
「男の世界」を標榜してきた大阪の老舗化粧品メーカー、マンダムが、資本の論理という冷徹な現実に直面し、ついに白旗を揚げた。同社は11月27日、経営陣による買収(MBO)の一環として実施している株式公開買い付け(TOB)の価格を、従来の1株1,960円から2,520円へと一気に引き上げると発表したのだ 。
当初の提示額から実に3割近い大幅な増額であり、期間も12月18日まで延長されることになったが、その舞台裏には、あの“物言う株主”たちの強烈なプレッシャーがあった 。
2割握った「村上ファンド」の影
事態が急転したのは、MBO成立に黄色信号が灯っていたからに他ならない。マンダム株の20%超を握っていたのは、かつて日本市場を震撼させた「村上ファンド」の系譜を継ぐ投資会社、シティインデックスイレブンスとその共同保有者たちだった。
彼らは当初の価格を「安すぎる」と見なし、市場株価もTOB価格を上回って推移するという、経営陣にとっては生きた心地のしない状況が続いていたのである。
そこへダメ押しの一手を加えたのが、シンガポールを拠点とする資産運用会社、ひびき・パース・アドバイザーズだ。会社側は背に腹は代えられず、シティ社やひびきら大株主と個別に交渉を行い、彼らが納得する「2,520円」という数字を飲むことで、ようやく応募契約を取り付けたのである。
これは事実上、アクティビスト側の完全勝利と言っていいだろう。
「安く買い叩く気か」見透かされた創業家の思惑
経済アナリストの崔真淑氏が指摘するように、MBOは経営陣が自社株を買い取る性質上、どうしても価格を安く抑えようとするインセンティブが働きやすい。今回のケースは、一般株主から「安く買い叩こうとしている」と見透かされた創業家の目論見が、アクティビストという番犬によって阻止された教科書的な事例となった。
ネット上では「創業者の性根が見えた」「村上ファンドの娘(野村絢氏)、恐るべし」といった声が溢れ、長年ファンに愛されてきた企業イメージにも、少なからず泥がついた格好だ。
かつてのCMでチャールズ・ブロンソンは男臭く泥水を浴びて見せたが、今回の経営陣が浴びたのは冷や汗だったに違いない。一般株主にとっては「満足」な結果となったが、想定外の出費を強いられた経営陣は今ごろ、アゴを撫でながらこう嘆いているのではないだろうか。
「うーん、難(ナン)ダム……」



