が、製作委員会との取引において「追加の費用が生じた場合があった」と回答。しかし、その支払いについては、「一部しか支払われず納得できなかった」「全く支払われなかった」とする回答が計4割を超え、コスト負担のしわ寄せが制作現場にいっている現状が明らかになった

公取委は、制作会社やクリエイターに責任がないにもかかわらず、やり直しや期間延長で生じたコストを発注側が負担しない場合、下請法上の「不当な給付内容の変更」や「買いたたき」に該当する可能性があると警告している

 

契約書の「後出し」と著作権の無償譲渡

取引の透明性も欠如している。元請制作会社の約45%が、契約条件が書面で明示されるのは「制作開始後から納品までの間」と回答しており、作業が始まってから条件が提示される「後出し」が常態化している。 また、フリーランスへの発注においても、仕事内容や報酬額が事前に書面で伝えられている割合は半数以下にとどまる

さらに、元請制作会社の約6割が制作委託費のみでは「赤字」であるにもかかわらず、著作権の譲渡対価が「制作委託費に含まれている」とみなされ、別途支払われないケースが多いことも判明した

 

配信事業者との「情報の非対称性」

近年増加する動画配信事業者との取引についても課題が指摘された。 制作会社側の5割が、交渉の材料となる「視聴回数」などのデータについて「開示されないことが多い」と回答している。公取委は、適切な価格交渉を行うためにも、配信事業者は視聴状況などの情報を提供することが望ましいとの見解を示した

公取委は今回の調査結果を踏まえ、独占禁止法および下請法、新たに施行されたフリーランス法に基づく具体的な指針を策定し、業界の健全化を図る方針だ

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ライター:

女性向け雑誌にて取材・執筆及び編集に従事。独立後は、ライフスタイルやファッションを中心に、実体験や取材をもとにリアルな視点でトレンドを発信。読者が日々の生活をより豊かに楽しめるような記事を提供し続けていることがモットー。

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