改正風営法を受け、ホスト業界が自主規制へ

2025年10月5日、一般社団法人日本ホストクラブ健全化推進協議会(JHCA)は、改正風営法の施行に伴い、業界として新たな自主規制を制定したと発表した。対象はホストの個人ランキング発表や売上金額を用いた広告・宣伝行為で、これらを全面的に禁止する。業界の倫理水準を高め、健全化を加速させる狙いだ。
JHCAは、2024年6月にホストクラブ業界の経営者らが中心となって設立された新団体で、歌舞伎町をはじめとする全国の有力16グループ、計164店舗が加盟している。グループダンディや冬月グループ、エアーグループなど、一般にも知られる大手グループが参加している。
女性客に過剰な売掛金(ツケ)を負わせるなどのトラブルが社会問題化したことを受け、行政や警察庁との協議を経て発足した。
SNS営業も規制対象に 改正法の焦点は「店外行為」
今回の改正風営法では、夜間営業の規制強化とともに、SNSなどオンライン上での宣伝や勧誘行為も新たに規制対象に加えられた。特に「風俗営業等の業務に関連する広告表示」に関する条文が見直され、従来の店外呼び込みに加えて、X(旧Twitter)やInstagramなどを利用した間接的な営業行為も罰則の対象となる。
行政関係者によると、「SNS上の“売上自慢”や“煽り投稿”が若年層の消費トラブルを助長していた」との指摘があった。改正は実質的にホスト・キャバクラ業界への監督強化を意味し、JHCAによる今回の自主規制は法改正を先取りするかたちで業界内のルールを整備するものといえる。
「稼げればいい」からの脱却 売掛問題が転機に
ホスト業界を取り巻く問題は、ここ数年で顕在化していた。SNS上での人気競争が過熱し、顧客に高額なボトル注文を促す構造が常態化。支払い能力を超える金額をツケにした結果、女性客が多額の借金を背負うケースも相次いだ。
昨年末には、歌舞伎町の有名店舗で「1晩で数百万円の請求を受けた」とする被害報道が拡散。ホスト業界全体が“ブラック化”しているとの批判がSNS上で高まり、行政の監視が強化される契機となった。JHCAの理事たちは当時を振り返り、「稼げればいいという風潮が業界の信用を失わせた。従業員やその家族にまで心配をかけたことを反省している」と語っている。
こうした危機感から、JHCAは行政・警察・法務関係者と協議を重ね、風営法改正に合わせて「自主的な行動規範」を整備。業界の信頼回復に向けた第一歩と位置づけている。
ランキング制度と数値広告を全面禁止
新たな自主規制では、行政機関や有識者の意見を踏まえ、ホスト個人のプロフィールや役職を営業目的で利用することを原則禁止とした。役職を理由にした勧誘行為のほか、SNS上での過度な発信も制限される。
また、ランキング制度を廃止し、「月間売上ランキング」などの公開を禁止。ランキングを根拠とする営業行為も一切認めない方針を明確にした。さらに、売上金額や組数を誇示する広告、LEDビジョンやトラック広告など金銭的数値を直接強調する手法も禁止する。JHCAは声明で、「法令遵守と社会的責任の遂行を徹底し、持続可能なホストクラブ産業を築く」と強調した。
黒川弘務氏・神取忍氏も参画 “信頼回復”の象徴布陣
今回の体制の特徴は、外部顧問の顔ぶれにもある。JHCAの顧問には、元東京高等検察庁検事長の黒川弘務氏、女子プロレスラーで人権活動家としても知られる神取忍氏、さらに駐日スリランカ大使ロドニー・ペレーラ氏、駐日アゼルバイジャン大使イスマイルザーデ氏らが名を連ねる。
黒川氏は法務・コンプライアンス分野の監視役として、業界の法的枠組み整備に助言する立場にある。神取氏は「お客様保護観察部長」として、被害防止や啓発活動を担当。国際顧問としての大使らの参画も、業界の“クローズド”な印象を払拭し、透明性を高める狙いがある。政治・法務・文化の各界を巻き込んだ布陣は、業界再生に向けた象徴的な動きといえる。
JHCA理事長の北条雄一氏は、「これまでの事件で世間に迷惑をかけた。スタッフやその家族を心配させたことが何よりの反省。業界の信頼を取り戻すため、社会と連携しながら歩んでいく」と語る。
業界の「本気度」が問われる次の段階へ
現在、加盟店の多くは新宿・歌舞伎町だが、今後は大阪、名古屋、福岡など全国の主要都市へ活動を広げる計画だ。JHCA事務局は「まずは知名度を高め、全国のホストクラブが安心して働き、安心して遊べる環境を整えたい」としている。
SNS時代のホストは、もはや夜の接客業にとどまらない。個人が発信力を持ち、ファンを抱える「インフルエンサー」としての性格を帯びつつある。業界がその影響力と倫理観を両立させられるかどうかが、今後の信頼回復の鍵を握る。
一方で、加盟していない店舗も多く、実効性には課題も残る。行政との連携体制や監視メカニズムが整わなければ、抜け道が生じる懸念もある。業界関係者の間では、「本気で変わろうとしている店と、様子見の店の温度差が大きい」との声もある。JHCAは、「まずは自らを律する姿を示すことが社会的信頼の第一歩」としており、今後は各自治体との協定締結や業界ガイドラインの法的明文化も検討している。