
2022年9月の東証グロース市場上場以降、株式会社ファインズの株価・業績推移は、投資家の期待に完全に応えられているとは言い難い状況にある。成長率の鈍化、横ばいに推移する売上高。マーケットの一部からは、動画制作市場での競争激化を懸念する声も聞かれる。
しかし、表面的な決算数字だけでは見えてこない、強固な事業基盤が同社には存在する。
SaaS業界でも異例の低水準を誇る「解約率」と、そこから広がる「中小企業版統合業務管理システム」への拡張性だ。
現在、ファインズは動画制作会社という枠組みを超え、日本企業の99.7%を占める中小企業の生産性を底上げする「DXプラットフォーマー」への転換を進めている。
なぜ今、ファインズなのか。その競争優位性と、2030年の売上100億円達成に向けた成長戦略の全貌を紐解く。
「動画」を入り口に、中小企業の課題を丸ごと解決するプラットフォーマー
そもそも、ファインズとはどのようなサービスを展開している企業なのか。多くの人は同社を「動画を作る会社」と認識しているかもしれないが、その実態は「動画を軸としたマーケティングプラットフォーム」の提供にある。
主力サービスである「Videoクラウド®」は、動画制作だけでなく、配信、視聴データの分析、データを基にした改善提案といったマーケティング機能を一気通貫で提供するクラウドサービスだ。 「良い動画を作って終わり」ではない。その動画を誰が、どこまで再生し、どのボタンをクリックしたか。そうした行動データを可視化し、企業の「集客」や「採用」といった経営課題を解決するためのPDCAを回す仕組みを提供している。
顧客の多くは、デジタル活用に課題を抱える地方の中小企業だ。ファインズは、こうした企業に対し、動画という分かりやすいコンテンツを入り口に、Webマーケティング全体の最適化を支援しているのである。
Webマーケティング業界で異例の「解約率0%台」。強さの源泉は“泥臭い”伴走支援
ファインズの事業価値を評価する上で、最も注目すべきKPIがある。主力サービス「Videoクラウド®」のチャーンレート(解約率)が、SaaS業界でも異例の「0.数%」という極めて低い水準で推移している事実だ。
一般的に競争が激しいと言われるWebマーケティング支援領域において、なぜこれほどまでに顧客はファインズから離れないのか。その理由は、プロダクトの機能性だけでなく、同社独自の「High-touch × Tech(ハイタッチ × テック)」というビジネスモデルにある。
多くの中小企業は、DXツールの導入で躓きやすい。機能が豊富でも使いこなせないのだ。そこでファインズは、ツールを提供するだけでなく、専任担当者が顧客の膝元に入り込み、具体的な活用方法を提案する徹底的な伴走支援(ハイタッチ)を行っている。

三輪
「日本の中小企業は、多くの産業セクターでまだまだDX化が進んでいるとは言い難くアナログで、それでいて熱量があります。だからこそ、デジタルツールを渡して終わりではなく、お客様と膝を突き合わせて『この動画をどう採用に活かすか』『集客導線をどう引くか』を議論する。テクノロジーを動かすのは、結局のところ『人の熱量』です」
この泥臭い支援体制こそが、競合他社が容易に模倣できない参入障壁となり、一度契約した顧客が離脱しない強固な収益基盤を築いている。
月1件の応募が20倍に。伴走が生み出す「組織の変化」
同社の伴走支援が、実際に中小企業の現場でどのようなインパクトをもたらしているのか。象徴的な事例がある。
製造・加工業を営むエゥーゴ合同会社は、知名度の低さに悩み、地域誌に求人を出しても応募は「月1件あるかないか」という状況だった。これに対し、ファインズは単にきれいな動画を作るのではなく、一日の具体的な作業内容や、忙しい主婦層の方でも気軽に始められるというのが伝わるコンテンツを制作。さらにWebコンサルティングで採用導線を再構築した。
その結果、応募数は月10〜20件へと約20倍に急増したという。優秀な人材を採用できたことで組織力が強化され、新たな採用はストップするほど。その活力は業績に直結し、売上は前年比約110%の増加を達成している。 単なるツールの提供にとどまらず、組織の成長にまでコミットする姿勢こそが、ファインズの提供価値なのだ。

下請け脱却を実現。事業構造の変革へ
もう一つ、ファインズが深く経営に入り込んでいることを示す事例がある。住宅建築を行う株式会社エス・ケー・ケーのケースだ。
同社は、利益率の低い下請け仕事から脱却し、元請け案件を増やしたいという経営課題を持っていた。ファインズは、エリア戦略を練り込んだ動画マーケティングとHP改善を実行し、公開後も継続的なデータ分析と改善提案を行った。
結果、HPの滞在時間は2.5倍に伸長し、元請け工事だけで年間1,400万円もの新規受注を獲得。「ファインズのアドバイスがなければ作れなかった売上」と高い評価を得ている。
