社会全体のサステナビリティに対する意識の高まりが、いよいよここまで来たか、と唸らせるエピソードが起きた。2021年7月21日21:00より販売を開始した環境貢献特化の太陽光発電所『グリーンワット』が、約14時間で完売したという。今回の販売で1,612名のグリーンワットオーナーが誕生した。このグリーンワット、何が画期的かというと、売電収入が見込めないものなのだ。太陽光発電と言えば、固定価格買取制度(FIT制度)ありきで浸透してきたものだから、多くの人が驚いたのも無理はない。
販売元は、太陽光発電所をスマホから簡単に買うことができるサービス「CHANGE(チェンジ)」を提供する株式会社チェンジ・ザ・ワールド。「何その名前?ってハローワークの人に言われちゃいましたね。」と笑う代表取締役の池田友喜さんにお話を聞くと、チェンジ・ザ・ワールドが企業であるにも関わらず「経済性よりも社会性を重視する」と言い切る理由ときっかけ、事業への熱意に感銘を受けました。それらを支えるステークホルダーへの思いとともに、そもそもグリーンワットって何なのか、今回の完売がどういった意味を持つのかまでをご紹介します。
「14時間で完売! 売電収入にならない太陽光発電が何故?」
―まず最初に、今回14時間で完売したという『グリーンワット』とは何なのかを教えてください。
グリーンワットは、誰でも1口(1グリーンワット)500円から買える環境貢献特化の太陽光発電所のことを指します。これまで太陽光発電所は、固定価格買取制度(FIT制度)によって普及が急速に進んできました。今回のグリーンワットは、非FIT型の発電所であり、購入した発電所の発電量・CO2削減量に応じた「環境価値」が購入者に還元されるものなのです。売電収入は発生しませんが、グリーンワットを購入することで、生活の中で排出されるCO2を自分でオフセットできるという特長があります。
―今回14時間で完売したとのことですが、これはどういった意味を持つのでしょうか。
グリーンワットの完売は、未来から見たとき、このタイミングから世界が変わり始めたと語られるくらい、大きな出来事だと感じています。1612名のグリーンオーナーが生まれたという数値から見ても、世の中のサステナビリティに対する意識がここまで高まりを見せた、という一つのエポックメイキングな出来事と捉えています。我々が目指す「環境価値合理性」についてこれほどまで多くの方たちに共感いただいたという事実を大変嬉しく思います。
「ギブ&ギブの精神で。結果多くのテイクがあるんです」
ー今回、グリーンワットを提供するに至った経緯を知りたいので、御社について教えてください。
当社では『社会的で革新的な事業に挑戦し、より良いカタチに「世界を変える」』というミッションを掲げているのですが、そのために大事にしていることが3つあります。まず1つめは「社会的である」こと。2つめは「革新的、独自性がある」こと。そして3つめに「経済的合理性」。すべての事業は社会性が第一で、世の中に必要とされることがもっとも大切だと考えています。
私は以前に別の会社を経営していたのですが、一度倒産させてしまっているんです。経営が苦しくなってきたときに、本来自分たちがやるべきことではない、儲けを重視した事業に手を出してしまって。自分の軸をぶれさせると社員の心も離れてしまう。たとえ瞬間的には苦しくても、信念を曲げないほうが最終的にはプラスになると学びましたね。
当社は採用面接などでも「経済性よりも社会性を重視する」とはっきりと言っているんですよ。振り切ってますよね。だけどおかげで本当に共感してくれる人だけが集まってくるんです。
ー再生可能エネルギー事業をやろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
2011年の東日本大震災がきっかけです。当時は東京に住んでいたのですが、テレビで福島第一原子力発電所の事故の映像を見て、同じ東北出身として大きな衝撃を受けました。私にも小さな子どもがいるので、子どもたちの未来を考えたときに、人間がコントロールできるようなエネルギーにシフトして、環境を守っていくことが大人の責任だと痛感したんです。
国の方針としても再生可能エネルギー事業が盛んに推進され始めた時期で、当時やっていたITの仕事と再エネをかけ合わせて何かできないかと考えて。周囲に話すと自分以外にも再エネに興味がある人がたくさんいることがわかり、ひとりひとりが少しずつでも行動を起こせば何かが変わると感じました。
