
心身の不調にさまざまな効果をもたらしてくれる鍼灸。美容にも効果があるとされ、今や幅広い層の人から親しまれている施術だ。鍼灸院の数はコンビニよりも多く、鍼灸師は13万人にものぼるという。
そんな鍼灸の業界で日本一を目指すのが、株式会社Transparence(以下、トランスパレンス)だ。鍼灸業界における変革を志し、日本の外へも目を向けながら、次々と大きな挑戦をしている。
同社の挑戦と未来へのビジョンとは。代表取締役の岩田 真人氏に伺った。
エビデンスのある鍼で変革への挑戦
石川県を拠点とするトランスパレンスは、鍼灸マッサージに特化して医療機器製造販売や鍼灸マッサージ業を行う会社だ。最初は特に鍼灸に思い入れがなかったという岩田氏だが、鍼灸の力に魅せられ、今や事業の軸となっている。そして「鍼灸業界の変革者でありたい」という志を持ち、様々な挑戦を続けている。
2007年に設立した同社は、既に「革命的」ともいえる実績を上げてきた。そのひとつが、スキンケア医療機器「ダーマローラーHC902」の日本初上陸だ。ダーマローラーHC902はドイツのDermaroller GmbHが開発した製品で、0.08mmの細さで0.2~0.3mmの長さの針が162本ついている。それを肌の上で転がして微細な傷をつけることで、コラーゲンを誘発して肌がきれいになるほか、美容成分の浸透率を1,000%にまで引き上げる効果がある。
このダーマローラーはワクチンを皮膚に浸透させるための療法のひとつとして開発されている。科学的なエビデンスに基づいて開発されている点は、鍼灸と同じ“針”でも大きな魅力だ。
「鍼灸は施術者自身にはエビデンスがあるかもしれないですが、鍼を打つスピードや角度、打つ場所の1mmの違い…そういう感覚的なものによって、施術者ごとにやり方も効果も異なります。臨床的なエビデンスは取れても科学的に取ることが難しいので、『この先生が施術すると治るけど、あの先生が同じことをしても治らない』なんてこともあるんですよ。
一方、西洋医学ではエビデンスが重んじられる風潮があります。特にDermaroller GmbHはもともと学術的な研究開発をしていた会社ですから、ダーマローラーで肌がきれいになることを科学的に証明しているのです。その効果は誰にも否定できないですし、効果を得られるという意味ではこれに勝る鍼はないと思います」(岩田社長)

そんなダーマローラーだが、これまで日本には正規代理店がなかった。いくつもの会社が輸入しようとしたが、医療機器として薬機法を通すことが難しかったのだ。また、医師による個人輸入はできても、それでは責任が取れず、データも取れないためにどれだけ普及しているかもわからない。Dermaroller GmbHとしても、国からのお墨付きを得ないと日本での販売には前向きになれなかったのだろう。
ダーマローラーの効果は海外では知られ始めている中、日本ではほとんど知られていなかった。そこで発生したのが、模倣品の蔓延だ。
「根本的な構造が異なり、全く効果のない偽物がはびこっており、ダーマローラーには効果はないとまで言われていました。いろいろな人に、ダーマローラーは素晴らしいものだと知ってほしい。何としてもこれを日本に持ってきたいと思いました」(岩田社長)
しかし、なぜトランスパレンスはダーマローラーを日本に持ち込むことができたのだろうか。そこに大きく関係しているのがまさに「鍼」なのだ。同社はダーマローラーを「鍼」として、美容機器ではなく医療機器で申請することで、それまで誰もできなかった薬機法を通したのである。それにより、ダーマローラーの日本総代理店として販売ができるようになった。
さらに、医療機器の中でもリスクが比較的低いとみなされる一般医療機器クラス1を取得したため、クリニックだけでなく鍼灸師でも、そして自宅でのセルフケアでも使用することができるようになった。エビデンスをもとに誰でも同じ効果を得られるようにする西洋医学の強みと、東洋医療の鍼灸の力の融合を日本で実現したことは、トランスパレンスによる変革だ。
鍼灸事業の軌跡と現在地
岩田氏は国立石川工業高等専門学校を卒業後、地元で機械系の検査エンジニアに就いた。その後、一念発起して29歳で起業。訪問マッサージの事業からスタートした中で、鍼灸に出会うこととなった。最初は「おじいちゃんおばあちゃんがする療法かな」くらいにしか知らなかったが、なんとなく興味が湧いて深掘りする中で、これを事業にしたいと考えるようになったという。
「当時、鍼灸業界で何か大きなことを成し遂げようとしている人があまりいない印象でした。東洋医療の世界には職人のような方が多く、『変革したい』といった志を抱いている人が少なかったのだと思います。この業界なら僕でも何か変革を起こせるかもしれないと感じました。
また、僕の大好きな格言に『古くして古きもの滅び 新しくして新しきものまた滅ぶ 古くして新しきもののみ永遠にして不滅なり』というものがあります。古いものを99%残して、1%だけを新しいものに変えると、長く繁栄すると。鍼灸には4,000年もの歴史があります。鍼(はり)と艾(もぐさ)で治療するなんて占いのようにも見えるかもしれませんが、もしそうだとすれば4,000年の時代の淘汰には耐えられないでしょう。これだけ古くて、今まで残り続けているものは他にない。まさにこれだと思いました」(岩田社長)
そうして希望を感じた岩田氏は鍼灸の事業をスタート。簡単にはうまくいかなかったが、とある2つのターニングポイントがあったという。1つ目が、鍼灸学博士の参画だ。鍼灸を学問として修め、博士号を取った先生が携わることで、学問的なエビデンスに基づいた事業ができるようになったのだ。
そして、2つ目のターニングポイントが、アメリカ軍で治療に使われている「ASPニードル」との出会いだ。戦場鍼(Battlefield Acupuncture)といわれる特殊な治療で、耳にある5つのツボにASPニードルを数日間刺したままにすることで効果を発揮する。

