
それぞれの学校に最適化された、“思い通り”のシステムを形にする。「先生方の負担を減らしたい」という思いで、オーダーメイド型の校務支援システム開発を手がけるのが、システックITソリューション株式会社だ。
代表取締役の市 克吉氏は、工学の道からキャリアをスタートしながらも、教育への想いを持ち続け、母校の開発依頼をきっかけに文教システムの世界へと飛び込んだ。以来25年にわたり、私立高校を中心に、現場の声に応える柔軟で使いやすい校務支援システムを提供してきた。
学校の要望に寄り添い、カスタマイズを重ねて創り上げられるシステムは、「かゆいところに手が届く」と高い評価を集めている。「打てば響くシステム創り」というモットーに基づくシステム開発の秘訣や、事業に込められた想いに迫った。
「思い通り」のシステム創りの秘訣
業務効率化や生産性向上が叫ばれる今、あらゆる業界でシステムやテクノロジーの活用が求められている。そんな中、学校向けに校務支援システムを提供しているのがシステックITソリューション株式会社(以下、システック)だ。
同社は、私立を中心とした高等学校・中高一貫校の教務・校務支援システム「Major School System(メジャー・スクール・システム)」を提供し、成績管理や出欠管理、入試管理、進路管理などの学校業務を幅広く支援している。
このシステムは、学校関係者の約9割から「導入したい」と評価を受けている。その大きな理由の一つが、オーダーメイドのシステム創りだ。学校それぞれの「こういうシステムにしたい」という要望に柔軟に応え、パッケージをカスタマイズし、無駄がなく使いやすいシステムを開発している。
「私立の学校は独自の運用や仕様があることが多く、この仕事を25年していても聞いたことがないような仕様が未だに出てきます。例えば、成績処理一つを取っても、テストの結果がそのまま成績になる学校もあれば、平常点などの要素も含めて成績をつける学校もあります。そういった独自の仕様や運用スタイルが色濃く出るので、パッケージをそのまま入れて使った学校は今まで一校もありません」(市氏)

同社のようなオーダーメイドのシステム開発をしている会社は珍しい。というのも、市場を大きくするために数を売ろうとすると、個別対応が難しくなるからだ。そのため、大手などのシステム会社は、網羅的に対応できてカスタマイズ不要な多機能のパッケージを開発していることがほとんどだ。
ところが、それを使う先生方からすると、不要なメニューもあるためにどれを使っていいかが分かりづらく、使いこなすのが難しい。また、機能が多いために設定や項目も複雑になり、年度替わりの処理に数か月かけている学校もあるという。先生を楽にするためのシステムなはずなのに、逆に負荷がかかってしまうことになりかねないのだ。
対して、システックの考え方は逆だ。パッケージは必要最低限の機能にとどめ、学校にヒアリングして、足りない機能は付け足す。仕様的に合っていない部分は詳細を聞いて、チューニングしていく。場合によっては、ユーザーインターフェース(UI)まで踏み込み、従来の入力仕様に合わせることもあるという。そうして創られたシステムは無駄のないメニュー構成となり、学校のイメージに限りなく近い機能と動きを実装したものになる。そして、システムが本番稼働した時点からスムーズに使い始められ、マニュアルがほとんど必要ないほど直感的に使いこなせるシステムとなっているのだ。
そんな「思い通り」のシステム創りができる秘訣は、開発方法にある。超高速開発ツール「Magic xpa」による生産性の高い開発と、納品を概ね3度に分けて行う「プロトタイプ開発(アジャイル開発)」をしている。
「最初のヒアリングだけでは、要望に100%沿ったシステムはできません。良くても8割程度で、見えない2割の要望をどう引き出してシステムに実装するかがポイントです。そのために弊社では、ある程度創った段階で学校に持ち込み、先生の前で運用と照らし合わせて操作しながら確認を取っていくんです。すると、機能の漏れや仕様の食い違いが見つかったり、最初のヒアリングでは出てこなかった話が出てきたりします。そう言った部分を拾ってシステムに実装し、また見ていただく。そうやって段階的にシステムを完成形に近づけるシステム構築を行っています」(市氏)
さらに、ヒアリング後に提示する導入費用はシステムの納品が終わるまで機能的な追加があっても別途料金を必要としない。学校に寄り添いながら、共に唯一無二のシステムを創り上げる。そんな姿勢こそ、「かゆいところに手が届くシステム」「使い勝手の良いシステム」として、導入校から非常に高く評価される所以だ。
挫折を経て形作られてきた、システック
