就活はひとりでやるから難しい——。それなら一緒に「やりたいこと探し」からじっくり取り組んでいかないか——。
そんな体当たりの伴走をしてくれるのがボーダレスキャリア株式会社です。
人材紹介といえば、企業に人材を紹介し、入社した後は求職者との繋がりはなくなってしまいがち。しかし、代表取締役社長の髙橋大和さん率いるボーダレスキャリアのメンバーは、求職者が「自信を持って」就職先で活躍できるよう、入社後もきめ細やかなサポートを続けています。
ビジネス的には非効率にも思える、就業後のサポート。しかし、この非効率さがあるからこそ生み出せる「若者も大人も成長し続けられるネットワーク」がありました。
キーワードは「自己肯定感」 お試し就職でお互いが適性を判断できる「ステップ就職」
ボーダレスキャリア株式会社(以下、ボーダレスキャリア)は、若者向けの就職と定着のサポート事業を展開しています。なかでも「本就職前のインターン(お試し就職)期間」が特徴的だと感じたのですが、入社前にこのような期間を設けた理由を教えてください。
高橋
小さな成功体験の積み重ねが「自己肯定感」を持つために重要だと考えているからです。
ボーダレスキャリアは「いかなる境遇でも誰もが働きやすい社会をつくる」をミッションに、若者の中でも就職に限らずあらゆる場面で一歩踏み出す勇気がなかなか持てずにいるような人に向けて、「ステップ就職」というサービスを運営しています。
このサービスを利用するのは、これまでの人生で成功体験が少なく、自分に自信がない人がほとんどです。その若者たちに自己肯定感を持ってもらうためには、段階的な成功体験を積み重ねる必要があると思い、入社前のお試し期間を設けました。
さらには、その前段階として「会社見学」や短期の「職場体験」も実施しています。
そしてもう一つ大切なポイントが「いい大人」の存在です。
高橋
ボーダレスキャリアでは「その人の人生や将来を真剣に考え、向き合う姿勢を持った人」を「いい大人」と定義しています。
僕自身そういう大人と出会ってきたことで、自分の人生や価値観が変わってきました。
この事業も、創業時から応援してくださった企業の皆さんとの出会いがあったからこそ今まで続けられてきていますし、僕自身の考えが改められることも少なくありません。
この「いい大人との出会い」と「段階的な成功体験」が揃うことで、自己肯定感、大きく言えばその人の人生を変えるようなことが起こせるのではないかと思い、サービスを届け続けています。
分割払い制度もスタート!? 紹介料を業界水準より低めに設定している理由
現在(2021年7月末)までに就職した人の数や、エントリーの総数はどれくらいなのでしょうか?
高橋
現在までに90人以上の若者がお試し期間を経て正社員になっています。
新規のエントリーや相談も、毎月100人くらいからお問い合わせをいただいていますね。
高橋
男女比で見ると、女性が6割。年齢は10~20代が8割を占めています。
学歴で見ると中卒が3割、高卒が4割、大卒・院卒が2~3割くらいの比率です。
高橋
業種、職種も幅広くご用意しています。
実際に就職した人が多いのは、ものづくりやITエンジニア、それから介護職ですね。
そしてどの企業さんも、未経験からの挑戦をOKとしてくれているところばかりです。
企業側からみたメリットを詳しく教えていただけますか?