戦場で何かあった時にすぐに使えるように耳のツボを使い、ニードルは誰が打っても同じ効果が得られるような作りになっている。それでいて、エビデンスもある。これに大きな魅力を感じた岩田氏は、開発元であるフランスのSedatelec社にアプローチした。最初は「鍼灸院には卸せない」と言われたものの、日本国内のディーラーと資本提携。交渉の場に立つことができ、独占権をもらうことが叶った。しかし、販売の準備を進めようとしたところ、薬機法が通らなかった。
そんな時にコロナ禍が訪れる。当時主力だったマッサージ業は施術が難しくなり、会社の売上はガタ落ち。ASPニードルも認可が得られない。他に何かないかと打開策を探していた。そんな時、肌に針で細かい穴をあけて自然治癒力を高める施術「ダーマローラー」や「ダーマペン」が、マスク生活が始まるのと同時に流行ったのだ。
「妻が『今流行ってるダーマローラーやダーマペンって針だよね』と何の気なしに言ったのです。針なら得意分野じゃないですか。これはチャンスかもしれないと思い、調べてたどり着いたのがマイクロニードリングのパイオニア Dramaroller GmbHのダーマローラーでした」(岩田社長)
可能性を感じた岩田氏はダーマローラー社に何度もアプローチしたが、なかなか取り合ってもらえない。そこで転機となったのが、偶然にもその当時ドイツで鍼灸を広めようと奮闘していたドイツ在住の某有名大学の名誉教授とドイツ人のご夫妻だった。話を繋げてもらったところ、ダーマローラー社から前向きな返答が。すぐに現地に駆けつけ、「鍼として薬機法を通す」と話したところ理解が得られ、総合代理店として販売許可をもらえることになった。
その後、無事に国からの認可を得て2023年に販売を開始。既に模倣品が広まっていたために最初は苦戦したが、正規品を知っている人から徐々に広まり始め、2024年の「通販版 令和の虎」の出演からさらに広まっているという。
そして、長らく認可を得られなかったASPニードルは、唯一可能性が残っていた高度な金属であるチタニウムでようやく薬機法を通すことができた。4年以上かけて、2025年の1月に日本初上陸が実現し、販売を開始した。
マッサージ業から始まり、ディーラー、メーカーとして進化してきたトランスパレンス。今まさに販路を拡大し、成長を続けている最中だ。
「古くて新しい」を世界中から日本へ
ー「鍼灸業界の変革者でありたい」とお話しされていましたが、変革へ強い思いを抱くようになった原体験は何だったのでしょうか?
昔からずっと、僕の人生のテーマは「変革」なんですよね。中学の卒業文集に「夢は幕府を開くこと」なんて書いていたくらいで。思い返すと、小学生の頃に鎌倉幕府の話を「めちゃくちゃかっこいい!」と感じたことを覚えています。それまで貴族を守っていた武士たちが政権を取った、つまり社会が転換することとなった革命じゃないですか。すごくワクワクしましたし、僕もそういうゲームチェンジャーになりたいと思いました。
今、僕の中での「変革」の定義は、古き良きものを保存しつつ、少し新しいエッセンスを入れてさらに良くしていくこと。やっぱり「古くて新しいもの」にエクスタシーを感じますね。まだ日本に入ってきていないものを見た時や、それを実際に日本に持ってきて、使われている時が一番楽しいです。

ー鍼灸業界を変革するために、どのようなビジョンを描いていますか?
世界でたくさんのものを見て新しいものを見つけ、日本に持ってくるのが当社の使命だと考えています。業界で誰も知らない、あるいは誰も日本に持ってこられないものを持ち込むのは私たちにしかできないことだと思います。そのための人員を集め、組織やネットワークも作り上げてきました。
昨今の物価上昇や人件費高騰で鍼灸業界も厳しい状況にあります。それをなんとかするためには、やはり「古くて新しいもの」が必要だと思います。世界を見ると、それを実現している技術や機関がたくさんあるのです。ダーマローラーやASPニードルもそうですし、最近は東洋医療の本家本元の中国が健康産業に力を入れていて、AIを活用した鍼灸の技術も出てきています。また、国や地域によって全く異なる施術方法もあります。
でも、そういうものが日本ではまだ知られていません。それを日本に持ち帰り、日本の鍼灸師が使えるようになったらもっと良くなるんじゃないかと思うんです。世界中から持ってきたものを鍼灸師に使ってもらい、その中からヒントを得て、日本人の技術や品格と合わさり、メイドインジャパンが生まれてくる。そんなことが実現できたらいいなと思っています。
鍼灸を残し続ける。変革者の視点
変革に向けて、グローバルな視点で挑戦を続けるトランスパレンス。最後に、変革を続ける先にある未来への思いを伺った。
「99%は鍼灸を残しながら、1%だけ変えていく。これをひたすらやり続ければ、鍼灸は永遠不滅だと思います。僕が引退しても、この会社が形を変えても、鍼灸が残り続け、新しいものが入ってくる。そんな文化ができたらいいなと思っています」(岩田社長)
◎プロフィール
岩田 真人
株式会社Transparence 代表
◎会社概要
会社名:株式会社Transparence
住所:〒929-0113 石川県能美市大成町リ84 TPビル2F
URL:https://transparence.jp/
資本金:1,000万円
設立:2007年10月