市氏が今こうして教育に関わる文教事業を行うようになった原点は、中学生にさかのぼる。中学2年生の頃に放送されていた『3年B組金八先生』シリーズや、当時担任だった恩師の影響を受け、学校の先生になるという夢も抱くようになった。結局、工学系の大学に進学し先生にはならなかったものの、「心のどこかで、教育への思いがずっと自分の中にあったんだと思います」と市氏は話す。
それからは技術屋としてのキャリアを歩んでいた市氏。そんな中、2000年に自身の母校からの開発依頼を受け、校務支援システムの開発をすることとなる。それをきっかけに、システムをパッケージ化し、自ら営業から開発、納品、アフターフォローまでしながら公立高校向けに販売を始めたのだ。
しかし、最初は実績も少なく思うようにはいかなかった。その中で最初に火が付いたのが和歌山県だったという。「当時のことを今でも鮮明に覚えています」と市氏は振り返る。
「和歌山で営業した学校に採用していただき、運用を始めた時にものすごく喜んでくださって。その後、『和歌山の別の学校でも引き合いが出た』とその学校の先生に話をすると、わざわざ休みを取ってまでプレゼンに同行してくださったんですよ。そして、プレゼンの前座で採用までの経緯を説明してくださって、その後に私がプレゼンして、無事に採用された。そういう学校が続々と出てきたんです。
公立高校の先生は異動があるので、良いものは自分が今後行くことになるかもしれない他の学校にも入れてほしいという思いがあったようで、一生懸命動いてくれたんですよ。喜ばれるシステムを創ると、相手も動いてくださるのが伝わってきて、ものすごく嬉しかったです」(市氏)

そうして各地へと少しずつ広まっていったが、大きな挫折に直面する。2009年のスクール・ニューディール政策によって教員にPCを貸与する大型予算がついたことで、教育委員会主導で校務システムを作る話が出たのだ。導入校の先生方からの要望もあり、和歌山県で地元業者と共に応札に向けて準備を進めていた。
しかし、大手企業の参入により、応札すらできない状況に追い込まれたのだ。全国各地でその動きがあったため、他の地域でも同様の状況となってしまった。「オセロのように一気にひっくり返されて、『勝ち目もないし、もう終わりだ』と2週間ほど仕事ができなかったです」と、当時のことを語る。
絶望に打ちひしがれていた中、ふと「私立の学校はどうなんだろう」という考えがよぎった。そこで試しに営業してみると、偶然にも乗り換え検討中の学校に当たり、ほぼ即決で採用が決まった。そして開発、導入を進める中で「私立は独自の仕組みや要望も多く、弊社のシステムと相性がいいのではないか」と気が付いたのだ。
それから私立高校にシフトして営業を始めると、予想通り上手くマッチし、エリアをどんどん広げられるようになっていった。そしてシステックのシステムは「どこよりも柔軟に、どこよりも低価格で、どこにも負けないシステム創り」が謳い文句となっていったのだ。
先生の負担を少しでも減らせるように。事業を通じた思いと気づき
——教師とは別の立場で学校や教育と関わる中で、課題に感じていることはありますか?
学校の先生は忙しいイメージがあると思いますが、いろいろな学校を回るほど、想像以上に深刻な状態だと分かったんです。その原因の一つが、事務工数の多さにあります。情報が一元化されていないために、同じ情報を二度、三度と入力しているなど、削減できる事務工数がまだまだあります。
このままでは、生徒の個別指導に充てられるはずの時間も作業に取られてしまう。教育界が発展するには、先生方の事務工数を減らさなければならないと感じています。その手段の一つとして、弊社の事業を通じて事務工数を削減し、先生方の負担を少しでも減らすことができたらと思っています。
また、校務支援システム導入済みの学校に弊社でアンケート調査を実施したところ、「現状使っている校務システムに何らかの問題点・課題点を感じているか?」という質問に対し、半数以上が「はい」と回答しているんです。そして、そのうち約90%の方が使いづらさを課題として感じていました。さらに、「良い校務システムがあれば乗り換え検討したいと思いますか?」には、導入済みにもかかわらず、全体の半数以上が乗り換え検討に前向きと回答しています。(※)
その中で、乗り換えの際に重視する点においては「学校の仕様に合わせて構築できるか」がダントツに多い回答だったのです。システム導入や活用において多くの学校が抱える課題を、弊社の強みによって解決できると確信しています。認知度向上に努めていますが、まだ弊社のシステムを知らない先生方も多いので、まずは認知度を上げて検討の土俵に上がらなければならないと考えています。
※システックITソリューション株式会社「教職員の約70%がオーダーメイドの校務システム導入に関心あり」【校務システムの現状認識・課題調査レポート】(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000140901.html)

——どんな時に働きがいを感じますか?