高橋
一番は若い人材を採用できる点ですね。求人募集をしてもそもそも応募がこない。
若い人になると尚更こないよという悩みを抱えた中小企業って実は多いんですよ。
会社も働いている人たちも素敵なのに、その魅力が伝わっていない。
そういう企業からはとても好評ですね。
また、中小企業の方がより利用しやすくなればいいなという想いから、手数料を分割で支払える仕組みも作りました。
分割型の場合、まずは弊社が紹介した若者をアルバイトで1カ月雇っていただき適性を判断します。
双方同意の上で本採用になったあとは、1カ月ごとに1年間かけて分割でお支払いいただけるようにしました。こうすることで、紹介料のように数十万を一括で支払うのが難しいという企業もサービスを利用できるようになったんです。
さらに紹介した人が本採用後の支払い対象期間に辞めた場合、そこで支払いをストップしてもいい仕組みをとっています。実際に分割型をスタートさせてから、お試し採用を積極的に取り入れてくれる企業がとても増えましたね。
若者を変えるために必要な企業の価値観の変容
社会経験の乏しい若者の中には、働いてみてすぐに辞めてしまう人も多いと耳にします。そんな若者たちをどのような形でサポートしているのか教えてください。
高橋
僕らが若者と接する際の土台にあるのは、「最終的に選ぶ、決めるのは本人だから若者を決して子ども扱いはしない」という考え方です。
求職者には1人あたり約3~4社、会社見学や説明会の機会を設け、どんな仕事があるのか、どんな人が働いているのかを知ってもらうようにしています。その際どの企業に入社したいかを決断するのは、あくまで本人です。
また仕事を始めてみてどうしても合わなかったら、いつでも辞められるという仕組みをとっています。ただ、「辞めたい」という相談を受けたら必ず面談を実施しています。その時の状況を見極めた上で「本当に今辞めるべきなのか」と、目の前のその人と徹底的に向き合う時間をとっているんです。
他にも、本人と企業と我々で行う三者面談をはじめとする定着サポートを実施しています。このサポートで主に行うのは、期待値のすり合わせです。
この中でよくあるのが、本人は100%できていると思っていることに対して、実は企業側は70%という評価、判断をしている場合。自己評価と他者評価の差が積み重なっていくと、会社の中でのコミュニケーションに軋轢が生まれる要因となる場合もありますよね。
定着サポートは、この差を互いに認識しすり合わせる時間となっています。
そこまで伴走を徹底しているんですね。ただそうなると、企業の理解も重要になってくるのではないでしょうか。
高橋
おっしゃる通りです。
僕らが伴走に力を入れる理由には、企業の価値観も変えていきたいという想いも含まれています。
自己肯定感が低い若者の離職率が高いという問題の解決方法として今のところ、若者に変わることを求める側面が強いですよね。しかし、これだけでは限界があります。
企業側、つまりは社会側も考え方を変えていくことが必要になってきていると僕は感じています。
そのためボーダレスキャリアでは、行動心理学や脳科学を踏まえてつくった社内コミュニケーションの資料や、自己肯定感が持てるようになるまでの精神的なステップについて解説した資料を企業にお渡ししているんです。
たとえば、人間関係が構築されていない初期段階ではコミュニケーションの質より量が大切だと言われています。この時期のコミュニケーションは、ガッツリ面談よりも1日1~2分の「今日はどんなことをしたの」といった交流、会話の頻度をあげることが重要、といったことなど、ノウハウのメソッド化に取り組んでいます。
就職が決まった本人と綿密に連絡を取り合うことも欠かせません。本人と企業の間で何か問題が発生したら、まずはその本人と話をして、企業にはその人の会社での状況を報告しつつ、どういうフォローが今は適しているかといった話をさせてもらうこともあります。
入社した若者を段階的に育てていくという考え方をより多くの企業に広められれば、今よりもっと働ける人は増えて、受け入れた企業もいい会社になっていく——。そんな循環が生まれるのではないかと思っています。
気づけば大人も成長している共成型就労サポートネットワーク
ボーダレスキャリアは、誰もが自分の仕事にやりがいを持って働ける社会づくりのために企業、大人側にも変革を求める、これまでの人材紹介会社にはない新しいサービスを提供しているという印象を受けています。これから先、思い描く会社や社会の姿についても伺えますか?
高橋
いい大人、いい企業が集まったネットワークをつくり、いつどこで若者が入ってきても「出会う人すべてがいい人で、いい会社しかない」「この輪に入れば、誰であっても成長していける」という状況をつくっていきたいです。
その一環として、2020年から「ステップアカデミー」という取り組みも始めました。ExcelやWEBデザイン、英会話などさまざまなスキルが身につけられるオンライン講座を100以上実施しています。仕事を探している若者たちは、普通なら数十万円かかりそうな講座を、数千円という低価格で受講できるんです。(無料の講座もあり)
この取り組みの最大の特徴は、講師のほとんどがプロ講師ではない点。普段は会社勤めをされている方などが、「次の世代の背中を押すために、自分にも何かできることはないか」と自身の経験を活かし、ほぼボランティアといっても過言ではない報酬で講師を引き受けてくれています。
ステップアカデミーはどれくらいの頻度で開催されているのでしょうか?
