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日韓首脳会談・高市首相はなぜ「奈良」を舞台にしたのか? 韓国はどう見たのか

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日韓首脳会談・高市首相

韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が1月13日から就任後初の日本訪問を行い、高市早苗首相との首脳会談に臨む。注目を集めているのは、その会談場所が首都・東京ではなく、高市首相の地元である奈良県に設定されたことだ。

韓国の主要メディアは、この異例の「地方外交」を日本側による最大級の「オモテナシ」と受け止める一方、その裏に隠された高度な外交的メッセージを敏感に感じ取っている。どのように報道されているかを紹介する。

 

首相のホームグラウンドへ招く「特別待遇」

韓国大手紙の中央日報は、今回の奈良開催を高市首相の「空間外交術」と評した。同紙は、過去に安倍晋三元首相がプーチン露大統領を地元の山口県長門市に、中国の習近平国家主席がインドのモディ首相を西安に招いた事例を列挙。首脳会談を自身の政治的基盤で行うことは、単なる実務協議の枠を超え、相手を懐に招き入れる「親密さと特別待遇」の演出であると好意的に報じている。

だが、韓国側の関心は単なる開催地以上に、会談の舞台として有力視されている「東大寺」に向けられている。韓国メディア各社は、東大寺の大仏殿や大仏建立に、国中公麻呂(くになかのきみまろ)や行基、百済王敬福(くだらのこにきしきょうふく)といった「百済系渡来人」が深く関わっていた事実を詳細に紹介した。

特に745年の東大寺建設時期が、660年の百済滅亡から数十年後である点に着目している。国を失い日本へ渡った百済の人々が、その技術と文化で天平文化の象徴である東大寺の建立に決定的な貢献をしたという「古代の協力史」を強調する論調が目立つ。

ここには、朝鮮半島由来の技術が日本の国宝に息づいているという、韓国側の自尊心をくすぐる要素も多分に含まれているようだ。

 

東大寺を輝かせた「黄金」と百済王の末裔

そしてもう一つ、韓国側が強い関心を寄せているのが、大仏を黄金に輝かせた「金」にまつわる物語である。巨大な大仏を完成させるには、表面を覆うための大量の金メッキが必要だったが、当時の日本国内では金の調達が難航を極めていた。

この窮地を救ったのが、陸奥国(現在の東北地方)の長官を務めていた「百済王敬福(くだらのこにきしきょうふく)」だ。その名の通り、百済最後の王・義慈王の直系子孫である彼は、百済由来の鉱山技術を持つ職人たちを動員し、日本で初めて金の産出に成功したとされる。彼が朝廷に献上した九百両もの黄金がなければ、東大寺の大仏はあの輝きを放つことはなかったかもしれない。

韓国メディアはこの史実を、「日本の象徴である大仏の輝きは、百済人の献身によって完成した」という文脈で情緒的に伝えている。

 

中国の「抗日」に対し、日本は「古代の絆」で応酬

このタイミングで古代史がクローズアップされる背景には、緊迫する東アジアの外交ゲームがある。李大統領は訪日直前、中国の習近平主席と会談を行ったばかりだ。その席で習主席は「日本軍国主義への対抗」という第二次世界大戦の歴史を持ち出し、中韓が連携して歴史の成果を守るべきだと訴えた。いわゆる「歴史カード」による日米韓連携への揺さぶりである。

これに対し、今回の「奈良会談」は日本側からの静かなる、しかし強烈なカウンターパンチとなっている。韓国メディアの分析によれば、中国が「近現代の対立の歴史」で韓国を引き寄せようとするのに対し、日本は奈良・東大寺という舞台装置を通じて「古代の友好と協力の歴史」を提示した形だ。

 

革新系世論をも動かす「ソフトパワー」の計算

このアプローチは、李在明大統領の支持層である革新系世論に対しても有効に機能する。彼らは通常、日本の保守政権に対して批判的だが、自国の先祖が日本の国づくりに貢献したというストーリーに対しては、好意的な反応を示さざるを得ない。国中公麻呂や百済王敬福といった具体的な名前が共有されることで、日本に対する親近感や、ある種の優越感を伴う共感が生まれ、対話のハードルは劇的に下がる。

高市首相が選んだ「奈良」というカードは、単なる地元への利益誘導や懐柔策ではない。中国の外交攻勢をかわしつつ、韓国国民の琴線に触れる歴史物語を用意することで、膠着した日韓関係を側面から突破しようとする深謀遠慮がそこにはある。13日からの会談で、両首脳が大仏を見上げた時、そこにどのような対話が生まれるのか。1200年前の黄金の輝きが、現代の外交を動かそうとしている?

 

専門家が読み解く「タカ派首相」の柔軟な戦略

こうした高市外交の意図について、東アジアの国際政治に詳しい専門家菰田将司氏は、幾重にも計算された戦略が見て取れると指摘する。

第一に挙げられるのが、高市首相自身の「タカ派」イメージの軟化だ。台湾有事や安全保障問題での発言から、中韓両国において高市氏は警戒対象となりがちである。そこで、あえて政治色の強い首相官邸を離れ、古都・奈良の文化的空間を選ぶことで、政治的緊張を和らげる「ソフトパワー外交」を展開したといえる。

革新系の李在明大統領に対し、真正面からの政治対立を避け、文化的な共有地盤を示すことで対話の糸口を探る狙いだ。

 

さらに菰田氏が重要視するのは、中国の「歴史戦」に対する巧みな切り返しである。中国が常に「侵略と被害」という近現代のフレームで韓国との連帯(反日共闘)を図ろうとするのに対し、日本側は反論や否定をするのではなく、「それよりも遥か昔、我々は共に大仏を作り上げたパートナーだった」という、より深い歴史の層(ディープ・ヒストリー)を提示してみせた。東大寺を舞台にすることで「百済と日本の協力」を可視化し、中国が仕掛ける分断の歴史を、統合の歴史で無力化しようとする高度な外交メッセージと言えるだろう。

加えて、国内政治的な視点で見れば、東京一極集中からの脱却を外交の場で実践する意味合いも持つ。世界中のメディアが奈良を報じることで、京都や東京以外の観光地としてのプレゼンスを高め、地方創生とインバウンド戦略に直結させる狙いも透けて見える。

百済の末裔たちが技術を注ぎ込んだ大仏の前で、日韓の首脳はどのような未来を語るのか。今回の会談は、単なる近隣国との挨拶以上の、東アジアにおける「歴史と記憶」を巡る主導権争いの場となりそうだ。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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