
航空機内でのモバイルバッテリーによる発火事故が国内外で相次いでいることを受け、国土交通省は2026年4月にも、機内でのモバイルバッテリーの使用を全面的に禁止する方針を固めた。国際的な基準に合わせ、持ち込み個数の制限も厳格化される見通しだ。
相次ぐ「空の火災」を受け国交省がメス、航空法の告示改正へ
私たちの生活に欠かせないモバイルバッテリーが、空の安全を揺るがしている。国土交通省は18日までに、旅客機内でのモバイルバッテリーの使用および充電を禁止する方針を固めた。早ければ2026年4月にも航空法の告示を改正し、国内の航空会社へ導入を求めるようだ。
この背景にあるのは、機内での深刻な発火・発煙トラブルの急増がある。リチウムイオン電池を搭載したモバイルバッテリーを巡っては、2025年1月に韓国で、座席上の収納棚に入れていたバッテリーから火が出て機体が燃える事故が発生。日本国内の航空会社でも、飛行中の充電中に火や煙が出る事例が相次いで報告されており、一歩間違えれば大惨事につながりかねない状況が続いていた。
国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)が機内での使用禁止を推奨する方向で検討を進めており、日本政府もこの国際ルールに足並みを揃える形だ。
持ち込み制限も厳格化、電力量にかかわらず「1人2個まで」
今回のルール改正で影響を受けるのは「使用禁止」だけではない。
機内への持ち込み制限も、よりシンプルかつ厳格なものになる見通しだ。
従来の国内ルールでは、100ワット時以下のモバイルバッテリーであれば個数制限なく持ち込むことが可能だった。しかし、新たなルール案では、電力量の大きさにかかわらず、持ち込み個数を最大2個までに制限する方向で調整されている。
| 項目 | 現行ルール | 新ルール(案) |
| 機内での使用 | 可能(制限なし) | 禁止 |
| モバイルバッテリーへの充電 | 可能 | 禁止 |
| スマホへの給電 | 可能 | 事実上の禁止 |
| 持ち込み個数(100Wh以下) | 制限なし | 2個まで |
| 預け入れ荷物 | 厳禁(不可) | 引き続き厳禁 |
なぜモバイルバッテリーは燃えるのか?
そもそも、なぜこれほどまでにモバイルバッテリーの事故が増えているのか。製品評価技術基盤機構(NITE)のデータによると、2020年から2024年までの5年間に報告されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1860件に上り、その約85%が火災事故につながっているそうだ。
事故の大きな要因として挙げられるのが、以下の3点だ。
- 異常な高温環境
リチウムイオン電池は熱に弱く、気温の上昇とともに事故が増える傾向にある。特に夏場の車内や直射日光の当たる場所での放置は、電池内部の温度を上昇させ、発火リスクを飛躍的に高める。 - 品質のバラつきと劣化
近年、ネット通販などで流通している安価な「非純正バッテリー」の中には、安全保護装置が不十分なものや、品質管理が甘い海外製が多く含まれているとの指摘がある。また、長期間の使用で内部にガスが溜まり、膨張した状態で衝撃が加わると、内部ショートを起こして爆発的に発火することがある。 - 物理的ダメージ
落下による衝撃や、膨らんだバッテリーを無理に押し込もうとする外力が加わることで、内部の「セパレーター(絶縁体)」が損傷し、ショートを引き起こす。
NITEによれば、事故発生件数は6月から8月にかけての夏季にピークを迎えており、まさに「バッテリーの夏バテ」が火災を招く実態が浮き彫りになっている。
私たちが今日から気をつけるべき「3つの鉄則」
航空機内でのルールが厳しくなる一方で、地上での利用においても事故を防ぐための知識が不可欠だ。NITEは火災事故を防ぐポイントとして、以下の「正しく購入・使用・対処」を呼びかけている。
1. 正しく購入する
- 連絡先が明かなメーカーを選ぶ
不具合時にサポートが日本語で受けられるか、住所や電話番号が実在するか確認する。 - リコール情報をチェック
2020年から2024年の間に、リコール対象製品による事故は360件以上発生している。
過去には、JR山手線の車内で発生した発火事故の原因が、リコール公表済みの製品だった事例もある。 - 「非純正」のリスクを知る
極端に安価な製品は、安全コストが削られている可能性があることを認識すべきである。
2. 正しく使用する
- 衝撃を与えない
地面に落としたり、カバンの中で強い圧迫を受けたりしないよう注意する。 - 高温を避ける
直射日光の当たるダッシュボードや、真夏の車内に放置するのは厳禁だ。
3. 正しく対処する
- 異変を感じたら即中止
充電中に以前より熱くなる、異臭がする、本体が膨らんでいる、といった場合はすぐに使用を中止し、メーカーに相談すること。 - 万が一の発火時は「大量の水」
もし外出先で発火した場合は、周囲の安全を確保した上で、火花が収まったら大量の水をかけて冷却し、可能な限り水没させた状態で消防へ連絡する。
さいごに:便利さの裏側にある「リスク」と向き合う
スマートフォンの普及により、私たちは「電池切れ」という不安から解放されるためにモバイルバッテリーを手放せなくなった。しかし、その小さな筐体の中には、扱いを一歩間違えれば激しく燃え上がる「エネルギーの塊」が詰まっている。
26年4月からの新ルールは、多くの旅行者にとって一時的な不便を強いるものかもしれない。しかし、高度1万メートルという逃げ場のない空間で火災が発生した時の恐怖を考えれば、この規制は「安全」という何物にも代えがたい価値を守るための必須事項といえるだろう。
これからは、機内では座席のUSBポートを活用するなど、モバイルバッテリーに頼らない「空の旅の新しい作法」を身につける必要がありそうだ。
参照:PSマガジン(製品安全情報メールマガジン、2025.07.22 Vol.481)(NITEより)