ー現在は具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
当社には大きく分けると2つの事業があります。ひとつは太陽光発電所を作って、投資家や企業に発電所を直接提供するCHANGE for Biz事業。もうひとつは個人のお客様に、最小1ワットから発電所を販売するCHANGE(チェンジ)事業です。企業向けに関して言うと、今まではおもに投資目的で購入されていたのですが、最近では投資よりも環境への貢献として太陽光発電に対する需要が多くなってきているのを感じています。エシカルなものへの関心が世界全体で広がってきていますね。
経済的合理性の面では、個人が少額から始められる資産運用としても注目が集まっています。個人のお客様であるユーザーは現在約1万2,000人いて、発電所の平均購入額は25万円ほど。年齢層は18〜40歳と若い世代が中心です。エシカル消費に関心があり、同時に子育て世代でもありますよね。発電所購入による利回りは約7%とそれほど大きくはないので、儲け目的というよりも「銀行に預けるよりは少し増えて、環境にも貢献できればそのほうがいいかな。」というような気持ちだと思うんですよね。そのような背景が重なってCHANGEが伸びているのではないでしょうか。
また、当社が運営する太陽光発電所の8割は、ソーラーシェアリング方式を採用しています。ソーラーシェアリングとは、農地の上に背の高い架台と太陽光パネルを設置して行う太陽光発電方法で、耕作放棄地を農地に蘇らせてソーラーシェアリングを行い、耕作放棄地の増加や農地の減少といった社会的課題にも取り組んでいます。
チェンジ・ザ・ワールドのステークホルダーへ感謝の思い
当社は小さなベンチャー企業なので、信頼してもらえるように社員の顔が見えるようなサービスを心がけていますが、最初の頃は「本当に発電所があるのか、利回りが分配されるのか」という不安もあったと思うんです。それでも私たちを信じてくれてサービスを広めてくれたユーザーや、今も応援の気持ちで買ってくれるユーザーがたくさんいるんです。私たちが目指しているサービスをユーザーの方たちが育ててくれているように感じます。
お客様には「太陽光発電を買ってください」という言い方ではなく「再エネに参加してください」と伝えていて。“みんなが参加することで世界は変えられる”という実験をしているような感覚なんです。みんな経済的合理性よりも、活動そのものに意義を感じてお金を預けてくれているんじゃないかな。目指している世界に共感して、それを支えてくれているユーザーの方たちにはとても感謝しています。
山形に戻ってきて地元での採用活動を始めたばかりの頃に、ハローワークを通して事務員に応募してくれたのが梅木さんだったんです。当時彼女は別の会社で内定が決まっていたにも関わらず、そちらを辞退して、まだ何も始まっていなかった当社を選んでくれて。チェンジ・ザ・ワールドを立ち上げたばかりでまだ経営が軌道に乗っていない頃でも、ネガティブなことを一切言わずに「信じているので大丈夫です!」とむしろ励ましてもらったり。バックオフィスの全般を担ってくれているので業務上でもとても助けられています。ゼロの頃の当社を知っている社員は彼女だけですね。今のチェンジ・ザ・ワールドがあるのは梅木さんの存在のおかげだと思っています。私よりも会社愛が強いんじゃないかな(笑)。今までどんな気持ちでついてきてくれたのか、そしてこれからチェンジ・ザ・ワールドをどんな企業に育てていきたいのか、梅木さんのビジョンを聞いてみたいですね。
玉置さんは前の会社から一緒に働いている創業メンバーで。会社員時代からの仲なんですよ。前の会社が倒産したあと、玉置さんは会社員に戻るつもりだったんですよね。彼は優秀なエンジニアなので、有名な企業からスカウトされていて。けれど私は一緒に事業をやるのは彼しかいないと思っていたので、もう一度チャレンジしようと誘ったんです。「他人が作ったシステムの面倒を見るのと、世界を変えるサービスをゼロから作るのと、どっちがいい?」と。もう二度と信念をぶれさせないと約束して、私の思いに玉置さんも応えてくれて。「わかりました。一緒に世界を変えましょう。」と言ってくれましたね。その後玉置さんも山形に移住して、CHANGEのサービスを彼ひとりで作り始めてくれたんです。今でも開発チームとマーケティングチームを彼ひとりで見てくれているんですよ。