高橋
本人と講師のスケジュールが合い次第の開催となっています。
実務的なスキルだけでなく、自己分析や面接対策、それから雑談のような相談など多岐に渡る講座を用意していますよ。
本当に「いい大人」が集うコミュニティ、ネットワークなんですね。
高橋
このネットワークが広まれば、全国にいる自己肯定感の低さから一歩を踏み出すことに不安を抱えている若者たちにも利用してもらえると思っています。またこのネットワークに参加した大人もきっと、成長できるはずです。
「今後の成長に理解のある会社、個人だけを集めたネットワーク内で段階的に成功体験を積むことができる共成型就労サポート」をソーシャルコンセプトに、「次の世代を応援するために自分にできることは何かを考える人たちが集まるネットワーク」をもっと大きくしていきたいですね。
ボーダレスキャリア株式会社のステークホルダーとの向き合い方
若者も大人も、かかわる人すべてが成長できるネットワークを生み出すために日々奔走している、ボーダレスキャリア。その活動の源には、創業初期から深くかかわっている企業の存在がありました。
株式会社 KSP(以下、KSP)の大垣さんは、就職した若者に対してとにかく親身になってサポートしてくれる方です。
実はボーダレスキャリア経由で入社した人が、途中で出勤できなくなったことがありました。KSPさんは警備会社です。従業員も非常に多いため、一人ひとりと向き合うとなると大変でしょう。しかし大垣さんは、その若者の家を何度も訪問して声をかけるなど、本当に丁寧に向き合ってくださいました。どうしてこんなにも真摯に向き合ってくれるのかを尋ねたところ、「うちの社員だから、それくらいするのは当たり前でしょう」と。本当に心強い方です。
僕は大垣さんの、人をフラットに見られるところを尊敬しています。出身や年齢といったバイアスをかけずに相手と向き合う大垣さんに、若者たちの就職をサポートする僕らが「こんな素敵な大人がいるんだ」と救われてきました。
とにかく人に対して熱い大垣さんが、社員さんたちとの関係性をつくりあげていく上で大切にされていることや一人ひとりとの向き合う姿勢から、私たちも学ばせていただいてます。
株式会社 S-TEKT(エステクト) 清水孝弘さん
ボーダレスキャリアが事業を始めて間もないころから、自社で若者を採用してくれたことはもちろん、多くの企業を紹介してくれたのが、株式会社 S-TEKT(以下、エステクト)の清水さんです。
エステクトさんとの出会いは、創業前に参加した、児童養護施設の当事者の方が開催したイベントでした。事業が成り立つのか不安で仕方なかった時期でしたが、そこで「応援するよ」とボーダレスキャリアのビジョンに共感してくださったこと、そして事業を始めたらすぐに声をかけてくれたことは忘れません。「こんな人と事業を大きくしていきたい」と思わせてくれた方です。
ボーダレスキャリアの髙橋さんの言葉には、「創業初期から応援してくださるこの2社との出会いがなければここまで事業を続けてこられなかった」という想いがあふれていました。
「事業を成長させていく過程において、順調にいかないことも数多く存在します。そんな逆境においても今回挙げた2社は、若者とボーダレスキャリアに真剣に向き合い続けてくれた会社です。そんな皆さんの姿を見てボーダレスキャリアはまだまだだと学ばせてもらっていますし、なにより『こんな素敵な大人がいる』という事実に勇気をもらっています」
「僕らには、かわいそうという同情に繋がる『受け入れる』という言葉を使わないという意志があります。同情で採用して欲しいとも思わないし、それでは定着しない。結果、本人も企業も不幸になります。ただ創業したばかりの頃は、この意志を貫き通す中で、自己肯定感の低さから働くことに不安を抱えている若者の就労を応援してくれる『いい大人』は本当にいるのか、不安になることもありました。そんな時に『君たちがやろうとしていることは間違っていない』『一緒にやろう』という言葉に励まされ、ここまで続けてこられました。また僕らの事業や活動を他の企業への紹介などで広げてくれたのも、KSPさん、エステクトさんです。僕らが人間として成長する機会を与え続けてくださっている存在なのです」
◎プロフィール
髙橋 大和
ボーダレスキャリア株式会社代表取締役社長
1981年生まれ。長崎県出身。コナミスポーツ&ライフ(現:株式会社コナミスポーツクラブ)退社後の2012年に、高校の同級生繋がりで株式会社ボーダレス・ジャパンへ入社。国際交流シェアハウス事業「ボーダレスハウス株式会社」の新規物件開発担当を経験したのち、2014年にバングラデシュの雇用創出を目的とした革製品OEM事業の事業部長を担う。2017年5月からは「ボーダレスキャリア株式会社」を立ち上げ、不遇な過去や家庭環境によりなかなか就職できずに悩んでいる若者の就労支援事業「ステップ就職」をスタートさせる。信念は「人の力で人は変えられる」。
◎企業概要
ボーダレスキャリア株式会社
住所:〒162-0843 東京都新宿区市谷田町2-17 八重洲市谷ビル6F
TEL : 03-5227-8890
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