事業において絶えずエンドユーザーの声を拾う中で、働きがいや喜びを感じています。例えば、システムを一緒に創りながら、先生方の期待値が上がっていくことを感じられるのはとても嬉しい瞬間です。最初にプレゼンを聞いて「いいシステムになりそう」と思っていても、本当にそうなるか先生方は不安を抱いています。しかし、分割納品によって徐々に完成に近づく様子を直に見ていただく中で、不安が払しょくされていることが感じられ、やりがいを感じます。
また、本番稼働が始まって安定してくると、「こんなに便利になった」「やりたいことができるようになった」という声があちらこちらから聞こえてきます。そうして喜ばれるシステムを提供できていることが伝わってくるのも嬉しいですね。それは社員も同じで、自分が創ったシステムが評価されることは、「次も頑張ろう」というモチベーションにつながっています。
——事業を通じて変化したことはありますか?
学校との関係性が変わってきたことを感じています。それを特に感じるのが甲子園(高校野球)です。以前は、私が生まれ育った岡山県の学校が甲子園に出場すると、自分とは関係のない学校でも応援していました。家族もそうでしたし、そういう感覚は全国的にあるのではないかとも思います。
ただ、この事業を始めて導入校が増える中で、甲子園に出場する学校が出てくるようになって。そうすると、岡山ではなく弊社のシステムを導入している学校を自然と応援するようになったんですよ。やっぱり、弊社のシステムを導入してくださった学校にはどんどん発展・活躍してほしいですから、応援したくなるんですよね。
甲子園出場が決まれば寄付を行い、優勝した学校には練習球を数ダースでプレゼントしたこともあります。2025年の夏の甲子園では導入校同士が初戦から激突して、社内で応援合戦で盛り上がりました。いずれは「高校野球ベスト4すべて導入校」が夢です。
沢山の学校で、長く使ってもらえるシステムを目指して
——御社は「打てば響くシステム創り」をモットーにしていますが、御社でいう「打てば響く」とは?
開発段階から本番稼働後のアフターフォローまで伴走し、何かあれば迅速かつ柔軟に対応することを「打てば響くシステム創り」と表現しています。
システムを創る段階においては、学校の要望にきめ細かく対応する。しかし、ただ言われたことだけを実現するのではなく、実績や他校の事例も踏まえて提案をしながら、「そこまでしてもらっていいんですか?」と言われるくらいまで伴走しながら、要望を形にします。そうして、本当に喜ばれるシステムを創り上げていく。そして運用に入ってからは、システムトラブルや操作で分からない時や、アプリケーションの改修が必要な際には素早く対応する。これが、弊社の「打てば響く」のあり方です。
——展望を教えてください。
現在、全国で約1,300校ある私立高校のうち、今後5年以内に全体の1割である130校への導入を目指しています。そして、「このシステムをずっと使っていきたい」と思っていただける学校を少しずつ増やしていきたいです。
また、現在は昔と比べてシステムの範囲が広がっています。以前は成績管理だけでよかったところに授業毎の出欠・進路・入試・保健管理なども加わり、さらに先生方の情報共有ツールであるグループウェアも作るようになりました。さらには保護者との連携もコロナをきっかけに加速し、欠席連絡や学校からのお知らせ、配布物、アンケートなど、使い方が広がっています。将来的には通知表などもオンライン配信されると思いますし、そういうDXの波は今後さらに広がっていくでしょうから、弊社も対応をどんどん進めていきたいと考えています。
加えて、これまでは全日制を中心としていましたが、通信制へも展開していきたいです。全日制とは仕組みが全く異なりますが、年々増えている通信制の学校の先生方にも使っていただけるよう、数年以内にパッケージをリリースしたいと考えています。もちろん、フルカスタマイズ型として。

◎企業情報
会社名:システックITソリューション株式会社
代表者 :市 克吉
業種:システム開発
設立:2015年
資本金:500万円
従業員数:10名
所在地:〒708-0824 岡山県津山市沼6-8
URL:https://www.systech-its.co.jp
◎インタビュイー
システックITソリューション株式会社
代表取締役 市 克吉