面と向かって言うのは恥ずかしいんですけど……天才だと思うんですよね、彼。アイデアがすごく豊かで、それを実現していく力もある。私がお願いしたものを完璧に作ってくれます。感謝しかないですね。なぜずっと私とやっていってくれているのか、改めて聞いてみたいです。
会社員時代からのつながりで、前の会社のときも株主になってくれていました。私が前の会社を倒産させるという大きな失敗をしたときも、見捨てずに励ましてくれて。チェンジ・ザ・ワールドを立ち上げるときも支援していただきました。経営の問題点について教えることができるから、と平野さん自ら当社の役員になってくださったんですよ。当社を裏から支えてくれているのは平野さんなんです。もう20年近く応援してもらっていて本当に感謝しています。
取引先の中には、最初は私たちがやりたいことを理解していない人もいたと思うんですよね。けれど最近では当社の信念に共感して、支払いを猶予してくれたり、率先して工事をしてくれるような会社が増えてきていると感じています。いろいろな人たちに支えられていますね。
福島県の会津にある太陽光発電の会社で、物質的にも精神的にも助けてもらっています。数年前に当社の経営が厳しい時期があって。2〜3日後に入金されるはずの4,000万円近い額が直前で白紙になるという危機があったんです。RYOENGさんは同じ太陽光発電の会社なので事情をわかってくださって。当社が持っていた太陽光発電所の権利を買い取ってもらうことで、現金を準備することができたんです。ただし買戻をすることを条件に。粋ですよね。今でも「あのときは大変だったよね。」なんて言いながら一緒にお酒を飲んでいるんですよ。チェンジ・ザ・ワールドが今までやってこられたのは、そばに同じような志を持ったRYOENGさんのような存在がいたからだと思っています。
酒田にあるビフテキ屋さんで、悩みや弱音を言いたいときに行くと、マスターがカウンターで肉を焼きながら「どうした?美味い肉食えよ。」なんて言いながら話を聞いてくれるんです。フラットな立ち位置で話ができるのがありがたいですよね。当社の社員にもよくしてくれています。
鳥海山は山形県と秋田県の県境にある火山です。鳥海山で星空を眺めているときに「貢献は本能だ」と気づいたことがあって。というのも、星空を見たときって美しさに感動しますよね。この感動はなんなんだろう、と考えたんです。星を見て「きれいだ、凄い」と感動するのは、仕事で受注が決まったときの嬉しさとは全然違いますよね。美しいものを見たときの「本能的な感動」っていうのかな。それならば仕事を通したらどんな感動が得られるのかと考えいた頃、うちの甥っ子がたまたま山形に遊びに来ていて。子どもが楽しそうに笑っていると、周りの大人たちもみんなニコニコしていることに気がついたんです。子どもの笑顔を見て幸せになるということは、他人が喜んでいる姿を見ることは、人間にとって本能的な喜びなのではないかと思ったんですね。他者や地球に貢献していくことが、人間本来の喜びにつながるのではないかと気がついたんです。だから私は、星空や山を見たときと同じような感動を仕事でも得られるのではないかと思いながら事業に取り組んでいるんです。地球に優しい、善であることをやりたいという思いがすごく強い。自分も満たされた気持ちになるし、結果的に次の世代の子どもたちに美しい地球を残せると思うと嬉しいじゃないですか。それを気づかせてくれた鳥海山の自然に感謝しています。
<プロフィール>
株式会社チェンジ・ザ・ワールド
代表取締役 池田友喜
https://ctws.jp/
山形県酒田市出身。高校卒業後、大学進学で関東へ移住。ベンチャー企業を2社経験した後、2006年に東京都内で起業。2014年3月に地元酒田にUターン。耕作放棄地などを利活用したソーラーシェアリング(営農型)発電所を企画設計し農業支援までワンストップで行う事業や、「グリーンエネルギーの発展にみんなが参加できる社会を創る」というビジョンを実現する「CHANGE事業」に取り組む。また「チャレンジャーの楽園」という文化を作り、地方が抱える様々な課題の解決策として新しい産業が生まれる場所”日本版シリコンビーチ”を庄内地方に創ろうとする「一般社団法人 日本西海岸計画」を主催し民間企業や自治体とも連携し活動している。