このように、約6,300社(2025年6月期末時点)のアクティブユーザーに対し、採用難の解消や売上構造の変革といった「本業成長」に直結する支援を行っているからこそ、顧客満足度は高く維持され、解約率は低位安定しているのである。
動画から「中小企業版統合業務管理システム」へ。SAM拡大と100億のシナリオ
この強固な顧客基盤をテコに、三輪が描く2030年の長期ビジョンは「グロース市場で売上100億円」だ。そのドライバーとなるのが、「中小企業版統合業務管理システム構想」である。
現在、第2の矢として展開しているプラットフォーム「Raise(レイズ)」を拡張し、動画マーケティングだけでなく、勤怠管理、決済、会計といったバックオフィス業務までを一気通貫で支援するインフラへと進化させる計画を進めている。
「中小企業のDXが進まない最大の要因は、機能ごとに別々のツールを導入するコストと手間にあります。ファインズと契約すれば、マーケティングからバックオフィスまで、月額数万円の低コストで全てが完結する。そんな環境を提供したいと考えています」(三輪、以下同)
動画制作で信頼関係を構築した6,300社の顧客に対し、バックオフィス機能を提供していくクロスセル戦略であれば、顧客獲得コスト(CAC)を低く抑えつつ、LTV(顧客生涯価値)の最大化が可能となる。動画市場という枠組みではなく、日本企業の99.7%を占める中小企業の全業務領域をターゲットとすることで、SAM(獲得可能な有効市場規模)は飛躍的に拡大する。これがファインズの描く成長のシナリオだ。
上場後の停滞を打破する「抜本的な経営改革」
しかし、この壮大なビジョンを実現するためには、現在の延長線上にある経営だけでは到達できない。三輪は上場後、売上の伸び悩み以上に、組織の課題を痛感していたという。
「上場後、共通の目標が見えづらくなり、トップダウン経営の限界も感じていました。これまでの企業文化ややり方を踏襲していては、会社は成長しない。そう判断し、1年前に経営体制の抜本的な刷新を決断しました」
現在、ファインズでは外部から優秀なCxO人材(経営戦略・財務戦略・人事戦略等)を招聘し、組織風土や仕組みの再構築を進めている。 その核となるのが、2025年9月に全社員との対話を経て策定された新パーパス『企業と地域社会の未来に、テクノロジーの追い風を。』だ。判断基準を「自社の売上」から「顧客・地域社会への貢献」へと明確にシフトさせた。
この指針を具体化するため、パフォーマンスマネジメントであるOKR(Objectives and Key Results)を導入。トップの目標に対し、現場社員が「自分たちは何ができるか」を自律的に考え、ボトムアップで提案する組織へと変革を進めている。また、1on1の内容を可視化するツールを導入し、エンゲージメントスコアの向上を図るなど、組織基盤の強化に注力している。
「逃げない経営者」三輪幸将の原点と覚悟
こうした痛みを伴う改革を断行できる背景には、三輪自身の経営者としての胆力がある。その原点は、2019年のLBO(レバレッジド・バイアウト)の決断にある。
当時、創業オーナーから会社売却の話が持ち上がった際、三輪は「上場を目指して共に走ってきた仲間を裏切れない」と、自ら会社を買い取る道を選んだ。個人の連帯保証で数億円規模の借入を行い、全ての責任を背負う決断をしたのだ。その後、多くの古参メンバーが去る苦難もあったが、組織を再建し、公約通り2022年に上場を果たした実績を持つ。
三輪の根底にあるのは、学生時代の弁当屋のデリバリーアルバイトで培った「顧客に感謝される喜び」だ。自分が運んだ食事で顧客が笑顔になる。その原体験が、現在の「顧客への泥臭い伴走」という企業文化に直結している。
「外から見れば、今のファインズは踊り場にいるように見えるかもしれません。しかし、水面下では着実に『強い会社』へと生まれ変わっています。LBOの時も上場の時も、決めた目標は必ず達成してきました。2030年の100億円も、決して絵空事ではありません」
リスクと機会、そして株主へのメッセージ
投資判断においてリスクはつきものだ。今回の組織改革に伴う人材採用や新制度導入は、短期的にはコスト増となり、利益率を圧迫する可能性がある。また、変革期における組織内の摩擦も想定される。
しかし、中小企業のDX市場という巨大なブルーオーシャンに対し、解約率0%台という強固な足場を持つファインズの優位性は揺るがない。動画制作のフロー収益と、統合業務管理型のストック収益の両輪が進めば、経営の安定性と収益性は劇的に向上するだろう。
「私たちは今、日本の中小企業を中心とした国内市場にテクノロジーの追い風を吹かせ、日本経済の底上げを担うインフラ企業になろうとしています。目先の株価変動のみならず、中長期的な視点でこの変革を応援していただきたい。私たちは必ず期待に応えます」
ファインズは今、第2の創業期にある。経営改革を経て、筋肉質な組織へと生まれ変わりつつある同社の反転攻勢に期待したい。



